琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

【読書感想】話す力 ☆☆☆☆


話す力 (小学館新書)

話す力 (小学館新書)

内容(「BOOK」データベースより)
キャスター歴46年の著者がスピーチ、謝り方、雑談力、さらには人との接し方から部下のやる気を引き出す方法まで、話し方のすべてを大公開します!また、松井秀喜さんや、水道橋博士さん、黒柳徹子さん、吉永小百合さんら、著者が接した著名人の「話し方」にまつわるエピソードを掲載。さらにワイドショーのキャスター時代、リポーターたちを「草野流の話し方」で鼓舞してオウム事件の真相に迫った話など、ここだけの話も満載です!


あの温厚なトークと、強靭な身体を併せ持つ、草野仁さんの「話し方」。
僕はこの本を読みながら、大ベストセラー、阿川佐和子さんの『聞く力』のことを思いだしていました。
この2冊の本、けっこう共通点が多いんですよね。
「話す」と「聞く」というのは、対義語のようにとらえられがちだけれども、実際は、「よく聞くこと」と「よく話すこと」は密接につながっているのです。


「緊張して、うまく話せない」という人に対して、「気のもちかた」で解決しようという内容の本は少なからずあるのです。
しかしながら、僕がこの草野さんの本や、前述の阿川さんの本、そして、スティーブ・ジョブズのプレゼンテーションの本などを読んでみて感じたのは、「うまく話せないのは、むしろ、『気の持ちようで解決できる』という錯覚のせいではないか」ということでした。

 黒柳徹子さんは、私が司会を務める『世界ふしぎ発見!』のレギュラー解答社です。27年前に番組がスタートしたとき、他のクイズ番組には出ていないユニークな方に出てほしいと思い、私もスタッフと一緒に黒柳さんのもとに出演交渉にうかがいました。
 しかし彼女は「クイズ番組には出ないの」ときっぱりおっしゃるのです。その訳をうかがうと、これまでさまざまな活動をしてきたが、歴史や地理など知識が薄い分野もある。それが露見すると恥ずかしいからクイズ番組には出ないと決めているといいます。
 それでも、ぜひ黒柳さんに番組に出ていただきたかった私は、こう話しました。
 人の顔が一人一人異なるように、人の考えも一人一人違います。人が難問にあたったときの対処法や考え方、行動には「多様性」があります。たとえ正解がAでも、黒柳さんが考えたBという解答に至るまでの考えも聞いてみれば、正解のAよりも説得力があるかもしれない。人の考える「多様性」の面白さを、この番組の生命線をして考えていきたいのです――そして1週間後に再訪してみると、番組出演を了承してくださいました。
 黒柳さんは、その間、自分がこれまで蓄えてきた知識について検証してみたそうです。すると音楽や芝居、難民問題、パンダなどについては自信があるが、ほとんど関心のなかった分野は惨憺たるレベルで、愕然となった。「このまま黒柳徹子という人間の人生を終わらせてはいけない。勉強するいいチャンスだ」という結論に達したのだそうです。
 ただし、それには一つだけ条件がありました。1週間後に次の収録テーマを教えてほしいというのです。もちろん構いません。出演者全員に、収録1週間前に「古代のヨーロッパ」などの大まかなテーマをお伝えすることにしました。
 以来、黒柳さんは1週間前にテーマを伝えられると、図書館で資料を探し続けます。あるいは事務所のスタッフに頼んで書店で関連の本を探してきてもらい、平均して毎週5、6冊の本を読んでこられるのです。「音楽家をテーマにします」とお伝えしたときには、1週間に16冊もモーツァルト関連の本を読んだというから、驚きです。

あの番組での黒柳さんの正解率の高さに「スタッフから答えを教えてもらっているのでは……」なんて思っていたのですが、そんなことはなく、事前に大まかなジャンルは教えてもらっているものの、自力で勉強しておられるんですね。
それにしても、バラエティのクイズ番組で、ここまでやっている、ということには驚かずにはいられません。
適当に解答して間違ってヘラヘラしていても、誰も責めないでしょうに。
よほどの負けず嫌い、でもあるのでしょう。
そして、誰かに教えてもらった答えではなくて、自分で勉強しているからこそ、番組内でのトークに説得力が生まれているのではないかと思います。
あと、この話を聞いて、草野さんは「司会者」としてだけではなく、番組作りに深く関わっていたのだなあ、とも感じました。


この本を読んでみていただくとわかると思うのですが、草野さん、そして阿川さん、そして、黒柳徹子さんも、「人と話すための準備」に、ものすごく時間と手間をかけているんですよね。
ジョブズのプレゼンテーションもそうだし、プロインタビュアー・吉田豪さんもそうでした。
「その場しのぎのテクニック」で解決しようと思っているかぎりは、本当の「話し上手」「聞き上手」にはなれない。
ちゃんと準備をして、私はもっとあなたのことを知りたい、という姿勢をみせることのほうが、流暢な喋りよりも、はるかに重要なのです。
「私はあなたに興味があるのです」ということが伝われば、大概の人は「自分からあれこれ喋ってくれる」そうです。
人には、「自分の事を知ってもらいたい」という気持ちが、根源的にあるのでしょう。


もちろん、技術もあったほうが良いでしょうし、この本では、NHKのアナウンサー出身らしく「伝えるためのテクニック」も多数紹介されています。
結婚式のスピーチなどにも、けっこう役に立ちそうです。

 私はスピーチや講演をするときには、できる限り、以下の4点に気をつけています。
(1)具体的かつ個人的なエピソードを入れる
(2)思いを伝えるための効果的な構成を考える
(3)相手(新郎新婦や聞く人)の立場で話す
(4)誰にでも伝わる「核」のある話にする

具体的な内容は、この本を読んでみていただければと思うのですが、たしかに、これに沿っていけば「喜ばれ、失礼にならないスピーチ」ができそうだな、と感じました。

 自分が早口だと気がついたら、いつもよりワンテンポ、意図的にペースを落としてみるといいでしょう。そして、はっきり正確に発音するように心がけてみましょう。すると、いい間合い、いいペースの話し方につながっていきます。
 具体的な語数でいいますと、だいたい1分間に300字程度話すのが耳に快いスピードといわれています。アナウンサーがニュースを読むときは1分間に330字程度です。
 たとえば、自分のスピーチの時間を2分半と決め、750〜800字程度の原稿を書くようにします。それを2分半から3分で話す練習をすると、ちょうどいいスピードで、ちょうどいい量のスピーチができるのです。

ここまで具体的に書いてあると、トレーニングもしやすいですよね。
大事なのは、「緊張しないためのおまじない」ではなく「準備」や「練習」。
草野さんは、「スピーチは相手に伝えることが大事なのだから、慣れていなければ、暗記することにこだわるより、要点を書いたメモなどを準備しておいたほうが良い場合もある」と書かれています。
自分をカッコ良くみせることよりも、相手に伝えることが、優先なのです。


また「シンプルに伝えること」の大切さについても、考えさせられました。

 監督が指示を出した選手にうまく話が伝わらず、大失敗した例として、高校野球の歴史に残る有名な大逆転劇があります。
 ずいぶん昔の話になりますが、1961(昭和36)年の夏の大会でのことです。兵庫県報徳学園岡山県倉敷工業が対戦し、両校無得点のまま、試合は延長戦へ突入しました。延長11回表、倉敷工業が6点を取ると、なんとその裏に報徳学園も6点を返し、追いつきました。そして12回裏、いよいよ倉敷工業がピンチを迎えました。
 高校野球では、監督はベンチから出られません。ピンチを迎えたときは、タイムをとり、ベンチにいる選手を使って意思の伝達に行かせます。
 そのとき、倉敷工業の小沢馨監督はピッチャーへの伝令になった選手に、こう伝えました。
「高めに投げるな!」
 そこで、ベンチから出て行った伝令も「高めに投げるな!」とピッチャーに伝えたそうです。しかし、あろうことか次の投球でピッチャーは高めに投げて痛恨の一打を浴び、サヨナラ負け。結局、その試合を失うことになったのです。
 この一戦に勝利した報徳学園は「逆転の報徳」として、一躍、有名になりました。
 それにしても、なぜ監督の意思がまったく逆に伝わってしまったのでしょうか。
 後に、倉敷工業の小沢監督はこう語りました。
「あの緊張状態のなかで、私が『高めに投げるな!』とまわりくどい否定形の表現を使ったのが間違いを起こす原因でした。わかりやすく『低めに投げろ!』と指示していたら間違いは起こらなかった。大事な試合でそんなわかりにくい表現を使ってしまったことが、長い監督業のなかで、一番の反省点です」
 小沢監督はきっと「高めに投げたら打たれてしまう」と心に思ったままを、伝言として口に出してしまったのでしょう。極度の緊張状態にあったピッチャーには、そのわかりにくい伝言が伝わらなかったのです。
 緊張した状態では、まわりくどいう言い方では相手に伝わりません。自分の意思をしっかり伝えるためには、ストレートでわかりやすく、なるべく端的な表現を心がけなければいけないという良い例でしょう。

これ、監督の意思が伝わっていなかったわけじゃなかったとは思うのです。
おそらく、相手の押せ押せムードに気圧されて、ピッチャーも投げてはいけないと意識していたはずの高めに、失投してしまったのではないかと。
「高めに投げるな!」が、そんなに「まわりくどい表現」という気もしませんよね。
でも、監督はこのことを、ずっと後悔し続けているのです。
あのとき、否定形ではなくて、「低めに投げろ」というストレートな指示を出していれば、結果は変わっていたのではないか?と。
僕も「○○してはいけないよ」と子どもに話すことがよくあるのですが、差し迫った状況では「○○するな」じゃなくて、「××しろよ」と言ったほうが良いのだろうな、と考えさせられました。
気のせい……なのかもしれないけれど、「やってはいけない」っていうほうに、つい、フラフラと引き寄せられてしまうことって、あるものなあ。


この本の最後のほうで、草野さんは「聞き上手になるための、もっとも簡単な姿勢」を紹介されています。

 どんな相手であれ、相手の本音を引き出すためには、究極的には「聞き上手」になることだと思います。しかし、本当の「聞き上手」とは、いったいどんな人でしょうか。
 先日、知り合いの女性がご主人と話をしていたときに、会社のちょっとした愚痴を言ったそうです。するとその途中に、ご主人からたしなめられました。「そんな後ろ向きの考え方では、何事もうまくいかないと思うよ。もう少し前向きに考えなよ」
 それに納得できなかった彼女は反発し、ご主人とちょっとした言い争いになってしまいました。話はどんどん違う方向へずれていき、ふと彼女は思ったそうです。
「なんでこんな話をしているんだろう。ちょっと愚痴を聞いてほしかっただけなのに」
 結局、いい聞き手とは、まずは相手の話をさえぎらずに話を聞いてあげられる人ではないでしょうか。自分の価値観を相手に押しつけようとしたり、中途半端な知識を無理して出すと、話は広がらないどころか、相手の感情を傷つけてしまうこともあるのです。

とにかく「相手の話をさえぎらずに、話をきいてあげること」。
本当に簡単なことなのだけれど、実行するのは、なかなか難しい。
つい、何かを言ってしまいたくなる誘惑と闘うのは、案外大変でもあります。
でも、これを心がけているだけで、けっこう「聞き上手」になれるはず。


人と話すことを職業にしてきた草野さんならではの気づきが詰まった一冊だと思います。
読みやすい本ですので、興味を持たれたかたは、ぜひ。



聞く力―心をひらく35のヒント ((文春新書))

聞く力―心をひらく35のヒント ((文春新書))


Kindle版もあります。


この「プレゼン術」、ジョブズのもうひとつの伝記としても、なかなか面白い本でした。

スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン

スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン

アクセスカウンター