琥珀色の戯言

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【読書感想】ヨハネスブルグの天使たち ☆☆☆


ヨハネスブルグの天使たち (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

ヨハネスブルグの天使たち (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)



もうKindle版も出ています。

ヨハネスブルグの天使たち

ヨハネスブルグの天使たち

内容紹介
伊藤計劃が幻視したヴィジョンを、 J・G・バラードの手法で描く 新鋭SF作家の話題の書!
9・11の現場からアフガンまで──世界5都市にて、日本製の機械人形の存在を通して人の行為の本質を抉り出す連作短篇集。
ヨハネスブルグに住む戦災孤児のスティーブとシェリルは、見捨てられた耐久試験場で何年も落下を続ける日本製のホビーロボット・DX9の一体を捕獲しようとするが──泥沼の内戦が続くアフリカの果てで、生き延びる道を模索する少年少女の行く末を描いた表題作、9・11テロの悪夢が甦る「ロワーサイドの幽霊たち」、アフガニスタンを放浪する日本人が"密室殺人"の謎を追う「ジャララバードの兵士たち」など、国境を超えて普及した日本製の玩具人形を媒介に人間の業と本質に迫り、国家・民族・宗教・戦争・言語の意味を問い直す連作5篇。才気煥発の新鋭作家による第2短篇集。


宮内さんのデビュー作『盤上の夜』は、ボードゲーム好きの僕にとってはたまらない作品だったので、今回も楽しみにしていました。
しかしながら、読んでみての率直な感想は、「うーん、僕にはちょっとついていけないなこれは……」だったんですよね。
ヨハネスブルグをはじめとする、世界の紛争地を舞台とし、DX-9という「狂言回し」を用いて、「言語」や「宗教」「民族」などの「現代の問題」を描いた連作短篇なのですが、僕はちょっとついていけませんでした。
というか、「ありきたりなことを、仰々しく書いているだけなんじゃないか?」という感じがしてしまって。


いや、SFというジャンルは、たしかに「いかに衒学的に、ムードや世界観をつくりあげるか」が重要な面はあるんですよね。

そういう意味では、ディテールというか、描かれている世界の空気が伝わってくるし、読んでいてなんだか深刻な気分には浸れるのだけれども、「だから何?」と思ってしまうのも事実です。


伊藤計劃さんとかJ・G・バラードさんの名前が挙げられているのは、宮内さんにとって、幸福なことなのだろうか?
僕は伊藤計劃さんの作品は大好きなのですが、伊藤さんの作品には、もっとサービス精神があったのではないかと思うんですよ。
読者を喜ばせたい、という悪戯心とか、余裕があった。
でも、この『ヨハネスブルグの天使たち』って、「こんなに資料を調べました」「真剣に世界のことを考えてます」っていうのが、伝わり過ぎてきて、ちょっとつらい。
すごく誠実な作品だとは思うのですが。
内容的には、手塚治虫先生や石ノ森章太郎先生が、何十年も前に描いていたもののような気がするし。
伊藤計劃さんの作品よりも、こちらの方が好き、という人も少なくないはずですが、僕はこういうテーマだからこそ、エンターテインメント性を求めてしまうのです。

 メディアのCGは貪欲に表現力を上げ、リアリティを増し、人間の認識を越え、そこでユーザーはようやく気がついた。現実の世界が、思ったほどリアルではなかったことに。自然も、人の動きも、CGには及ばず、思いこみこそが世界をリアルに見せていたことに。

カッコいい作品なのですけどね、本当に。
むしろ、伊藤計劃さん云々は、宣伝文句に使わないほうがよかったんじゃないかな……
それを意識しながら読むと、ついつい比較してしまうから。


ちなみにこの作品、直木賞候補になっています。
選考委員たちがどう読むのか、ちょっと興味深いです。

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