琥珀色の戯言

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【読書感想】新卒で“給食のおばさん"になりました ☆☆☆


内容(「BOOK」データベースより)
調理師学校を卒業したルミは、病院の給食調理師として晴れて社会人デビュー!しかし、そこは女だらけの職場。ひと筋縄ではいかない、濃い~い先輩方に囲まれ働く毎日は…!?第21回コミックエッセイプチ大賞“A賞”受賞。


この本のタイトルを最初に見たとき「ああ、学校給食のおばさんになったんだな」と思ったのですが、実際は病院の給食調理師さんの話でした。
僕にとっては、より身近なところにある仕事のはずなのですが「給食」=「学校」というイメージって、なかなか抜けないものですね。
「自分の知らないお仕事についての本」には興味があるので、購入して読んだのですが、いまではコンピュータ入力ひとつで簡単に変えられる「患者さんの食種」なのに、それが患者さんに届くまでには、こんなにたくさんの行程があるのだなあ、とあらためて思い知らされました。
「せっかく減塩食を出したのに、『味が薄い!』と醤油をドバドバかける人」なんていうのは「あるある!」って頷いてしまいましたよ。
入院中の人の「食事」への期待とこだわりって、本当にすごいものがある。
そして、「ちゃんと食べられる」というのは、体調の大きなバロメーターでもあります。
食べてほしい人はあまり食が進まず、糖尿病などで食事制限が必要な人は、いくらでも食べられる、あるいは、隠れて食べてしまう、なんてこともありがちです。


このコミックエッセイを読んで、最初に引っかかったのは、著者が純粋な「新卒」ではない、ということでした。
いや、「看板に偽りあり!」って憤っているわけじゃなくて、高校卒業時に某テーマパークに就職した作者は、月70時間以上の残業や上司のセクハラに悩まされ、1年間で退職し、専門学校に通って、調理師免許を取得したのです。


そして、その「第二の就職先」を選ぶときに、まず考えたのが「夢や希望より、条件第一!」。
「深夜勤務はきつい」「保険はあったほうがいい」「週休2日はほしい」
その希望を満たしてくれたのが「病院の給食調理師」だったのです。


一度「夢や希望を優先した就職」に挫折した人が、「条件第一」で選んだ仕事。
こういう、コミックエッセイって、やっぱり、「夢をかなえる」とか「ちょっと特殊なピンチ」のことが書かれていることが多いじゃないですか。
でも、この本には「誰にでも起こりえるようなゆるやかな挫折と、そこからどう発想を変えて生きていくのか」が、けっこう書かれているのです。
「女の職場」で、おばちゃんたちの理不尽な仕打ちに耐えていく作者の姿をみながら、「こんな人でもやっていけないほど、最初の『某テーマパーク』って、キツイ職場だったのか……」と僕は考えずにはいられませんでした。
「イメージは良いけれど、ブラックな職場」と「地味で『発展性』は無さそうだけど、条件の良い職場」どちらを選ぶのか?
もちろん、「イメージも条件も良い職場」がベストなのでしょうけど、それはなかなか難しい。
「某テーマパーク」みたいな「夢のある職場」は、「働く若者の夢や、やる気を搾取して、使えなくなったら次の人に入れ換える」なんていうことも少なくないようです。
「条件で選んだほうが良いタイプの人」も、いるんですよね絶対。
いや、むしろそちらのほうが「多数派」なんじゃないかな。


調理場では重いものを抱える仕事が多くて、肉体的にもけっこうキツそうだし、人間関係もめんどくさそう。
仕事も何十年も続けていくには、ちょっと単調にみえるし。
それでも、「仕事をして、お金を稼いで、自分で生活していく」ということへの「小さな充実感」や患者さんに「美味しかった」と言ってもらえたとき、仕事を覚えていくことの喜びなどもあるんですよね。


この「新卒で”給食のおばさん”になりました」ってタイトル、実はあんまり好きじゃないんですよ。
だって、この言葉を深読みすれば「普通、新卒で”給食のおばさん”になんか、ならないよね……」っていう著者の自虐を感じてしまうから。
率直なところ、僕もそういう「蔑視」を共有しているところがあるからこそ、過剰に反応してしまうのかもしれませんが……


これから就職、あるいは就職活動を控えた人は、一度読んでみると良いのではないでしょうか。
自分にとって、仕事とは何なのか?
「世間のイメージの良さ」と「自分のやりがいや、向き不向き」を混同してしまっているのではないか?
それにしても、こんなに「条件が良さそうにみえる職場」でも、いろいろあるんだよねえ。
本当に、働くというのは、大変だ。

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