琥珀色の戯言

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【読書感想】つながる図書館 ☆☆☆☆☆


つながる図書館: コミュニティの核をめざす試み (ちくま新書)

つながる図書館: コミュニティの核をめざす試み (ちくま新書)

内容(「BOOK」データベースより)
最近、あなたの町の図書館に変化が起きてはいないだろうか。二十四時間貸出しが可能だったり、自動貸出機があったり、ビジネスや法律の相談もできたり、デジタルアーカイブが充実していたり。公共図書館はいま、無料貸本屋から脱して、地域を支える情報拠点としての施設にシフトし、町づくりの中核に図書館を据える自治体も登場している。年齢や、職業収入の差別なく、すべての人に開かれている無料の公共施設。私たちの人生にチャンスを与え、私たちの暮らす町をより豊かにする可能性を秘めている場所。そして社会の記憶集積装置。変わりつつある図書館の最前線へ出かけてみよう。いざ、図書館へ!


僕自身は、あまり熱心な図書館ユーザーではありません。
妻や息子はけっこう利用しているようなのですが、仕事と開館時間の関係や、読みたい本を借りに行き、また返すというのがめんどくさかったりして、新刊書店を利用することが多いのです。
最近はベストセラーも図書館に置かれるようになってはいますが、貸し出し待ちの人数が多くて、なかなか借りられないし。


いま、図書館はどうなっているのか?
本好きとして興味深いテーマだと思いつつも、図書館の利用頻度もあまり高くないので、図書館のイメージは、一昔前の「大きな学校図書館」や「僕が行っていた大学の図書館」から更新されないままでした。

 公立図書館は1970年代から貸出冊数の増加を推進してきたが、同時に「無料貸本屋」という批判も招いてしまっていた。そこで、ただ本の貸し出しをするのではなく、人々の抱える問題の解決を手助けし、地域を支える情報拠点としての図書館へとシフトしようという政策が立てられ、公共図書館の変革を導いている。そして、町づくりの中核に図書館をすえる自治体も登場しているのだ。
 都道府県や市町村が設置する公共図書館は現在、約3200館にのぼる。図書館や美術館、博物館など社会教育施設について、16歳以上の男女約1700人に聞いたところ、直近6ヵ月間の間に何らかの施設を利用した人は、64.5%で、最も使われた施設は図書館(43.2%)だった。次いで、「博物館・美術館」(21.2%)、「公民館」(19.2%)、「動物園・水族館・植物園」(16.4%)となっており、図書館が私たちにとって最も身近な公共施設であることがわかる(2006年文部科学省「学習活動やスポーツ、文化活動等に係るニーズと社会教育施設等に関する調査」より)。
 しかし、私たちは自分の町の図書館以外の図書館に足を運んだことがあるだろうか?
 かなりの読書家の方を除けば、普通はわざわざ他の町の図書館まで出かけたりはしない。他の町の図書館を知らないまま、自分の町の図書館に満足してしまってはいないだろうか?


この新書では、著者が実際に全国各地の「話題の図書館」を訪ね、その空気感も含めて書いておられます。
コンシェルジュが本を案内してくれる」という千代田図書館や、小さな町が、公募館長のもと「みんなで話し合ってつくった」まちとしょテラソ、さまざまな問題を抱えた人にアドバイスするのと同時に、その解決をする仕事をしている人への橋渡しまでしてくれる鳥取県立図書館など、全国には魅力的な図書館がたくさんあるんですね。

 閉館後の図書館は、昼間の図書館とはちょっと違う。子供たちがお気に入りのぬいぐるみを図書館にお泊まりさせ、翌日朝迎えに行くと、夜の図書館で遊ぶぬいぐるみたちの姿が写真に。一晩さびしかったけれど、ぬいぐるみが選んでくれた本を借り、ぬいぐるみと一緒におうちへ帰る子供たち。アメリカの公共図書館で始まったイベント「ぬいぐるみのお泊まり会」は、日本でも2010年から広まって各地で人気となっている。

こんなイベントも、各地で行われているんですね。
なんだかすごく楽しそう。


「オシャレで画期的な図書館」なんてつくれるのは、都会のお金がある自治体だけだろう、なんて思っていたのですが、地方でも市民に愛され、応援されながら、あまりお金をかけずに頑張っている図書館が、たくさんあることを知りました。


 同じ佐賀県内にある伊万里市図書館と、『TSUTAYA図書館』としてネットでもよく話題になっている武雄市図書館の比較は、大変興味深いものでした。
 「公立図書館の責務として、お金にならなくても、市民へのサービスを公の力で支えていくという覚悟を示している伊万里市図書館(だからこそ、この図書館を支えようというボランティアの市民もたくさんいるのです)。
 TSUTAYAの運営会社CCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)という「民間の営利企業の力」を導入することによって、これまでの図書館を打ち破るようなお洒落な空間を生みだし、多くの市民(+市外、県外の人たち)にも利用されるようになった武雄市図書館。
 著者は、武雄市図書館の第一印象を『代官山のTSUTAYAみたい」と述べています。

 武雄市図書館は開館から半年、2013年9月末までに52万人が訪れ、年間目標だった50万人の来館者数を突破した。一日の平均来館者数は2800人、週末ともなれば4000人が訪れる。図書貸し出しの利用者割合も興味深い。市内居住者が59.3%に対し、市外居住者が31.7%、県外居住者は6.1%にのぼっている。市外、県外からの来館者が多いのだ。

 そして、話題性や集客力で大きなインパクトを生みだした武雄市図書館を評価するのと同時に、こんな問題点も指摘しています。

 今、武雄市図書館はたしかに珍しいだろう。しかし、CCCは企業として当たり前の行動だが、全国の図書館に運営を広げる方針だ。もしも、あちこちに「TSUTAYA図書館」ができてしまえば、武雄市図書館の集客力は減っていくだろう。早ければ数年以内にそれは起きてしまうかもしれない。
 そこで、力を発揮するのは、小布施町が築きあげてきたような、他にはないオリジナルのコンテンツ力ではないだろうか。図書館の話からやや逸脱してしまうが、もし現在の武雄市図書館に樋渡市長のいうようなエンターテインメント施設という側面があり、全国からの集客を目指すのであれば、たとえば世界に誇る武雄蘭学をエンタメ化して、武雄市のブランドとすることも十分、できると思うのだ。それが引いては、市民価値の向上にもつながるのではないだろうか。

 たしかに、これは正論だと思うんですよ。
 ただ、九州在住で、武雄にも行ったことがあり、同規模の地方都市に何年も住んでいた経験から想像すると、多くの武雄市民、とくに若者たちにとっては「代官山のTSUTAYAが自分たちの『何もなかった街』にできたこと」って、すごく画期的なことだったはずです。
 都会での生活が長い人にとっては「どの図書館もTSUTAYAみたいに画一的になるのはもったいない」のかもしれません。
 でも、地方都市に住む人たちにとっては「都会と同じようなTSUTAYA」こそが、「欲しかったもの」なのです。
 おそらく、こういう「TSUTAYA図書館」は、これから全国各地に生まれ、珍しいものではなくなっていくのでしょうけど。


 「Tポイント制度導入に関連した、個人情報保護の問題」についても、この新書を読んでいて考えさせられました。
 公立の図書館では「誰がどんな本を借りたか」というのは、「個人情報として、厳密に保護されている」のが当然とされています。
 その一方で、都会にNPOなどが立ち上げている「個人の蔵書を集めた、マイクロ図書館」では、借りた本がSNSで表示されるようなシステムもあり「自分がどんな本を借りているのかを、自己表現のひとつとしてアピールしたがる人たち」もいるのです。
 
 
 著者は、この新書の終わりに、「これからの図書館」についての、こんな問題提起をしています。

 それからもうひとつ、公共図書館の変化と表裏一体なのが、指定管理者制度や官製ワーキングプアの問題だ。それだけで分厚い本が書けてしまうほど、根深い問題でもある。今回はそのさわりしか書くことができなかったが、これも今後の課題としたい。

 「公立無料貸本屋」ではない、新しい図書館の姿に感銘を受けるとともに、「サービスの向上が叫ばれる一方で、開館時間の延長や業務の範囲が広がることで働いている人たちの負担が大きくなってきている」し、民間の力を導入するということは「利益を確保するために、より安いコストでの運営が求められる」面もあるのです。
 それもまた、一方の現実として無視することはできません。
 図書館もまた「ブラック企業化」しつつあるのです。
(ある意味、いまの日本で「ブラックじゃない職場」って、都市伝説じゃないか、とすら思えてくるのですが……)


 最初に書いたように、僕は最近図書館とは疎遠になっていたのですが、この新書を読んで、「図書館観光」もけっこう楽しそうだな、と思えてきたんですよね。
 たしかに、本好きにとって、良い図書館がある街は、それだけで魅力的ですから。

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