琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

【読書感想】野球と余談とベースボール ☆☆☆☆


内容(「BOOK」データベースより)
日本一とワールドシリーズチャンピオンの両方を経験した男・田口壮。2012年に20年間と浪人1年の現役生活にピリオドを打った。2013年は新米プロ野球解説者・田口壮として、あらたなステージに挑戦する。本書は、その田口壮氏に現役時代ではなかなか語れなかったメジャーリーグと日本プロ野球の比較について書いてもらった。「文章も書ける野球選手」元メジャーリーガーの、思わず「フッ」と笑ってしまう日米野球比較おもしろ話。

昨年の夏に現役を引退した田口壮選手。
渡米前のオリックスでは、オリックスの日本一に大きく貢献し、イチロー選手と仲良くしていた姿も印象的でした。
メジャーリーグに移籍して、最初はかなり苦労されたようなのですが、持ち前の好奇心と適応力を発揮して、「不動のレギュラーではないけれど、チームに必要不可欠なバイプレイヤー」として、ワールドチャンピオンも経験されています。
田口選手は、2Aからワールドチャンピオンまで、ある意味「もっとも幅広い階層のアメリカ野球」を経験してきた選手でもあり、この新書には、その実体験が軽やかに語られているのです。
WBC関連の記述が3分の1くらいあるので、WBC前に読んでおけばよかったな、というのはあったんですけどね。


今年の春の選抜高校野球大会で、済美高校の安楽投手の「酷使」が取り沙汰されていましたが、田口選手は、この新書のなかで、アメリカの「高校野球」についてこう紹介しています。

 ちなみに、僕がアメリカにいた時のメジャーリーガーたちは、日本の高校野球のシステム、「甲子園という聖地があって全国の4000校近くが日本一を争うという大会」にしきりに感動していました。
「そんな大規模な大会を一発勝負のトーナメントで競い合うって、オモロイ1」
 彼らは口を揃えてこう言ったものです。そして、みな一様にこうも続けたのです。
「俺もやってみたかった!」
 アメリカの場合、全米ナンバーワンを決定するのは大学になってからなので、高校時代は、州ナンバー1までしか大会が開催されていないのです。「俺が俺が」と自己主張の激しいメジャーの世界。そんな彼らが、「世代のナンバー1」を決められる日本の高校野球のようなシステムに参加したいと心から叫んでいたのは、実に興味深い「お国柄」でした。

安楽選手に関して、「アメリカでは投手の肩は消耗品と考えられており、投球制限が行われている」という話をよく耳にしたのですが、これを読むと「アメリカの高校野球には『甲子園』的なものが存在しない」ことが、結果的に選手の酷使を抑制しているのではないかと思われます。
まあ、当の選手たちは「そんな大会があるのなら、出てみたい」と言っていたみたいですけど。


各世代の「国内ナンバー1を決めずにはいられない」日本と、「高校生だったら、各州のナンバー1くらいまで決めれば十分」と考えているアメリカ。
そもそも、国の広さや人口が違うので、比較が難しいところがあるのですが、「選手に無理をさせない」というよりは「選手が無理をしなければならない状況をつくらない」ようになっているんですね、結果的には。


また、メジャーリーグで日本人の内野手が苦戦している理由として、このような考察をされています。
(井口選手や松井稼頭央選手の(日本での実績からみての)メジャーリーグでの苦戦に言及したあと)

 日本を代表するトッププレイヤーにして苦戦するという現状。
 専門外のことなので、あまり偉そうには言えませんが、僕が感じているのは、打撃ではなく、守備面での適応に苦労したのではないか、ということ。
 外野手に比べて内野手が苦戦している原因のひとつがケガです。ほとんどの選手が膝を痛めているのです。
 おそらく、外野手にはなくて内野手だけにある「接触プレー」が、日本とアメリカでは違うのではないかというのが、いまのところの僕の分析です。
 メジャーリーガーは、打球のスピードも、スライディングのスピードも日本とはまったく別次元のものです。しかも、でかくて足の速い選手がゴロゴロいます。速い打球をいかに捕球して、大きくて速い選手のスライディングをいかにかいくぐってアウトにするか。当然これまでとは違う動きが要求されるわけで、さらに足もとには日本よりずっと硬いグラウンド。それらの条件が、日本とはまったく違うはずで、ケガにつながってしまうのでしょう。そのあたりを解決できれば、技術的には日本人内野手もメジャーで充分通用するし、それ以上の活躍だって期待できると信じています。

 日本を代表する選手なら、「技術的には」日本と同じパフォーマンスが発揮できれば、メジャーでも通用できるはず。
 僕はそう思っていたのですが、そんな簡単な話ではないようです。
 先日『情熱大陸』にヤンキース黒田博樹投手が出演していたのですが、広島カープ時代から黒田投手をみてきた僕にとって、黒田投手が「ツーシームのおかげで飯を食えている」と言っていたのはちょっと意外だったのです。
 メジャーに移籍してからの黒田投手のピッチングを詳細に観る機会がなかったせい、でもあるのですけど。
 カープ時代の黒田投手は、速球でグイグイと押して、三振を重ねていくスタイルでした。
 それがいまは、ツーシームでバットの芯を外し、打たせてとる頭脳的なピッチングをするようになっていました。
 松井秀喜選手も、メジャーリーグではバッティングフォームを巨人時代から変えたそうですし、日本のトッププレイヤーでも「さらなる向上心を持って変えていく」ことができないと、メジャーリーグには適応できないのです。
 そして、内野手の場合「接触プレーに強いこと」も求められるんですね……
 日本での内野手、とくに二遊間の選手には、小柄で俊敏なプレーをするイメージがあるのですけど、接触プレーや硬いグラウンドにも適応できるような「身体的な強さ」も求められるのです。
 日本プロ野球の中継を観ていると、外国人選手の「ダブルプレー崩し」に「あんなラフプレーしやがって!」と苛立つこともあるのですが、彼らにとっては、あれが「当然のプレー」なんだよなあ。


 稲葉選手が「1球」でバントを決めなければならなかった場面の分析や、「セイバーメトリックス」への違和感など、ずっと現場にいて、ついこのあいだまで「現役」だった選手ならではの視点も、興味深いものがありました。
 田口選手は、話がうまいですよね本当に。
 メジャーで直面した困難に対しても、けっして「苦労自慢」にならずに、「苦境にみえる場所で、どう自分と向き合ってきたか」を誠実に話してくれていますし。


 田口さんは、セイバーメトリックスで選手の価値が「数値化」されることによって、年齢が高い選手が「コストパフォーマンスと期待値の低さ」から切り捨てられている現実を嘆いています。
 アメリカではもともと、「選手の年齢」はあまり気にされていなかったそうなのです。

 アメリカ野球では、以前は選手同士が、お互いの年齢も知らず、へたをすると、実況をしているMLB担当のアナウンサーまでもが、選手の年を知らないことだってありました。資料にはもちろん書いてあります。ただ、ほとんどの人にとっては、目の前のパフォーマンスがすべてであり、選手の年齢に興味がなかったのです。だから気にしないし、資料も見ない。僕が32歳で海を渡り、メジャーにやっと腰をすえたのが34歳。その時、実況アナウンサーが「日本から来たこの若者が!」と叫び、ヨメが大笑いしました。

日本人は幼くみえる、とは言いますが……
高齢でも大活躍している選手が多いイメージがあるので、メジャーリーグは、日本ほど年齢にこだわっていないようにみえるんですけどね。
それに、日本の場合は選手の移籍があまり活発ではなく、贔屓のチームの選手は「何年前に高校生(あるいは、大学生、社会人)のときドラフトで指名されたか」で、だいたいの年齢はわかります。
カープファンとしては、「マエケン、あと何年でFAかな……そういえば大竹は今年FAだな……」というように、『ファイナルファンタジー』の「しのせんこく」のように、年齢、所属年数をカウントしてしまうという面もあり……


野球ファンにとっては気軽に、面白く読める新書だと思います。
それにしても、日本にいれば、もっとお金も成績も残せたかもしれないのに、メジャーリーグへの挑戦を「苦労したこと」も含めて楽しそうに語っている田口選手は、本当に素敵な人生を送っている人ですね。

アクセスカウンター