琥珀色の戯言

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【読書感想】トラウマ恋愛映画入門 ☆☆☆☆☆


トラウマ恋愛映画入門

トラウマ恋愛映画入門

内容紹介
激しい愛、ヒドい愛、みにくい愛、恥ずかしい愛。そして素晴らしい愛。人生で経験するすべての愛がここにある。
心に爪痕を残す、決して忘れることのできない恋愛映画の極意を、貴方だけに伝授します。


【紹介作品】
オクテのオタク男はサセ子の過去を許せるか?★『チェイシング・エイミー』
ウディ・アレンは自分を愛しすぎて愛を失った★『アニー・ホール』Annie Hall★020
忘却装置で辛い恋を忘れたら幸福か?★『エターナル・サンシャイン
愛を隠して世界を救いそこなった執事★『日の名残り
女たらしは愛を知らない点で童貞と同じである★『アルフィー
恋するグレアム・グリーンは神をも畏れぬ★『ことの終わり』
ヒッチコックはなぜ金髪美女を殺すのか?★『めまい』
愛は本当に美醜を超えるか?★『パッション・ダモーレ』
嫉妬は恋から生まれ、愛を殺す★『ジェラシー』
トリュフォーも恋愛のアマチュアだった★『隣の女』
不倫とは過ぎ去る青春にしがみつくことである★『リトル・チルドレン
セックスとは二人以外の世界を忘れることである★『ラストタンゴ・イン・パリ
完璧な恋人は、NOと言わない男である★『愛のコリーダ
愛は勝ってはいけない諜報戦である★『ラスト、コーション
幸福とは現実から目をそらし続けることである★『幸福』
最大のホラーは男と女の間にある★『赤い影』
キューブリック最期の言葉はFUCKである★『アイズ ワイド シャット
結婚は愛のゴールでなく始まりである★『ブルーバレンタイン
恋におちるのはいつも不意打ちである★『逢びき』
フェリーニのジュリエッタ三部作は夫婦漫才である★『道』
認知症の妻に捧げる不実な夫の自己犠牲★『アウェイ・フロム・ハー』
苦痛のない愛はないが愛のない人生は無である★『永遠の愛に生きて』


内容(「BOOK」データベースより)
恋愛映画にちっとも興味が無い人のためのホラーより怖くてコメディより笑えてミステリーより謎でAVよりエロくてアクションより勇気が出る恋愛映画地獄めぐり!

あの名著『トラウマ映画館』の続刊。
今度は「恋愛映画」だ!
……と言いたいところなのですが、僕は正直、「恋愛映画」っていうのが苦手で……
他人の恋愛を2時間も観て、何が面白いのかね?
宇宙人との戦いとか、歴史上の人物の伝記とか、いや、いっそのことネコ型ロボットの話のほうが、まだ興味あるんだけど……


とか、ブツブツ言いながら読み始めたのですが、そんな僕でも面白かったですこれ。
『トラウマ映画館』のときも同じことを書いたのだけれど、なんで町山さんの映画の話は、「あらすじ」がこんなに面白いのだろう。
採りあげられている映画がまた、曲者揃いなんですよ。
「恋愛映画」っていうことで、『ローマの休日』とか『ゴースト〜ニューヨークの幻』とかが出てくるんじゃないかと思ったあなた!(というか僕) このシリーズはそんなに甘くありません。
しかし、この2作品を挙げるときにけっこう困ったのですが、「純粋に恋愛だけを描いた映画」って、意外と無いものですね。
「恋愛映画」と呼ばれているものでも、サスペンスとか、ホラーとか、コメディとか、そんな要素がけっこう混ざっているものなのです。
「甘すぎる恋愛映画は苦手」っていう人は、案外、多いのかもしれません。


そもそも、恋愛映画なんて、「リア充」がカップルで観に行くものじゃないか!
ところが、この本で紹介されている「恋愛映画」は、カップルで観にいったら、終わったあと微妙な空気が流れそうなものばかり。
ブルーバレンタイン』の回とか、僕はこの映画をデートで観てしまったカップルのことを想像して、ちょっとニヤニヤしてしまいました。ほんと、ごめんなさい。

「『赤い影』は、結婚二十年目の風景だ」ニコラス・ローグは1996年のインタビューで製作の動機を語っている。
「恋愛の初めは、カップルの一人が『今日は窓を開けたまま寝たいな』と言うと、もう一人は『あなたがそうなら、いいわよ、ダーリン』と優しく受け止めるだろう。しかし、結婚して十年も経つと『その窓閉めてよ! 子どもが風邪ひいちゃうでしょ!』と怒鳴るようになる。私は恋愛と結婚生活の違いに興味がある。結婚生活はパラダイスだとされているけれども」

この本に書かれている映画監督や出演者の話を読んでいると、この「トラウマ恋愛映画」の多くには、監督自身の経験が活かされて(?)いたり、自分の恋人を出演させていたりもするのです。
こういう映画をつくる人たちは「恋愛の達人」のように見えるけれど、実際は、彼らも試行錯誤の連続というか、「やっちまった……」という経験こそが、創作に反映されているのだなあ、と。
ある意味、「転んでもタダじゃ起きない」しぶとさ、とも言えるのですけど。


紹介されている映画のなかで、とくに印象に残ったのが『パッション・ダモーレ』。

「お会いしたかったんです」フォスカは言う。フォスカはロマン小説を読み漁っているらしい。
「現実逃避以外に私の救いはありませんから」
 ジョルジュはフォスカの顔を正視することができない。
「ひいいいいいいいい!」
 フォスカがヒステリーを起こし、床の上でのたうちまわる。その様はただただ地獄のようだ。
「私を拒絶しないで、せめて友達でいてください」とフォスカに懇願されたジョルジュは大佐の手前、断れない。それに軍医からも「ショックを与えると彼女は死ぬ」と言われている。
 だが、後でジョルジュは自分の優柔不断さに嫌気がさす。なんで、あんな女に優しくしなきゃいけないんだ? 手遅れになる前に切らなくちゃ!

「ひいいいいいいいい!」ですよもう!
楳図かずお先生を、思い浮かべてしまいました。
いやほんと、怖いです、フォスカ。
町山さんは、この項の最後に、こんなエピソードを紹介しています。

『パッション・ダモーレ』は1994年にブロードウェイでミュージカル化された。フォスカが発作を起こすシーンで大向こうから「死ね! フォスカ、死ね!」と声がかかるらしい。フォスカにとっては「待ってました!」みたいなもんだね。

 この回を読むと、「死ね!」って言いたくなる気持ちがわかるんですよ。
 あらすじを読んでいるだけで、「こんなヤツにとりつかれたら、たまらんだろうなあ……」と。
 それにしても、歌舞伎の「○○屋!」みたいな掛け声が、ブロードウェイのミュージカルにもあるんですね。
 それが、「死ね」って、やっぱりすごいな……
 この『パッション・ダモーレ』という映画、僕も観てみたいです。


 この本には「愛」とか「人生」に関する、断片的に触れただけでも、涙が出そうになってしまう言葉や場面があふれています。
 そして、愛とかいうものに関しては、本当にみんなずっと試行錯誤していて、どんなに恋愛映画を観ても、「わかる」ようなものじゃないんだな、と考え込まずにはいられません。

 ヌルいリメイク版『アルフィー』の主演ジュード・ロウは、ヒロインのシエナ・ミラーと撮影中に恋におちた。それが原因でロウは妻と離婚した。三人の子どもの面倒は交代で見ることになった。しかし、ロウは、その子どもたちの乳母と関係し、ミラーから愛想をつかされた。ロウ自身のほうがアルフィー的だった。

「……男には、わからないわ」
「僕にもわからないよ」フィリップも男だった。「愛について、男はみんなアマチュアだ」

「天国なんて信じられない」というジョイの息子のつぶやきに、ルイスはただ「別にいいよ」と答える。あれほど熱烈に神を語っていたルイスなのに、もう「母さんは神様のおそばにいるよ」なんて慰めは言わない。「ママに会いたい」と言うジョイの息子の肩を抱いて、ただ「私も会いたい」と言って一緒に慟哭する。川のように涙を流し、子どものように声を上げて泣き続ける。いつまでも泣き続ける。悲しみをただ見つめて。

ああ、深い。
深すぎて、底が見えない……
とりあえず、恋愛に「正解」って無いんだよなあ、ということだけは、わかるような気がします。
まあでも、そんなに現実でモテなくてもいいや。
僕には「恋愛映画」があるんだからさ。



トラウマ映画館 (集英社文庫)

トラウマ映画館 (集英社文庫)

↑こちらは文庫化されたみたいです。「それでも、恋愛映画はちょっと……」という人にもオススメです。
参考:【読書感想】『トラウマ映画館』(琥珀色の戯言)

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