琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

【読書感想】いつも一言多いあのアナウンサーのちょっとめったに聞けない話 ☆☆☆☆


内容紹介
「朝の顔が突然テレビから消えた! 」
ニューヨーク赴任中の経費不正使用騒動で世間を賑わせた
元フジテレビアナウンサー長谷川豊氏が執筆した初の単行本。


13年4月の退社直後から始め、2800万PVを記録したブログには書けなかった真実も明らかに。


知られざる局アナウンサーの日常など、
著者だからこそ書ける「ちょっとめったに聞けない話」を完全網羅。


著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
長谷川 豊
99年に立命館大学を卒業し、フジテレビ入社。朝の情報番組『とくダネ!』や競馬実況の現場で活躍。10年からニューヨークに赴任。13年、フジテレビを退社しフリーアナに転向。講演、執筆など多方面で活躍中(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)


 僕も長谷川さんのブログは読んでいました。
 テレビ局にも、こんな理不尽で陰湿な「社員イビリ」みたいなものがあるのか……とあきれ果てながら。


 この本、そのブログを書籍化したものなのだろうな、と思っていたのですが、長谷川さんがアナウンサーを目指したきっかけから、アナウンサー試験の内情、アナウンサーになってからの同僚やスタッフとのエピソードなど、あの「横領よばわり事件」以外の話もたくさん書かれています。
 長谷川さんが競馬実況にこんなに熱い気持ちを抱いていたというのも、ちょっと意外ではあったんですよね。
 「同僚からみた、女子アナの日常」なんていう話もありますし。


 ただ、率直に言うと、読みながら、「この人、感じ悪いなあ」と何度も思い、手放しで応援する気分になれなかったのも事実です。
 長谷川さんは、高校時代柔道部だったのですが、当時から「柔道ほど本気にはなれないけれど、弁論や朗読には自信があった」そうです。
 最後の大会、柔道では地区予選で敗退してしまいます。

でも、かたや、弁論や朗読では、自分でもなぜかわからないが、大会に出る前に、すでに僕が勝つことは自分でわかってる。間違いなく僕が一番話すのがうまく、どう転んでも、僕が選ばれるのが自分でもわかっていた。なんだか、自分の将来を無理やり決められているようで、あまり当時は気分が乗りきらなかった。
そんな複雑な心境の中でも、結果だけはついてきてしまう。弁論大会では、結果、全国3位という成績を収めた。朗読の部門では、10月に行われた国民文化祭という大会で、ついに全国優勝した。その結果を僕は受け止めるしかなかった。


人間には適性がある。


みんながみんな、自分のやりたいことができるわけじゃない。じゃあ、運命に身を任せてみることも大切な気がした。適性があるのなら、僕の持つ適性を使っていこう。その適性を使って、一人でも多くの人の役に立っていこう。

いや、長谷川さんは「才能だけの人」じゃないんです。
ちゃんとアナウンサーになるための努力もされているし、前に引用した部分などは、もしかしたら、照れ隠しでヒールを気取っているだけなのかもしれません。
でも、やっぱり、「世の中にはこういう物怖じしない人っているんだなあ」とか、「みんなが憧れる職業に『適性があるから、そんなにやりたくもなかったけどやってみるか』だってさ……」とか、言いたくもなるんですよ。
そう、僕の僻み妬み嫉み。
ただ、この本を読んでいると、長谷川さんというのは、同性の一部にとっては、そういうネガティブな感情を誘発しやすい人なんじゃなかろうか、とは思ったんですよね。
妬むほうが悪いんだろうけど……


アナウンサー試験の「狭き門」を突破したこと(ちなみに、アナウンサーを目指している人は、この本の「アナウンサー試験の現実」を紹介しているところだけでも、目を通しておいたほうが良いと思います。参考になるというようり、絶望する可能性が高いですけど。
まあ、本当に「歯に衣着せない人」だなあ、と。


そんな長谷川さんの「まっすぐさ」は、あの「ライブドアによるニッポン放送買収騒動」のときにも、発揮されます。

「フジの経営陣、大丈夫なんですか?(笑)」


いや、ほんと。相当に言われました、それくらいの大騒動でした。「経営の基本がなってない」とか、「なんでこんな状態、ほったらかしにしてるのか理解できん」とか、けっこう言われたなー。でも、そんなこと言う人たちも、ほんとに、そこまでちゃんと対策してるのか? なんて気になったけど。
そんな、フジテレビの経営陣にとっては、消し去りたい騒動。早く別の話題に行ってほしくてたまらない世間の目。そんな中、長谷川、思いっきりやっちゃったんです。懐かしいですねー。


ホリエモンの擁護(どーん)。


いやー…、
ホント、ここまで書いておいてなんだが……、僕って間違いなく、


社会人に向いてないことがわかる。


正直なんだけどな〜。嘘がつかない人間なんだけどなあー。うっひゃっひゃ!


ま、今でこそ笑い話なんですが、そう。どう考えても、って言うか、僕より下の世代の人たちって、みんな思ってたでしょ? あの時。


いや、ホリエモンの言ってることの方が正しくないか?

これも、「内心思っていただけ」なら、問題にならなかったのかもしれませんが、堀江元社長の記者会見で、長谷川さんは、みんながビビッて手を挙げられないなか、堀江さんに歩み寄るような発言をしてしまうのです。
あのとき、「ホリエモンの言っていることの方が正しくないか?」と思っていた人は、おそらく、長谷川さんだけではなかったはずです。
僕も一視聴者として、フジテレビや芸能人たちの「とにかくホリエモン憎し」で動いている姿に、「そんなにテレビって偉いのか?」と感じましたし。
テレビだって、黎明期にはラジオや映画にイロモノ扱いされていた時期があったのに。


まあしかし、態度にあらわしてしまったら、そりゃ「偉い人たち」に睨まれるのもむべなるかな。
この本を読んでいると、その合理的な考え方とか、「強者であることを隠そうとしない」潔さとか、自分が信じるもののためには、ちょっとした妥協も許さないところとか、けっこう堀江さんに似ている人だなあ、とも思います。
堀江さんも、ライブドア事件のとき、内心で舌を出しながらでも素直に罪を認めたフリをしていれば執行猶予がついた可能性が高いと言われていますし、長谷川さんも、ホンネを隠して立ち回るか、あるいは、あの「横領よばわり事件」の際に「フジテレビを訴える」という選択をすれば、おそらく辞めなくてもすんだはずです(そして、長谷川さんを傷つけた人たちに、大きなダメージも与えられたはず)。
にもかかわらず、長谷川さんは、己の「美学」に従って、お世話になった人たちのいる会社を訴えなかったし、自分を陥れた人物の名前も明かしていません(関係者が読めば、すぐ見当はつきそうなのですが)。


また、この本を読んでいて意外だったのは、あの『とくダネ!』の小倉さんが「昔から人見知りで、シャイな人」だというところでした。
あの有名アスリートに、馴れ馴れしく語りかける小倉さんが?
この本での、長谷川さんが苦境にあるときの小倉さんのフォローを読むと、「ああ、たしかに長年第一線でやっている人には、それだけの魅力があるものなのだな」と感心してしまいました。
芸能人っていうのは、表に出しているキャラクターと、普段の姿は必ずしも一致しないものですよね。
お笑い芸人がそうであるように、ニュースキャスターにも、そういうところがあるのだなあ。


いやしかし、この人は敵にはまわしたくないよなあ。
ネット上で誹謗中傷のコメントを送ってくる人への追跡調査とか、フジテレビ内部の各部署に少しずつ違う情報を流して、誰が自分を陥れようとしているのか、試してみたりもしています(『DEATH NOTE』のLみたい!)


ブログでのネガティブコメント攻撃の一例として、こんなコメントが紹介されています。

 長谷川さんのブログを拝見している、恥ずかしくなりました。
 以前、フジテレビに出社する途中のりんかい線で長谷川さんを見かけましたが、電車の中で携帯で話をするなど、マナーの悪い人だと感じていました。
 もっと冷静に自分を見つめなおして、前向きに歩まれることを期待します。
 このブログもやめられた方がいいと思います。

さて、このコメントですが、どう思われますか? はい。僕は、


見事だ!


と唸りました。このコメントは1万8000件ほど届いた僕のブログに対するコメントの中でMVPを贈りたいと思っています。

このあと、長谷川さんは、このコメントの嘘を暴いていくのです。
自分は電車の中で携帯を使わない、そして、何より「りんかい線は地下で、電波が入らないですから!」

うっかり、このコメントを承認していたらどうなっていたでしょうか?
僕はマナーの悪い人間、という「先入観」を持たれてしまうんじゃないでしょうか?
これがインターネット社会です。


テレビの場合、情報を操作するっていっても、コメントの一部を抜粋するなど、本当に根も葉もないところで話を作り上げることって結構難しいんですね。でも、インターネットは違う。証拠がなくても、火のないところでも、なんでも書ける! なんでも作れる! そして、評判を上げることも下げることもできる!


まるで心配してるような、落ち着いたトーン。普通の良心的な批判コメントに見せかけて、実は巧みな「情報操作」を行う。これって、


「本当に素人がやってること」


なんでしょうか?

いやまあ、こういうのって、本当にたくさんあるんですけどね。
こういう「印象操作」って、積み重なればけっこう効いてくるものだし、「誹謗中傷」として訴えるのもなかなか難しい。「見間違いでしたすみません」と逃げられてしまえば、それ以上は追及しにくい。
「こういうことをやっているプロ」が実際にいるのかどうかは、わからないのですが……


うーむ、長谷川さんに対しては、ちょっと複雑な感情もあるのです。
この人は正しいけれど、僕は苦手なタイプだなあ、とか。
でも、「アナウンサーになって、有名人になることを自ら選んだのだから、『有名税』も引き受けるのが当然なんじゃない?」と思ったとき、僕はふと、自分自身のことを考えてみたのです。
「医者に自分でなったんだから、36時間連続で一睡もせずに働かされても、しょうがないんじゃない?」
そんなふうに言われることって、あるのです。
「いや、それはもう、職業として受け入れざるをえないレベルを超えているだろ、そこまでやるのは、想定外だよ……」
自分のことではそう思うのに、相手が華やかな職業だと、ついつい、「それが当然」だとみなしてしまうのですよね、僕自身も。

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