琥珀色の戯言

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【読書感想】クイズ王の「超効率」勉強法 ☆☆☆☆


クイズ王の「超効率」勉強法 (PHP新書)

クイズ王の「超効率」勉強法 (PHP新書)

内容(「BOOK」データベースより)
中学2年生から本格的にクイズにのめり込んだ著者は、苦手だった学校の勉強にもクイズ上達のプロセスが応用できることを発見。この勉強法を用いれば、受験勉強や資格試験もゲームのように楽しむことができるのだ。さらにはマーケティング力やアイデア発想法など、ビジネス必須のスキルも身につく。漢字検定1級一発合格の体験記から、徳川15代将軍の覚え方まで、著者独特の「記憶へのアプローチ」を大公開!『アタック25』『タイムショック21』で優勝、あらゆるメディアに年間1万問ものクイズを提供する「クイズを知り尽くした男」が、知識をフックのように覚えるなど、究極の勉強法を伝授する。


この新書、人生をクイズに捧げてきた著者が、「クイズで勝つためのテクニック」や「出題者は、どういうふうに考えて、クイズをつくっていくのか」を解説した本です。
僕のような「クイズ好き」は「クイズマニアの世界って、こんなにすごいのか……」と感心してしまうのですが、この新書のタイトルをみて「効率のよい勉強法」に興味を持って読んだ人にとっては、「『超効率』って、どこが?」と思われてしまう可能性が高そうなんですよね。
著者が紹介している「勉強法」は、大まかに言ってしまうと「過去問などをしっかり研究して傾向をつかみ、落としてはいけない基礎的な問題を繰り返しトレーニングして確実に正解できるようにし、常に知識のアップデートを怠らない」ということなのですが、「それって、難関といわれるような入試や資格試験を受ける人は、みんなやっていることなのでは……」という感じなんですよね。
いやまあ、「学問に王道なし」というか、それはそれで、真摯な姿勢ではあると思うのですが、オビに「勉強はゲームのように攻略できる」とか書いてあると、「ウラ技」的なものを期待してしまいますから……


ということで、「勉強法」を求めて読むと、肩すかしを食らってしまう新書だと思います。
ただ、「クイズマニアの世界」を覗いてみたい人にとっては、「クイズの頂点は、ここまで先鋭化してきているのか……」というのがわかる内容にはなっているんですよね。

 短いクイズの文書のなかで、どれだけ広い世界に飛んでいけるか。たとえば、1998年に放送された『今世紀最後! アメリカ横断ウルトラクイズ』のニューヨークでは、このようなクイズ問題が出題されました。


Q:ため息の主な成分は?


 文字数にしてたった10文字の問題文です。日常生活で疲れきったときに、誰もがついてしまう「ため息」。そこから一気に「成分」という、「自然科学」のジャンルに飛んでいってしまう世界観。わずか数秒で読まれる短い問題のなかに、さまざまな醍醐味が詰まっています。

僕もこの問題を読んだとき、「なんだこれは?」と考え込んでしまいました。
いやまあ、こういうのって、「場の力」みたいなのもあって、宴会の余興や子ども雑誌の付録の「なぞなぞ本」であれば、トンチのような答えを要求されそうですし、正統派のクイズ番組であれば、化学的な答えで良いのでしょうし……


ちなみに、この問題の正解は、

Q:人間の吐く息のなかに、最も多く含まれている気体は何?

と同じだったそうです。
これだったら、中学生でも大半の人はすぐにわかるはず。
日頃は、クイズといえば「答える側」としてみてしまうことばかりなのですが、クイズ作家としても活躍している著者の話を読んでいると、クイズをつくるほうの「センス」「洒落っ気」が活きていてこそ、面白い番組になるのだな、ということが伝わってきます。
1977年生まれの著者がクイズ好きになったきっかけは、『アメリカ横断ウルトラクイズ』だったそうなのですが、この本を読んでいると、あの番組を支えていたのは、スケールの大きさやシステムの面白さだけではなく、出題される問題のクオリティの高さもあったのだなあ、と。


この本の中の、「クイズに勝つためのテクニック」があれこれ紹介されているところは、いちばんの読みどころでしょう。

Q:『徳川御三家』といえば、水戸、尾張とあと一つは何でしょう? (正解:紀伊


 この問題も、解答者側のテクニックで必要なのは、徳川御三家といわれた瞬間に三つの解答候補を頭に浮かべること。
 この問題文では、「三つ」が東にある順に読まれるのか、石高の大きい順に読まれるのか、判断がつきません。ということは、二つ目が読まれた瞬間、この問題では「尾張」の「オ」が聞こえたらボタンを押すことになる――否! 正確には、「水戸」と読まれた瞬間に押してしまうのです。
 すると、出題者は完全に読みを止められませんから(「慣性の法則」みたいなイメージです)、ついつい(尾張の)「オ」もしくは(紀伊の「キ」まで読んでしまいます。これは「読ませ押し」などと呼ばれる、早押しクイズの高等戦術の一つです。

著者は「高校生クイズ」の予選突破のための「最大の難関」だという予選の「YES/NOクイズ」についても、過去問を徹底的に分析し、「このフレーズが問題文に含まれている場合は『NO』が多い」などと統計学的なアプローチも試みていたそうです。
もちろん、こういうことをやっていたのは著者だけではありませんでした。
将棋の世界がインターネットの普及や若手棋士たちの「勉強会」によって、急速に進化しているのと同じように、クイズの世界も「超人化」が進んできています。

 僕が中学生のころに見ていた『史上最強のクイズ王決定戦』(TBS)という日本一決定戦では、それを象徴する有名なシーンが出てきます。ある回の優勝者となるクイズ王が、決勝戦の早押しクイズで「Q. アマゾン川で、」という音にして七文字の出題だけでボタンを押し、正解を導いてしまったことがありました。ここでのポイントは”で”という助詞です。
アマゾン川」をベースにしたクイズといえば、周辺に広がる熱帯雨林である「セルバ」や、川のなかに生息する「ピラニア」や「ピラルク」という魚、また河口付近にある世界最大の川中島である「マラジョ島」、さらには大潮のときに起こる逆流現象「ポロロッカ」などを問う問題が考えられます。
 たとえば正解が「ピラニア」ないし「ピラルク」だった場合は、問題文の冒頭は「アマゾン川”に”生息する」――となるはず。「セルバ」や「マラジョ島」であれば「アマゾン川”の”周囲に広がる」や「アマゾン川”の”河口にある」――となるのが自然ですよね。「アマゾン川”は”世界最大の流域面積を誇る川ですが、日本で最大の〜」――とくれば「利根川」が正解になります。
 しかし出題は「アマゾン川”で”」――。となると、そのあとに続くのは「起こる現象」が考えられますから、正解は「ポロロッカ」になるという結論を導き出せるのです。

僕もこの『史上最強のクイズ王決定戦』観ていたのですが、「すごい!」と驚くのと同時に「こりゃ、ちょっと物知りとか、クイズ好きという人間がかなう相手じゃないな……」と痛感した記憶があります。
こうして文字に書いてあるのを読んでもすごいのですが、番組のなかでは、次にどんな問題が出てくるのかわからない状況で、出題者はどんどん問題を読み進めていくわけですから。
(おそらく、その場ですぐに考えて正解したのではなく「アマゾン川+助詞」のパターン化された問題として、このクイズ王はすぐ反応できるように頭のなかに入れていたのだと思いますが)


著者も言及しているのですが、こうして「クイズマニアたちが、どんどん研究を重ね、レベルアップしていったこと」には弊害もありました。
クイズマニアと、一般視聴者や「巷のクイズ番組好き」との格差は、あまりに大きなものになってしまい、同じフィールドでは勝負にならなくなってしまったのです。
百人一首で、最初のひと文字、ふた文字を読んだだけで反応するトップレベルの選手と、とりあえず上の句を聞くと、下の句が思いだせるレベルの人が「勝負」をしても、全く面白くないですよね。やる側にとっても、観る側にとっても。
だからといって、レベルが高い人が「手抜き」をすれば、それはそれで興醒めではあるし、クイズの場合は「プロ」という資格があるわけでもない。


視聴者参加型のクイズ番組が成り立ちにくくなってしまったのは、この「格差問題」と、「ネットの普及により、『検索すればわかるような知識』は、あまり評価されなくなってきたこと」が大きいのではないかと思います。
たまに行われている「クイズ王たちの対抗戦」は、「競技」としてけっこう面白いんですけどね、僕にとっては。


この本のなかには、過去の名作クイズや、著者が精選した「基礎的なクイズ問題」も、そんなに数は多くないものの収録されていて、クイズ好きとしては、それを解くだけでも、けっこう楽しかったです。
けっしてつまらない本ではないのに、『「超攻略』勉強法」なんて売れ線を狙ったタイトルにされてしまったのが(誰がそうしたのかは知りませんけど)、ちょっとかわいそうな新書ではありました。

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