琥珀色の戯言

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【読書感想】値段から世界が見える! ☆☆☆☆


値段から世界が見える! 日本よりこんなに安い国、高い国 (朝日新書)

値段から世界が見える! 日本よりこんなに安い国、高い国 (朝日新書)


Kindle版もあります。

値段から世界が見える! 日本よりこんなに安い国、高い国

値段から世界が見える! 日本よりこんなに安い国、高い国

内容紹介
イギリス、スペイン、韓国、ケニア、中国、そしてアメリカなど、
世界20ヵ国のさまざまな「お値段」を徹底解明。
「そんなものがなぜ高いの?」「これがそんなに安いとは! 」
という素朴な興味を入り口に、「いくつかの国が共通で抱える悩み」や
「その解決への取り組み」を浮き彫りにする。
また、各国を相対的な「鏡」にすることで、
普段なかなか見えない「日本の真の姿」もあらわに……。
この1冊を読めば、閉塞状態を打開するヒントも多々見つかるはずだ。


世界各国の「ものの値段」に着目している新書。
ネットやテレビなどで、「世界各国の懐事情」みたいなものをある程度は知っているつもりだったのですが、こうして現地の人の話を読んでみると、「知っていると思い込んでいただけ」だったのだな、と痛感させられます。


「日本の物価は高い」と僕はずっと思い込んでいたのですが、これを読むと、必ずしもそうではないことに驚かされます。
とくに、先進国のなかでは、日本の外食産業の「安さ」と「手軽さ」っていうのは飛び抜けているのではないかと。

 スウェーデンの物価は本当に高い。それは消費税のみならず、基本的に人件費が高いからだろう。最低賃金(レストラン業で時給約112クローナ。約1344円)が高い上に、雇用する者は雇用税を支払うので必然的に人件費も上がるのだ。
 よってどんなサービスでも、とにかく値段が張る。たとえばレストラン。通常のランチの値段は日本円で1000〜1500円する。それだけの値段を出しても、ファストフードと同じく、自分で料理をカウンターに取りに行き、食べ終わった後は学校の給食のごとく、返却口で食器などを仕分けして戻さなければならないのが普通。テーブルに座ってウェイターが注文を取りに来るようなランチレストランは珍しいといえる。フルサービスのレストランで夕食をとったりすると、1人当たり400クローナ(約4800円)は軽くかかる。少し贅沢しようものなら1000クローナ(約12000円)くらい請求される。

 イタリア人は大の外食好きでもあるが、外食費はかなり高い。理由の一つが、席料と水代。レストランの席に座るだけで、「コペルト」と呼ばれる席料が2〜5ユーロ(約200〜500円)かかる。水は無料で提供されないため、有料のミネラルウォーターを注文するしかない。
 これらに前菜かプリモ(パスタ類)、メインの料理2皿にワイン、食後のデザートとエスプレッソを加えると、カジュアルなレストランでも、しめて30ユーロ(約3000円)の出費は覚悟しなければならない。比較的安価なピッツェリア(ピッツァ専門店)ですら、ピッツァ1枚、生ビール1杯、エスプレッソのみで20ユーロ(約2000円)。日本のように「定食と生ビール」や「お好み焼きと瓶ビール」で、1000円強で済むという選択肢はない。

 もちろん、いわゆる「途上国」の屋台などでは、安価でさまざまなものが食べられるのですが、先進国のなかでの日本の外食産業の価格、ジャンルの選択肢の広さは、飛び抜けているのではないでしょうか。
 利用する側にとっては、大きなメリットなのですが、それは安い給料や長時間労働など「飲食業界のブラック化」に支えられている面もあるのですよね……
 いまの便利さ、安さは手放したくない、という気持ちもあり、なんだか考え込んでしまう話です。


 この新書を読んでいると、「豊かさ」「貧しさ」とは何だろう?と考えてしまいます。
 日本よりも平均年収が低い「貧しい」国でも、食べものや生活必需品はすごく安く、その代わりに嗜好品・贅沢品は高い、という国もあり、家族の絆の強さや幸福だと感じている人の数を考えると、「経済的なランキングで上位にいることは、一般市民にとっては、必ずしも幸せに直結するものではなない」ような気がしてくるんですよね。
 もちろん、以前の日本のように、いままさに経済的に発展している最中の国には「勢い」や「活気」があって、多くの人が希望を持っている、というのも大きいのでしょうけど。


 そして、日本人が思い込んでいる「グローバリズム」って、「世界標準」ではなくて、「アメリカ化」なのではないか、とも感じます。
 世界の国はみんなそれぞれ、身の丈にあった形で、国民の幸福を求めています。
(もちろん、中には一部の支配者たちの都合で動いている国もありますが)
 アメリカは、成功すれば自家用ジェット機も夢じゃないけれど、医療費や教育費で破産する人もいる、超格差社会
 これが、本当に「日本が目指すべき国」なのだろうか?


 サムスンの隆盛などで日本にとっては気になる国、韓国について、こんな話が紹介されていました。

 そこまでして高い学歴を得て、子どもをエリートの椅子に座らせねばと母親たちが血眼になるのにはワケがある。韓国では肉体労働者の時間当たりの賃金が低いのだ。街で見かける求人募集の時給はファストフード店、スーパーのレジや食堂の店員などが1時間5000ウォン(約340円)ほど。法定最低時給が4580ウォン(約300円)、1日の最低賃金が3万6640ウォン(約2490円)しかない。
 低賃金で仕事に従事してくれる人がいるのは、消費者としてはありがたい。でも彼らの社会的地位が高くなくて賃金も安いとなると、仕事に責任感が伴わず、仕上がりのレベルも日本と比して高くない。「ものづくり」に未来と希望が見えないから、ますます子どもたちの進路は多様性がなくなって、勉強一本に絞られる。
 韓国には日本のような「創業300年」といった伝統を持つ老舗はない。日本をよく知る韓国人が日本をうらやましがることのひとつは、職業の選択肢が広いということ。「手に職」を持った人間が韓国より生きやすいことだ。
 韓国でも、最近では「ものづくり」の職人を主人公にしたドラマがたくさん創作され、「パティシエ」や「バリスタ」になりたいと口にする子どもたちもいる。たくさんの韓国の若者たちが、現在日本で製菓技術やカフェ経営を学んでいる。次世代には「体を動かす仕事」のよさを認める若い韓国人と、それを支える消費者が育っていることを期待したい。韓国は職人の育成が待たれる社会だ。

 ここ数年、CSで放送されている「韓流ドラマ」の予告をみていて「なんかパティシエとか、パン職人とは、食べものの話が多いなあ」と感じていたのですが、それには、こんな「事情」もあったのですね。
 こういう「職人の尊重」も、日本にとっては「大事な武器」のはずなのに、いまの日本は、それを活かしきれていないように思われます。


 この本を読む前は「ものの値段って、国によって、びっくりするような格差があるんだろうな」と思っていたのですが、読んでみると、意外に「こんなに安いのか!」あるいは「高すぎ!」って驚くような価格はほとんどありませんでした。
 それぞれの国に済んでいる人の話を読むと、安いものには安さの、高いものには高価な理由があるのですね。

 
 いまの世界では、それぞれの国の「税金のかけかた」に、そのお国柄が出るのかな、と僕は感じました。
 イギリスの付加価値税というのは、日本の消費税に相当する間接税なのですが、現在の税率は20%と、日本よりかなり高くなっています。
 しかしながら、この付加価値税は、嗜好品以外の食料品や子どもの衣料品や出版物などは免税。ガス、電気料金などは課税率が5%と低く設定されています。

 ちなみに、20%の課税率というのはなかなかシビアなものである。野菜や果物、パン、牛乳などの食料品は「生活必需品」なので免税。ケーキやチョコレートなどは「嗜好品」と見なされて課税。ビスケットはプレーンなものは無税だが、表面にチョコレートがかかっていると課税。というわけで、マクビティ社のダイジェスティブ・ビスケット(500グラム)は1ポンド5ペンス(約140円)なのに対し、チョコレートがかかっている同社のチョコレート・ダイジェスティブ・ビスケット(400グラム)は、税込みで1ポンド93ペンス(約250円)と2倍近い値段となる。

 こういうのは、どこかで線引きしなければならないとは思うのですが、ここまで厳密にというか、細かくやっているということには驚きました。たしかに、チョコレートは嗜好品、だろうけど、ビスケットだけなら生活必需品なのか……


 これだけでは全く紹介きれていないほど「話のタネ」に溢れた新書ですので、興味を持たれた方は、ぜひ読んでみてください。

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