琥珀色の戯言

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【読書感想】凱旋門賞とは何か ☆☆☆


凱旋門賞とは何か (宝島社新書)

凱旋門賞とは何か (宝島社新書)

内容紹介
ここ数年、毎年のように日本馬がチャレンジし続けているフランスのロンシャン競馬場で行われる凱旋門賞。これほどまでに日本競馬関係者、競馬ファンが熱視線をそそぐ「凱旋門賞」とはいかなるレースなのか。「世界のホースマンの夢」ともいわれる世界最高峰のレースの歴史と役割、そしてその夢に挑戦し続けた日本馬、日本のホースマンの軌跡を振り返りながら、「凱旋門賞」を多角度から論じていく新書です。


 昨年(2012年)の凱旋門賞は、日本の競馬ファンにとって、ゴール直前で歓喜の瞬間がするりと逃げてしまうという、忘れられないレースになりました。
 オルフェーヴルは、強かった。
 これまで凱旋門賞に挑戦した日本馬のなかで、まちがいなく、もっとも「凱旋門賞馬」に近づいたはずです。


 しかし、「競馬は日本ダービー有馬記念のときに、宝くじ感覚で馬券を買うくらい」という人たちにとっては「凱旋門賞」というのは、「なんだかマスメディアがすごいすごいといっている、フランスの大きなレース」くらいのイメージだと思うのですよね。
 あるいは「馬のオリンピック」みたいな「世界で唯一の大レース」だとか。


 僕の世代(1970年〜1980年生まれ)にとっては、凱旋門賞というのは『ダビスタ』で究極の目標のひとつであり、漫画『風のシルフィード』でもクライマックスとなったことで、競馬マニア以外にも、かなり知られるようになりました。
 実際、海外競馬で他の有名レースといえば、ドバイワールドカップブリーダーズカップ、ということになるのでしょうが、ドバイワールドカップヴィクトワールピサが優勝し、アメリカのブリーダーズカップは最高峰のレースがダートということで、芝馬のほうが評価されがちな日本競馬では、あまり挑戦する馬がいないんですよね(アメリカの「ダート」は、日本のダートとちょっと質が違って、なかなか日本の実績馬にとっても適応が難しいという面もあります)。


 この新書、そんな「凱旋門賞」入門という一冊です。
 なんか世間ではオルフェーヴルだ、キズナだと盛り上がっているし、競馬ファンとしては「凱旋門賞に勝って世界一だ!」なんて思いつつも、それが実際にどんな位置づけのレースなのか、よく知らない、という人は多いと思うのです。
 そういう「競馬は好きだし、凱旋門賞という名前は知っているけれど、なぜそんなにこのレースばかりが注目されるのか?」と疑問に感じている人が、オルフェーヴルキズナの挑戦を前に予備知識を得ておくための新書なんですよね、これ。
 ですから、「そもそも、競馬に興味がない」という人には、ちょっと敷居が高いだろうし、月刊『優駿』とかを読んでいて、詳しく紹介されている名馬たちのリスト(リボー、シーバードダンシングブレーヴパントレセレブルザルカヴァ)を見て、「なんでラムタラが入っていないんだ?種牡馬成績が悪かったから、なのかな……)」なんて思ってしまうような人(僕のことです)には、「そのくらいは知ってるよ」という内容です。


 1〜2時間くらいで、ざっと読めて、ひととおりの知識を得られる、という意味では、まさに「過不足ない内容」ではあります。
 

 僕がここで強調したいのは、「凱旋門賞は世界一のレースながら最強馬決定戦ではない」ということではありません。競争馬には距離適性というのがあり、それぞれの距離のカテゴリーでチャンピオンがいる、ということを理解したうえで、凱旋門賞に目を向けてください、と言いたいのです。
 現在は、世界的にレース体系が整備され、短距離や中距離に特化した馬も高く評価されるようになりました。しかしそれでも、主流であり王道であるのは2400m路線です。その距離に適性のありし者、選ばれし者たちによる頂上決戦には最大限の敬意を払わなければならないのです。

 このあたりが競争馬の「強さ」を量ることの難しさでもあります。
 僕は長年の競馬歴のなかで、「最強」のはずの凱旋門賞馬が、日本の軽い、スピードが出る馬場に合わず、惨敗してきたのを何度もみました。
(逆に、日本の最強馬たちも、ロンシャン(凱旋門賞が行われる競馬場)の馬場に適応できずに、あるいは遠征にともなう体調不良で、信じられないような惨敗を喫しています)
 正直、日本で活躍できる馬というのは、適性としては、あまり凱旋門賞には向いていないのではないか、と僕は感じるのですが、それでも、多くの関係者が「凱旋門賞制覇は日本の競馬に関わる人間たちの夢であり、日本国内のG1レースをどんなに勝っても得られない栄誉がある」と考え、凱旋門賞に挑戦を続けています。
 凱旋門賞というのは、日本の競馬関係者にとっては、ある種の「ロマン」であり、「世界に日本の競馬を認めさせるための最後にして最大の壁」なのです。


 この本のなかで、ダンシングブレーヴが優勝した1986年のレースのことが紹介されていました。

 この追い込みは、本当にすごかった……
 このダンシングブレーブ、のちに種牡馬として、日本に輸入されているんですよね。


 昨年のオルフェーヴルのレース、何度見なおしてみても、「オルフェーヴルがこのまま勝ったんじゃないか」とゴール寸前まで思ってしまうのです。
 勝ったソレミアには「欧州競馬の意地」が乗り移っていたのではないか、そうとでも考えないと、ありえないようなソレミアの走りでした。


 これを読んでいて、ちょっと面白かったのが、フランス競馬のオッズ表示の話です。

 2006年の凱旋門賞当日には、こんなことが起こりました。ディープインパクトを応援するために日本から駆けつけた多くのファンが、こぞってディープの単勝を買いました。単勝オッズが何倍になるかわからず、最初から買うと決めていた人も多かったはずです。オッズが確認できなくても関係なし。みんな、ディープの単勝を買いまくりました。日本人だけでなく、本気でディープインパクトに期待し、単勝を購入したフランスのファンも一定数は存在したことでしょう。
 そして、ひとつ前のレースが終わり、凱旋門賞単勝オッズが場内のモニターに映し出されました。
 
 ディープインパクト 1.1倍

 ウォォォォォォ!!

 僕は現地にいなかったのでリアルに体験はしていませんが、伝え聞いた話によると、その瞬間、ロンシャン競馬場はざわめきとも歓声とも違う、異様な大声に包まれたそうです、声をあげている人の大半は、現地のフランス人。「なんだこれは〜!?」「信じられない!」と誰もが目を見開き、尋常ではないほどの驚きの表情を浮かべていたといいます。

 実は、フランスの競馬場では、「次に発走するレース」のものしか、オッズが表示されないそうなのです。
 2つ、3つ先のレースや、メインレースのオッズは、競馬場内では全くわからない。
(ネットでは検索できるそうなのですが、日本ほどサイトが充実しておらず、フランス語なので、ほとんどの日本人は利用できなかったようです)
 「オッズ関係なしで、ディープを買う!」と、オッズも見ずに大金をぶち込んだ日本人が大勢いたため、こんなオッズになったんですね。
 そりゃ、フランス人もびっくりでしょう。
 いくら鳴りもの入りで登場とはいえ、ディープは海外初出走で、そのレースには地元の有力馬も出走していたのですから。
 ちなみに、そのオッズをみて、ヨーロッパの実績馬を買いに走って大儲けした日本人もいたそうですが……
 

 僕も今年こそ、ぜひロンシャンに!なんて夢想していましたが、やはり難しいようで、テレビで「その瞬間」を見守りたいと思います。
 でもなあ、勝ってほしいけど、勝ってしまったら、ものすごく嬉しい一方で、最後の目標が達成されてしまった、一抹の寂しさもありそうだよなあ。

 

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