琥珀色の戯言

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【読書感想】熔ける 大王製紙前会長 井川意高の懺悔録 ☆☆☆☆


熔ける 大王製紙前会長 井川意高の懺悔録

熔ける 大王製紙前会長 井川意高の懺悔録


Kindle版もあります。

熔ける 大王製紙前会長 井川意高の懺悔録

熔ける 大王製紙前会長 井川意高の懺悔録

内容(「BOOK」データベースより)
東大に現役合格、赤字子会社を立て直した20代、42歳で社長就任、有名人との華麗なる六本木交遊、噂に上がった女性芸能人たち…すべてを手にしていたはずの男はなぜ“カネの沼”にハマり込んだのか?カジノで失った106億8000万円。大王製紙創業家三代目転落の記。


負けも負けたり、106億円!
この井川前会長の話を聞いたとき、「人って、カジノでそんなに負けられるんだなあ……」なんて、妙な感心をしてしまったものです。
断片的なメディアからの情報で「甘やかされた金持ちのボンボンが、道楽三昧で転落していったんだな」というイメージで、この井川さんをみていたのですが、この本を読んでみると、なんかそんな単純な話じゃないんだなあ、と感じました。
東大時代にいきなりBMWを新車で買ってもらうとか「やっぱりボンボンじゃねえか!」って言いたくなるところもあるんですけどね。
というか、こんなに頭がいい人なのに、なんで自分のギャンブルに関しては「計算」できなかったのだろう……
「計算」していても、やめられないのが、ギャンブルなのか……
いや、僕もギャンブル好きなので、けっこう身につまされましたよこれ。
もしかしたら、「引っ張ってこられるお金と、取り戻せるという自信の違い」だけなのかもしれないな、とか。

 頭はおかしくなっていたと思う。いや、あのころだって、どこかでおかしいと思っていた。それでも、自分で自分をコントロールできなかったのだから、やはり病気なのだろう。
 仕事が忙しく時間がないため、土曜日の夜から日曜日の夜まで短期決戦に挑むこともあった。短期決戦だったおかげで勝ち逃げできたときもあるし、月曜日の早朝に帰国する段取りで勝負を延ばした結果、勝ち逃げできたこともあれば最終的に負けてしまったこともある。
 資金の上限を定め、これ以上は勝負してはいけないというリミッターを設けておく限り、さほど大負けすることはない。資金と時間のリミッターをはずして狂乱の勝負に打って出るから、ギャンブラーは負けが込んでしまう。「連敗が続いたときにはしばらくルックしよう(待とう)」といったルールをきちっと遵守すればいいのに、負けが込んだときほど次々とカネを投入してしまう。熱くなってはまずいとわかっていながら、自分でつくったはずのルールを無視して暴走してしまう。
「バクチをやる人間は、結局のところ皆バクチに向いていない」のだろう。皮肉なことに、「バクチをやらない人間ほどバクチに向いている」のである。

 私には、パチンコやパチスロにハマって破滅する主婦の気持ちがよくわかる。可処分所得をはるかに上回るカネをパチンコやパチスロにつぎこみ、サラ金やクレジットカードから上限までカネを引っ張り、最後は法外な金利を取る闇金からもカネを借りてしまう。本人の支払い限度額をはるかに超えたとしても、「なんとか勝負に勝ちたい」という強迫観念にとらわれて、どこまでもギャンブルを続けてしまう。
 総額100億円を超える金額をつぎこんだ私の場合、パチンコやパチスロとは比較にならないと笑う読者もいるだろう。しかし金額の多寡はともあれ、ギャンブル依存症に陥る人間の心理はまったく同じだ。たまたま億単位のカネを動かせる立場だったがために、私のギャンブル依存症は数百万円どころかケタをいくつも飛び越えてしまっただけだ。

パチンコにハマって破滅する主婦との違いは「金額の差」だけだといわれれば、そうなのかな……とも思うし、井川さんの社会的な地位や責任を思えば、「もっとマシなストレス解消の方法、無かったのかねえ……」とも考えずにはいられません。
無かったというか、カジノの緊張感がいちばん心地好かったから、こうなってしまったのだろうけど。
それにしても、この106億円、一族の持ち株を売却したりして、井川さんはちゃんと清算しているんですよね。その代償として、井川さん自身が会社を追われたのはもちろん、創業者の二代目だったお父さんや弟さんも会社を辞めることになってしまいました。
(それでも、井川さんが期待していた執行猶予はつかず、実刑判決になりました)
この本を読んでいると、井川さんは出獄したら、またギャンブルを始めてしまうのでは……とか、ちょっと心配にもなるんですよね。
この本から伝わってくるのは「反省」というより、「ギャンブルに明け暮れた日々の余熱」みたいな気がして仕方がないんです。
いや、いち読者としては「反省三昧よりも、そういう露悪的な話のほうが、面白い」のも事実なんですが。


井川さんは、ギャンブルに関して「無謀」ではあったけれど、仕事に関しては「無能」ではなく、むしろ、非常に有能な経営者だったのは間違いないようです。

 大王製紙の経営者として、私は空虚な言葉だけの議論を徹底的に排除することにこだわった。会議の席上、こんなことを言う人間がたまにいる。
「コストを徹底的に削減し、営業部員との意思疎通、コミュニケーションを密にします」
 こういう抽象的な言葉が飛び出したときには、私はすかさず具体性を問うようにしていた。
「『コストを徹底的に削減』って、どこのコストをいつまでにいくら削減するの? 『営業部員との意思疎通、コミュニケーションを密にする』って、メールを毎日1通は必ず送るという意味? それとも週に1回は必ず直接会って話をする?」
 美麗な言葉を口にしてその場をごまかそうとする人間は、このような指摘をされると、とたんに言葉が詰まってしまう。「コミュニケーションを密にする」など、何も言っていないに等しい。「テレビ会議でもかまわないから、週に2回は必ず開発部と営業部の会議を開く」といったように、具体論を述べなければ仕事は先へは進まないのだ。
 日本人が使いがちな「徹底的に」「とことん」といった情緒的な言葉も要注意だった。このような単語が飛び出す会議では、私は容赦なく発言者を叱責した。
「大学で日本文学の講義をやっているんじゃないんだぞ。今はビジネスミーティングをやっているんだ。何をいつまでにどうやってやるのか、話を具体化していかなければ会議には意味がない」

 ああ、なんて身も蓋もない正論!
 この本のオビに、「ホリエモン」こと、堀江貴文さんが推薦文を書いておられるのですが、仕事においては、井川さんと堀江さんには、相通じるものがあるのではないかと思います。
 ただ、井川さんの場合には「創業者一族の三代目」という威光があればこそ、こういう物言いが通用した面はあるはずですが。
 しかし、そういう「アドバンテージ」を考慮に入れても、大王製紙という会社を順調に成長させ、業界再編の動きにも適切に対応し、部下からも畏敬されていた井川さんという人は、やはり、有能なビジネスマンだったのです。
 検察からも、取調べのとき「経営者としてのあなたを無能だと証言する人はいなかった」と言われたそうですし。

 ビジネスは根性論で語っていても仕方がない。数字を冷静に分析し、正しい戦略と方法論を実行できれば、収益を上げられるのだ。私は大王製紙の赤字部門をなんとか一流企業なみに変えていこうと願い、さまざまな試みを実行に移した。これらの取り組みは、それなりの成果を上げたと今でも自負している。

ほんと、なぜ、こういう人が、ギャンブルの魅力にだけは、抗えなかったのか……
井川さんを取調べた検察は、100億円の使い道が「カジノでのギャンブルだけ」であることに驚いていたそうです。
これだけのカネは、きっと、政治家に賄賂として使われたり、なんらかの「裏金」だったに違いない、と疑っていたので。
まあ、「カジノだけで100億なんて、使わないだろ」って思いますよね。


あと、この本の最後のほうで、偉大なノンフィクション作家・佐野眞一さんの「嘘八百ノンフィクション」について徹底的に反撃していたのは面白かったです。

 面白いのは子どもたちの名前である。(略)男はひとりを除いて全員(高)の文字がつけられている。この命名に、伊勢吉の根深い身長コンプレックスがうかがえる。
佐野眞一さんが『週刊現代』に連載した「大王製紙井川家三代の知られざる物語」第3回より)

 
 独りよがりな解釈に、憤るというより笑ってしまったのだが、子どもたちの名前に「高」がついている理由は、伊勢吉の本名が「高助」だからだ。昔の人にとっては、子どもに自分の名前を一字つけるのは当たり前の習慣だった。私も自分の息子に「高」の字をつけている。その事実をもって、祖父が身長に関するコンプレックスを抱えているとこじつける。生まれつきの身体的特徴をあげつらい、《子どもが大人に化けているように見える》《喜劇俳優》とまで書くとは、あまりにも差別的すぎないか。

 「徳川将軍家は、代々『家』にコンプレックスを抱えていた!」っていう解釈と、同じようなものなんですよね。この佐野さんの「ノンフィクション」って。
 この本では、他にも「佐野さんの嘘や決めつけの実例」が多数指摘されており、僕も呆れてしまいました。
 佐野眞一さんって、書かれる側からみれば、こんなにひどかったのか……


 大金持ちたちのギャンブルの様子とか、交流のある芸能人のエピソードとか(宮沢りえさんとか、市川海老蔵さんとかも登場してきます)、100億円ものカネを、どうやってつくったのか、とか……
逆に「もっと早く、会社側、あるいは親族の誰かが、井川さんを止めていれば……」とも思うんですよね。
 でも、「会社もうまくいっているし、創業者一族でやり手の社長だった人だし、逆らえなかった」のだろうなあ。
 結局、この人は「100億円も不正にカネを引き出すまで、誰からも諫言してもらえないくらい孤独だった」のかもしれません。
「100億円の孤独」って、あまりにも暗く、深すぎて、なんだかよくわからないけれど。


 個人的には、井川さんが、出所後、「新しいビジネスの世界で活躍される」のか、「やっぱりギャンブルにハマってしまう」のか、けっこう気になっています。
 有能な人だし、ぜひ「更生」できることを、ギャンブル依存仲間としては、見せていただきたいと思っております。
 これで出てきてもギャンブルをやるようなら、もう絶対治らないような気がする……

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