琥珀色の戯言

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【読書感想】万引きの文化史 ☆☆☆☆


万引きの文化史 (ヒストリカル・スタディーズ03)

万引きの文化史 (ヒストリカル・スタディーズ03)

内容紹介
なぜ人は万引きをするのか?


その歴史は16世紀のロンドンで始まった…。
全米の検挙者数は総人口の9%、日本の被害額は年間4500億円以上…。
世界第2位の万引き大国=日本、必読の一冊。


「なぜ人は万引きをするのか?」
生活苦から万引きをする人もいれば、スリルを味わいたい人もいる。
依存症のような、病的なものだと主張する人もいます。
子どもにとっては、仲間と「共犯者」になることが、ある種の「通過儀礼」になってしまっている場合もあるのです。
この本では、16世紀のロンドンからはじまった「万引きの歴史」と「人々は『万引き』をどうみてきたか?」が検証されています。

 万引きの歴史についても調べてみた。それは16世紀のロンドンにさかのぼる。都市化と大量消費社会の到来によって、ロンドンがヨーロッパ最大の商都となった時代だ。当時のロンドンでは、代金が5シリングを超える商品を万引きした客は絞首刑になった。産業革命後のパリには新しいタイプの万引き犯が現れた――魅惑的な商品が並ぶ”夢の国”に惹きつけられる者たちだ。パリの新しい百貨店に最新の流行を求めて集まってくる常習万引き犯に対し、精神科医によって初めて”窃盗症(クリプトマニア)”という病名がつけられた。

 「万引き」で絞首刑!
 『レ・ミゼラブル』でのジャンバルジャンへの量刑を考えても、「窃盗」に対する昔の量刑は、かなり厳しかったようです。
 しかし、「絞首刑」になる時代でも、万引きがなくなることはなかったんですよね。
 そして、その後現在にいたるまで、「万引き」というのは、さまざまな「解釈」をされながら、行われ続けているのです。

 貧しい者がパンを盗むのは容易に想像できても、裕福な人物が地位も名誉も危険にさらして万引きという行為におよんだならば、その背後には何があるのだろうかと考えずにはいられない。かくして、心理学や精神分析、精神医学、犯罪学の専門家は「人はなぜ万引きをするのか?」と議論を重ね、現在もなお、多彩な学説や意見を提示しつづけている。
 そして、万引きが犯罪であるかぎり、各時代の法学者や政治家は。どのような処罰がもっとも適切であるのか、議論を闘わせてきた。万引きを疾病や依存症とみなすなら、医師や社会学者やセルフヘルプの活動家たちは、更生プログラムを開発する。
 さらに、万引きは文学作品にも影響を与えた。十七世紀にイギリスで初めて近代小説が誕生したころ、その記念すべき第一作の主人公は、当時の有名な女窃盗犯をモデルにしていた。やがて精神医学の分野で窃盗症という言葉が使われだすと、十九世紀末のフランスではそうした女性を主人公にした作品が数多く書かれた。
哲学や思想への影響も大きい。十八世紀のフランスの大思想家ジャン=ジャック・ルソーは、軽窃盗を単なる犯罪とはみなさず、貴族階級や君主制への反逆であると論じた。最終的にルソーは、人を盗みに走らせるのは社会だと述べている。一方で、十八世紀末に資本主義が台頭して新たな物欲が刺激され、そうした物欲を満たすことのできる消費者層が拡大したため、この時代に窃盗犯罪が急増した、と分析する哲学者もいる。
 時代がくだって、1970年代のアメリカでは、既成の価値観からの解放を主張し”革命としての万引き”という思想を世に広めたのは、『この本を盗め』を書いたアビー・ホフマンである。二十一世紀になると、大量生産・大量消費・大量廃棄型社会を批判する立場から、”道徳的万引き”という主義を貫いて生活する活動家や芸術家が現れた。

「万引き」というのは、さまざまな解釈がされすぎている「犯罪」なんですよね。
これまでの歴史のなかでも、「生活に困って万引きをした貧しい人」や「職業的な窃盗犯」に対しては厳しい刑罰が科せられがちな一方で、裕福な人やハリウッドスターの万引き犯は「お金があるのに万引きをするのは、なんらかの『病気』なのだ」という解釈で、収監ではなく病院での治療を指示されることも多かったのです。
同じ「万引き」をやっても、「理由がわかる人」のほうが、重い刑を科せられる。
それは、本当に「正しい」のかどうか?
2001年には、ウィノナ・ライダーさんの「万引き癖」がかなり話題になりました。
アメリカの政府高官の万引き事件も紹介されています。
有名人でも、お金があっても、社会的地位が高くても、万引きをする人はする。


現実的には、万引きは小売店にとっては宿敵で、薄利多売でやっている店にとっては、死活問題でもあるのです。
とうてい、放置しておけるようなものじゃない。
著者によると、「小売店は盗難損失補填の目的で商品価格を値上げしており、それはけっして少額ではない」とのことです。
誰かの万引きが、めぐりめぐって、他の「善良な消費者」に影響を与えているのです。
とはいえ、「万引きは絞首刑!」とは言えない。

<全米万引き防止協会>(NASP)の発表によると、万引き犯罪の検挙者数は二千七百万人にのぼり、総人口の9パーセントを占める。一方、アメリカ人4万93人を対象とした大規模調査――<2001年アルコールおよび関連疾患に関する疫学調査>では、万引き経験のある人は11パーセントで、10パーセントの人々が生涯、万引きをやめられないと答えた。10パーセントというと、コカインかメタンフェタミンを使ったことのあるアメリカのティーンエイジャーの割合よりも高い。

万引きは検挙率が低い犯罪でもあり、実際は、この「10パーセント前後」よりも少し高いかもしれない、と著者は推測しています。
うーん、「10人に1人の犯罪」であれば、あまりのも一般的すぎて、「異常」とも言えないような気もしてきます。


ちなみに、2003年にイギリスの新聞各紙に「センター・フォー・リテイル・リサーチ社」による「万引きされやすい品物トップ10」が掲載されたそうです(1位以外は、ブランド名を限定せず、商品カテゴリーのみの発表)。

1.<ジレット>のひげそりと替刃
2.化粧品と酒類
3.衣料品
4.ランジェリー
5.電池
6.CD、DVD
7.ビタミン剤と妊娠検査キット
8.高品質歯ブラシ
9.インスタントコーヒー
10.ステーキ肉

たしかにあのひげそりと替刃、けっこう高いですからねえ。小さくて隠しやすい、というのもあるのでしょう。
この内容をみても「価格のわりに軽いもの」と「レジに持っていくのがちょっと恥ずかしいと感じる人がいるもの」が多くを占めているようです。


「犯罪」なのか「病気」なのか「社会的へのアピール」なのか……
本当に「ガマンできない」ものなのか?


10人に1人が、罹患する病気。
あるいは、犯してしまう罪。
「万引き」の世界は、本当に奥が深い。

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