琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

【読書感想】教場 ☆☆☆☆


教場

教場

内容紹介
君には、警察学校をやめてもらう。


「こんな爽快な読後の悪さは始めてだ! 警察学校が担う役割とはなんだろうか。篩にかけられた友もまた、警察官を育成するために必要なものだったのだろうか。校庭のすみに育てられている百日草が示すものが、警察組織を守るための絆ではなく、市民を守るための絆であることをただただ願いたい」
――さわや書店フェザン店・田口幹人さん
「復興を続ける警察小説ジャンルから飛び出した、突然変異(ミュータント)。警察学校が舞台の学園小説でもあり、本格ミステリーでもあり、なにより、教師モノ小説の傑作だ。白髪の教師・風間は、さまざまな動機で集まってきた学生それぞれに応じた修羅場を準備し、挫折を演出する。その『教育』に触れた者はみな――覚醒する。もしかしたら。この本を手に取った、あなたも。」

    • ライター・吉田大助さん


【編集担当からのおすすめ情報】
長岡弘樹氏は、2008年に第61回日本推理作家協会賞(短編部門)を選考委員満場一致で受賞、「歴代受賞作の中でも最高レベルの出来」と評された短編「傍聞き」で知られるミステリー作家です。同作を収録した文庫『傍聞き』は、現在39万部に達しています。本書は長岡氏初の本格的連作長編にして、好事家をもうならせる、警察学校小説。
2013年ミステリーナンバーワンを射程に入れた勝負作です。


『傍聞き』の大ヒットが印象深い長岡弘樹さんの連作短編集。
『傍聞き』は、なかなかの佳作ではあったのですが、僕にとっては、この本のオビの

「この20年で最高の傑作!」


「百万部売っても売り足りない!」

の過剰さのほうが、どちらかというと記憶に残っています。


なんだか「面白いミステリを読みたい!」という気分になり、書店で購入したこの本。
警察学校を舞台にした、かなり陰湿な人間関係から発生するさまざまな事件と、彼らを見守る教官が描かれています。
学校を舞台にした、青春群像もの……かと思いきや、雰囲気としては、柳広司さんの『ジョーカー・ゲーム』に近い感じ。
一癖も二癖もある警察学校の生徒たちの駆け引きを読んでいると、「こんな人たちが、警察官になるのか?」と、かなり不安にもなってくるんですよね。
厳しいシゴキがあったり、イジメや、成績によって序列があったり。
もちろんこれはフィクションであり、これを読んで、「警察学校って、こんな怖いところなのか……」と思いこむのは、『輝く季節の中で』という医者の卵たちを描いたドラマを見て「医学生はみんな覚せい剤とか使ってるのか……」というイメージを抱くくらいバカバカしいことではあるのですけど。


この作品、正直、ミステリとしては、そんなにたいしたトリックもないというか、どんでん返しもなく、東野圭吾さんの『ガリレオ』シリーズを薄めたような感じの理系トリックが多い印象でした。
連作短篇なので、最後に何か大きな背景みたいなものが浮かび上がってくると思っていたら……なんとなく終わってしまった感じですし。


ただ、この本の最大の魅力は「警察学校の日常」ではないかと思うのです。
「警察学校って、何を教えているんだ?」って、言われてみれば、ちょっと気になりますよね。
もちろん、射撃とか格闘技とかは教えていそうだけど……あとは一般教養?
この本には、そんな「警察学校のカリキュラム」の一部が描かれているのです。

「エンジンを搭載した物体が車輪で走るという点で二も四も同じだ。まず訊く。この車のナンバーを見て気づいた点はあるか」
「偽造……ではなさそうですね」
「仮にもここは警察だからな」
 場の雰囲気が少し緩んだように思えたのは、誰もが風間の表情にかすかな笑みを見つけたせいだろう。
「数字が、ゾロ目だということですか」
 クラウンのナンバーは333だった。
「そう。このように同じ数字が連続したナンバーは暴力団員の車に多い。注意が必要だな。ところで鳥羽、暗算は得意か」
「いいえ。それほどでもありません」
 得意なのは稲辺くんです。その台詞が口から出かかったが、声にすることはできなかった。
「いくら不得手でも、このナンバーの合計なら、すぐに答えられるな」
「……三が三つで、九ですか」
「そう、数字を足して九になるナンバープレートもまた、組の構成員が好んで自分の車につかたがる。したがって、怪しい車両を見かけたら、ナンバーの数字を合計する癖をつけておくことだ」
「はいっ」
 全員の呼吸に合わせて、鳥羽も声を張り上げた。

この他にも「職務質問のコツ」とか「酔っぱらいへの対処法」とか、なかなか興味深い内容ばかりです。
職務質問されそうな人は、あらかじめ「予習」するのに役立つかもしれません。


読んでいると、「これ、こっちの学生のほうが問題なんじゃないか?」いうほうがセーフで、被害者っぽい人のほうが学校を辞めてしまったりもしていて、人生の矛盾をつきつけられるような気もします。


「職業小説」として、けっこう楽しめる作品ではあるのですが、今作のオビはこれ。

 すべてが伏線。一行も読み逃すな。

 既視感ゼロ! 何もかもが新しい”警察学校”小説に、書店員さんも大興奮!

”警察学校”小説、であることは間違いないのだけれども、「すべてが伏線」「既視感ゼロ」は、ちょっと盛りすぎなのでは……


まあ、2作連続だと、もしかしてこれは「アオリ芸」みたいなものなのか?とも思えてくるのですが。

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