琥珀色の戯言

【読書感想】【映画感想】のブログです。2016年8月より、『はてなブログ』に移行しました。

【読書感想】アングラマネー ☆☆☆☆



Kindle版もあります。

内容紹介
各国が規制強化!
しかし、もはや裏金・闇資金が、世界経済の中心にある。


世界各国の税収が極端に減少している。税金は表の経済にしか、かけられないからだ。タックスヘイブン(租税回避地)やシャドーバンキング(影の銀行)を使った、いわゆる脱税や資産隠し、麻薬や売春や賭博によって生まれ蓄えられた金をアングラマネーと呼ぶ。世界の年間総生産70兆ドルの約25%がタックスヘイブンに流れ、シャドーバンキングの規模は約67兆ドルにまで拡大。もはや中央銀行IMFも制御できない闇資金の環流が世界経済を揺さぶっている。その歴史と仕組み、各国最新事情を詳細に解説した画期的な書。


・世界の3大脱税国はアメリカ、ブラジル、イタリア
・アップルが開発し、世界のグローバル企業が軒並み利用する合法的脱税スキームとは!?
・脱税の規制を強化をするアメリカ自体が、巨大な脱税とマネロンのメッカ
・世界で最も複雑なロンドン「シティ」とイギリス領ケイマン諸島の仕組み
・国際的な規制強化で追い詰められた銀行国家スイス
バチカンとマフィアが中心!? イタリアはGDPの35%がアングラ経済
・取り締まり強化でヴァーチャル化するアングラマネー ほか


みんな、自分自身に関しては「なるべく税金を払いたくない」と思っているけれど、他人の「節税」に関してはあまり好感を抱きませんよね。
「脱税」となれば、なおさらのことです。
税金に対する人間の感覚というのは、なにかと矛盾しやすいもののようです。


それにしても、アングラマネーが、こんなに大規模なものだったとは……


著者は、冒頭で日本の郵便貯金を例にあげて、「状況によっては、官の『お目こぼし』がみられる場合もある」と説明しています。

 郵貯の預入限度額は、1人あたり1000万円であった。筆者の子供の頃は、確か300万円であったと記憶する。これが高度成長と共にその上限が引き上げられていったのである。
 日本が高度成長に沸いた時代は、高額の所得税を逃れるために、このような節税、脱法行為(郵貯口座の名義貸しなど)が庶民の間では、ほとんど罪悪感なく行われていたのである。
 それではこれが一方的に反社会的な行為であったかと言えば、必ずしもそうではない。郵貯の場合、これが財源となって国が財政投融資計画(財投)を行った。これは「第2予算」と言われたように、戦後日本の社会インフラを建設することに大きな役割を果たした。つまり、高速道路、上下水道、港湾、鉄道等の公共建築などの社会インフラを作るために、庶民の郵便貯金は大いに活用されたのである。敗戦後の日本は、資本不足であった。財投の資金源となる郵便貯金や簡易保険の資金量は多ければ多いほど、国家の発展のために役立ったのである。国民の側も、自らの郵貯が財政を通じて国家の発展に寄与するという若干の参加意識を持つことができた。私と同年代(著者は1952年生まれ)より上の人たちならば、子供の頃に、お小遣いを郵便貯金に積み立てるように勧められた記憶を持っているに違いない。お年玉などは使い切ってしまわずに、郵便局に貯金するように親に勧められた。中学生の社会科の時間で、その郵便局の貯金が財政投融資といって、国家のインフラ建設に使われていることを教えてもらった。国民の目標と国家の目標が一致していた幸福な時代であった、とも言える。
 今、振り返っていて面白いのは、郵政省はもちろん、税金の取り立てにうるさい大蔵省ですら、こういった郵貯口座の名義貸しに極めて寛容であったことだ。

いまは預金口座の本人確認が厳しくなっていますが(悪いことに使う人も多いですしね)、昔の郵貯口座は「ペットの名前をとった『斎藤タマ』『高橋ポチ』や『織田信長』『徳川家康』等という名義の口座が相当数あった」そうです。
著者は、「当時、もちろん大蔵省はこのことを知っていたにもかかわらず、社会情勢をみて、『黙認』していたのだ」と述べています。
敗戦後、高度成長時代の徒花、という面はあったのかもしれませんが、たしかに、「郵貯マネー」が日本のインフラに貢献しており、庶民のこういう「税金対策」を大蔵省が黙認していた時代もあったのです。
なんでも厳格にやることばかりが「正しい」とは限らない、というのもまた、事実ではあるのでしょう。


とはいえ、あまりにもその金額が大きくなってしまうと、各国政府としては黙認するわけにもいきません。

 現在の世界経済の年間総生産は、約70兆ドルである(IMF2012年予測値71兆2774億ドル)。この世界の総生産の約4分の1がタックスヘイブンに吸収されると推測されている。つまり約17.8兆ドルである。これは流入する数字であるが、もちろんここからは流出もしている。タックスヘイブンに存在する預金の総額がどのくらいかと言えば、約32兆ドルであると言われている。


ちなみに、著者は「タックスヘイブン」の定義を、以下のような国や地域(自治領)としています。

(1)税金が極めて安い。特に資本収入に対して無税か税率が非常に低い。そして、企業活動に関する規制が極めて緩い。
(2)外国の政府に対して、企業や銀行の情報提供を拒否する。もちろん国内でも情報公開しない。つまり、その地域で行われている金融やビジネスの活動について極めて透明性が低い。
(3)非居住者(個人・法人)の資金を大量に流入させている。非居住者の大規模な金融資金を惹きつけている理由は、上記の(1)と(2)である。

 具体的には、(1)ヨーロッパ大陸のスイス、リヒテンシュタインルクセンブルクモナコアンドラ公国、地中海のキプロス、マルタなどや、(2)ロンドンの金融街シティを中心としたイギリス領(旧領も含む)のネットワーク(カリブ海ケイマン諸島など)、(3)アメリカ本土のデラウェア州ワイオミング州ネバダ州、フロリダ州のマイアミなど、(4)前記以外のアフリカのソマリアや南米のウルグアイのような世界に散在するタックスヘイブン、などがあるそうです。

 僕はこの新書を読むまで、ロンドンの「シティ」が、こんなに大きな力を持っていて、ニューヨークのウォール街や東京の兜町とは全く別種の「金融王国」を形成しているとは知りませんでした。
 また、バチカン市国も、ある種の「タックスヘイブン」として機能している、ということです。


 そして、「タックスヘイブン」=「スイス銀行」というイメージを持っていたのですが、アメリカなどの圧力(とくに、同時多発テロ後)によって、スイスの銀行も「情報公開」が求められるようになり、その「タックスヘイブン」としての力はかなり弱体化してきているのです。
 アングラマネーの「世界地図」も、塗り替えられてきているんですね。



 また、この新書を読んでいると、Googleなどの世界的な企業が、さまざまな国の課税システムの抜け穴をうまく利用して「節税」をはかっているというのがよくわかります。

 2010年、ゼネラル・エレクトロニクス(GE)は140億ドルの利益を上げながら、アメリカで法人税を一切、払わなかった。この事実が大きな衝撃をアメリカ人に与えている。多国籍企業という言葉があるが、広く受け入れられている定義は、「アメリカで売上高500社以内で、5ヵ国以上の外国に製造子会社を持つ企業のこと」である。GEやゼネラルモーターズGM)、インテルIBMなどがその代表格である。GEは、老舗の名門企業だが、新興勢力であるグーグルも、2007年〜2010年にかけて、国外の営業活動で31億ドルもの税金を節税していたことがわかっている。多くの企業が、タックスヘイブン租税回避地)にある自らの子会社に利益を移転し、それによる合法的節税を行っているのである。少々古いが、2004年のアメリカ財務省の資料によれば、米系多国籍企業は、国外で7000億ドルの利益を計上しているが、米国政府に支払われた税額は160億ドルに過ぎなかった。税率にして、たった2.3%である。米国内の法人税の税率は35%であり、ドイツは約30%、日本は先進国中で最も高く約40%である。2.3%の税率というのは、ほとんど脱税と言ってもよいレベルである。アングラマネーとは言えないが、「極端な節税」と「利益隠し」と批判されても仕方がない。2004年のアメリカ企業トップ2000社の実効法人税率(利益の内から実際に支払われた税率)は、28.3%であった。
 米国会計検査院(GAO)によれば、アメリカの多国籍企業トップ100社の中で、83社は節税目的のペーパー会社を海外に設立している。つまり、タックスヘイブンを利用した節税である。

それは、彼らにとっては「節税」でも、傍からみれば「アメリカの企業だと銘打っているけれど、アメリカに納税していない」わけです。
なんかズルいというか、それでいいのか?と思うのだけれど、彼らにしてみれば「税金を安く済ませる方法が存在しているのに、それをやらずに真面目に納税して利益を減らしては、株主にその『怠慢』を責められる可能性もある」のだとか。
マフィアの資金とかならともかく、まともな(はずの)企業でさえも、「とにかく自社の、株主の利益を優先する」という思考に染まっているわけです。


企業からの献金の影響もあり、それを踏み込んで浄化しようという政治家もなかなか現れない、というのが実情です。
「真面目に税金を納めている人が、バカをみている」ような気がしますよね。
個人単位で、こんなシステマティックな「節税」なんてできませんし。
これって、本当にごくひとにぎりの人だけが大儲けしているのだよなあ……


 イタリアの章での中国に対する記述には、著者の「中国への脅威(あるいは嫌悪感)」がちょっと見え過ぎていて、かえって偏っているような気もしますが、とりあえず世界経済というのは、「きれいごとだけでは済まない状況」になっているというのがよくわかる一冊です。
 まあ、「自分には関係ない話」と感じてしまうのも、事実なんですけど……

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