- 作者: 保田歩
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2013/12/12
- メディア: 単行本
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内容紹介
「就職しないでのん気に生きていこう」
そんな甘いことを考えていた保田歩だが、やがてインターネットに出会い、その魅力にはまり、大手インターネットサービス会社勤務を経て2010年、家電メーカー、ガラポン株式会社を設立。テレビ視聴に革命を起こすため、ネットとテレビの融合を実現した全テレビ番組録画機「ガラポンTV」を開発、ヒットを実現する。
エンジニアではない、それどころか文系元ダメ人間だった著者が、その喜びや苦しみも含めて自ら綴ったベンチャー起業記。
224ページ、字もけっこう大きいので、1時間くらいで読めます。
これで定価1600円+税っていうのは、ちょっと高いような気がする……のだけど、かなり面白いです。
この本、著者の「起業体験記」であるのと同時に、いや、それ以上に「いま現在、2014年の『テレビ』というメディアについて」考えさせられる内容なのです。
ガラポン株式会社が開発・販売する「ガラポンTV」とは簡単に言うと録画機です。本体にはハードディスクを備え、テレビアンテナ線とLANケーブルを接続して使います。
ただし見たい番組をあらかじめ予約しておくこれまでのタイプの録画機ではありません。電源を入れるだけで地上波8チャンネルの3ヵ月分の番組を自動的にすべて録画します。また大手電機メーカー製の録画機のように美しい映像の再現にはこだわっていません。録画した映像はワンセグ仕様です。
その代わり、使いやすさには徹底してこだわっています。
ガラポンTVで録画した番組はインターネットを通してiPhoneなどのスマートフォンやパソコン、タブレットで見られます。外出先でも、移動中の電車の中でも、寝室でも、海外でも、ネットにつながる場所ならOKです。スマホやタブレットに録画した番組をコピーしておけば、ネットにつながらない飛行機や地下鉄の中でも途中でまったく途切れることなく快適に見られます。
録画した番組の中身の検索もできます。例えば、「東京スカイツリー」と検索すると、テロップなど字幕データを検索し、東京スカイツリーにかかわる番組シーンをすべて表示します。それらをクリックすると、東京スカイツリーに関連したシーンから再生が始まるのです。
全自動録画機なのでネットや世間で評判の番組を後から見られます。
ガラポンはテレビ番組のレビューサイト「ガラポンTVサイト」を運営しています。ここではテレビを見たユーザーが番組を評価したり、フェイスブックの「いいね!」と同様に「LIKE」ボタンを押したりできます。レビューサイトで他のユーザーから高い評価を受けた番組を知ることで、未知の面白いテレビ番組に出会えるチャンスが高まります。
僕もネット愛好家として「最近のテレビは面白くない」「若者はテレビを観なくなっている」という固定観念を持っていました。
「ガラポンTV」も存在そのものは知っていたのですが、この本を読むまでは「ドラマを録画忘れで見逃すことがなくなるくらいだろ……どうせ観たい番組もないし、要らないよそんなの」と思っていたんですよね。
でも、この本を読んで、使ってみたくなりました、「ガラポンTV」。
自分で言うのもなんだけれど、僕は本当にダメ人間でした。
エスカレーター式に大学に入ったはいいものの、四年生になったときにはバカが進行し過ぎてgreatの読み方さえわからずグリートなんて読んでいた(笑)。
著者は、大学時代遊んでばかりだったそうなのですが、ちょっとしたきっかけで、インターネットの魅力にひきつけられ、文系出身にもかかわらず、ネットサービスの開発に従事するようになったそうです。
「グリート」はさておき、持ち前の行動力や企画力を発揮して、ネット企業でけっこう活躍されていたのです。
テレビ受像機向けのネットコンテンツ開発のため、それまで「テレビを持たない生活」をしていたという著者は、テレビとハードディスクレコーダーを購入し、研究をはじめました。
久しぶりにテレビ番組を見るようになった僕は圧倒されました。
もちろん、自分に合わない番組もあったし、「CMうざい」と思うこともありましたが、総じて面白いし、ためにもなるばかりか、ジャンルも幅広くて映画や、ドラマ、ニュース、スポーツ、バラエティー、ドキュメンタリーまである。どのジャンルの番組も極度に洗練された作品となっています。
多くの番組は台本や編集に工夫が凝らされており、バラエティーひとつ取ってもロケに行ったり、再現ビデオを作ったりと、変化に富んでいる。
その後、大手プロダクションと組んで始めた動画サービスを立ち上げた僕は、自分たちのサービスでオリジナルのコンテンツを手がけることで、改めて地上派テレビのコンテンツとしてのすごさを痛感しました。
動画配信サービスは大手プロダクション所属の芸人さんたちと一緒にオリジナルのお笑いコンテンツを作り、ネット上で配信するものです。芸人さんたちは地上波テレビ番組でレギュラー番組をいくつも持つ一流の人たちです。脚本を手がける放送作家さんたちも人気テレビ番組の脚本を手がけていました。
しかし同じお笑いのコンテンツでもテレビにお笑い番組と比べるとどうしても見劣りしてしまう。
テレビのお笑い番組はピンポイントで笑いのツボを刺激してくるし、何よりも1分たりとも間延びせず、退屈しない。
日本でテレビの商業放送が始まって60年、その間に積み重ねてきた技術や経験、ノウハウはとんでもないものです。そのとんでもない技術や経験、ノウハウを駆使して、しかも1兆8000億円の広告費(かたやネット広告費は8000億円)を背景にした莫大な制作費をかけて作られるテレビ番組は最高のコンテンツだと確信しました。
この見解については「作る側に立ってみたからこそわかる、テレビ番組のすごさ」というのはあるのだと思います。
制作側ではない、一般視聴者からすれば「面白いか、つまらないか」だけの話で、「最近のテレビはつまらない」と感じている人は少なくない。
そういう人たちに「あなたたちが面白くないと言っているあの番組は、実はすごいんです、面白いんですよ!」と言っても、通用しないとは思うのです。
もちろん、著者もそれは理解していました。
そこで、「ガラポンTV」は、「TVがつまらないと感じている人たち」に、こんな発想の転換をプレゼンテーションすることにしたのです。
あなたがいま観ているテレビ番組が面白くないのなら、「面白い番組を観る」ようにすれば良いんじゃない?
これまでのテレビへの不満点として、「家でしか観られない」「決まった時間にしか観られない」「その時間にテレビの前にいることができないのなら、あらかじめ調べて録画機をセットしておかなければならない」「実際に観てみないと、その番組が面白いのかどうかわからない」というのがありました。
それでも、昔のビデオデッキに比べれば、いまのハードディスクレコーダーは、ものすごく便利になっているんですけどね。
著者がそこで思いついたのは「とにかく地上波の8チャンネルの番組を、過去3ヵ月間、全部録画しておく機械」だったのです。
「そんなの簡単じゃないか」「それで何が変わるの?」と僕も思っていたけれど、それだけのことで、かなり「テレビとの付き合い方」が変わってくるのです。
8チャンネルの番組を全部録画するというのは、チューナーも8個要るし、かなりハードに負担もかかり、ずっと動かしっぱなしなので、技術的にもそんなに簡単じゃなかったようです。
これで何が変わるかというと、まず、「みんなの評価を確認して、『面白かった番組』を厳選して観ることができるようになります。もちろん、好きな時間に。
ネットで話題になっている番組を「観ておけばよかった!」って思うことって、ありますよね。
でも、それをあらかじめ予測して「録画予約しておく」のは難しい。
「ガラポンTV」なら、「評判になっていることを確認してから、観ることができる」のです。
そして、携帯電話に配信あるいは転送すれば、どこででも観ることができる。
観る場所の制限もだいぶ緩和されます。
ちなみに、自分で録画した番組を自分で観る(外に配信してお金をとったりしない)のであれば、もちろん違法ではありません。
テレビは「つまらなくなっている」のかもしれません。
でも、「面白い番組」も、なかにはあるはずです。
日常生活を送っている一般的な成人であれば、1日にテレビを観られる時間って、平均1〜2時間くらいのものでしょう。
1日に1時間分くらいの「自分にあった面白い番組」を見つけるのは、ガラポンTVの機能とネットでの連携サイトを使えば、そんなに難しくはないはず。
個人的には、CS放送にも対応してくれたらなあ、なんて思いますし、スポーツ中継とかは、やっぱりリアルタイムじゃないと面白さが半減するような気がしますけど、それでも、付き合い方を変えれば、テレビはまだまだ面白い。
先日、高畑勲監督が『かぐや姫の物語』を制作している様子がテレビで紹介されていました。
原画に色がつけられていくところや、地井武男さんが翁の声を全身を使って演じているところ、かぐや姫役の声優さんが「十年」という言葉ひとつに、さんざん悩んで、いろんな表現を試みていたこと。
それを見ながら、「この様子を本で具体的に説明するのは難しいし、ネットのコンテンツでは、ここまで切り込む手間はかけられないだろうなあ」と僕は痛感していたのです。
テレビには、まだまだ力がある。
現時点では、テレビ番組をつくるためのお金は、CMによる広告収入から得られているので、「ガラポンTVでCMが早送りされるようになると、テレビが滅びるのではないか?」という問題はあります。
著者は、それに対しては「もともとガラポンTVで番組を再生する人は、その時間にテレビの前に居ることができない人なのだから、『家でテレビを観る人』とは競合しない」と考えているようです。
そして、いずれは「クラウド化」し、ユーザーがハードディスクを購入しなくても、月額課金で好きな番組を後追い再生できるようにし、「視聴の際には、通常のテレビCMではなく、ユーザーの属性や嗜好に合うようなCMを流す」ことも視野に入れています。
あと、ホリエモンこと、堀江貴文さんもガラポンTVの愛用者です。
ある日のツイッターで「決まった時間にテレビ番組を見るとか、刑務所にでもいないと無理だよな」とつぶやいていました。
刑務所のように時間や場所の自由を奪われた状態がテレビをリアルタイムで見ている状態だと言うわけです。
テレビを見る以外にやりたいことがある人は、時間や場所から自由であるべきですよね。
テレビ番組そのものは今のままでも、「観る環境を変える」だけで、テレビの可能性は大きく変わっていくのかもしれません。
僕も「ガラポンTV」の購入を検討してみます。