琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

【読書感想】漫喫漫玉日記 四コマ便 ☆☆☆☆


内容紹介
おまたせしました!! 玉吉復活!! 2ヶ月連続敢行!!


長きに渡るスランプから復帰した桜玉吉!!
彼の新作が2ヶ月に渡り敢行される!!
空白の期間の様子を赤裸々に語ったインタビューつき!!


『漫喫漫玉日記 深夜便』に続いて発売された、桜玉吉さんの復帰作。
 実際は、この「『コミックビーム』宣伝四コマ」は、玉吉さんの長期休養中も『週刊ファミ通』で地道に書き継がれていたもので、「玉吉さんの生存確認」みたいな気持ちで、ずっと眺めていました。
しあわせのかたち』からずっと、玉吉さんのファンだった僕としては、1ページに1本の4コマしか掲載されておらず、奥村編集長との対談も上下のスペース空きすぎ!なんて思いつつも、とにかく玉吉さんの本が出たことそのものに感謝せずにはいられません。
 しかしこれ、分量的にも、なんとか一冊の単行本にするのはけっこう大変だったのではないかなあ。


 ファンとしての「読みどころ」は、やはり、玉吉さんと、長年の盟友(悪友?)である『コミックビーム』奥村編集長との、長期休養中のことについての対談、ということになります。
 2009年11月から、2011年2月までの玉吉さんは、欝の極地で、「最悪の時期」だったそうです。

O村(奥村):プライベートありーの、仕事関係ありーので、あの頃、アナタと話してても恨み言しか言ってなかったもんね。こりゃ、やべーなあって思ってた。


(桜)玉吉:完全に被害妄想入ってるからね。


O村:普通だったら大した問題じゃねえこともクドクドと……。余裕無かったんだねえ。


玉吉:そう見えただろうね。他に逃げ場が無かったからね。


O村:ちょっと長いページの仕事やろうと思ったら、”中の人”が出てきて仕事の邪魔するしな。


玉吉:あー”中の人”ねえ……。ダンナ見てるもんね、”中の人”。


この時期は、本当に大変だったようで、O村さんも「アナタの40代後半、これでぶっとび」なんて仰っています。
対談を読んでいて感じるのは、「やばい状態」だった玉吉さんを、ずっと見守り続けてきた奥村さんの情の厚さ、なんですよ。
これまで、玉吉さんの日常系漫画のなかでは、さんざんやりあい、体を張ってネタも提供してきた奥村ですが、玉吉さんがここまで「難しい状態」になっても、編集者として、友人として「見捨てる」ことはありませんでした。
それは、けっして簡単なことではなかったと思います。
こういう「最悪の時期」が5年くらい続いたそうで、その頃の玉吉さんはマンガもほとんど書けず、被害妄想もあってクドクドとどうでもいいようなことを言い続ける、という状態だったのだとか。


テルマエ・ロマエ』では、ヤマザキマリさんと「契約についての見解の相違」があって、批判されたりもしたコミック・ビーム編集部なのですが、この奥村さんと玉吉さんの関係をみると、奥村さんは「古き良き時代の、日本のマンガ編集者」であり、公私において、責任を持ってマンガ家を支えるタイプなのだなあ、と感動すらしてしまうのです。
もちろん、「そういうのは古い」のかもしれないけれども、奥村さんがいなかったら、玉吉さんは復帰できなかったのではないかなあ。
相性というのはあるのでしょうけど、「古いタイプの日本のマンガ編集者」も、そんなに捨てたものではない、と僕は思うのです。
もちろん、桜玉吉というマンガ家の作品が、『コミックビーム』にとっては必要不可欠、という判断もあったのかもしれませんが。


東日本大震災が、玉吉さんの「社会復帰」のひとつのきっかけとなったのです。

O村:だけどアナタ、あの日以降、外へ出るようになったんだよな。


玉吉:うん。


O村:普通さあ、地震やら放射能やらって話になって、外出するのはどうよ? って状態になって、外うろつき始めるってのは、どんだけ天邪鬼なのよ? なんでそーなんの?


玉吉:わからねえよ! ただ……震災後、原発事故で放射能が漂い始めた時あたりに、NHK観ててさ、電波調整用にかわいい子犬の映像が流れて、その後、日本の四季がただ流されててさあ、綺麗な自然、山、川、花、樹木……それで涙が止まらなくなっちゃった。


O村:あ、俺も似たようなことあったなあ。


 ああ、玉吉さんは、震災という体験で、「何か」のスイッチが切り替わったのだろうか。
 そして、そういう人は、少なくないのかもしれません。


 この四コマ便については、これまでの「桜玉吉の歴史」を知らないと、「何これ?」と思われてしまうのではないかと、僕は危惧しています。
 というか、ファンというのは「玉吉さんが生きていてくれて、本が出た」というだけで、満点に近いくらいの評価をしてしまうものなので、初見の人が、玉吉さんのマンガをどう評価するのか、想像もつかないところはあるわけで。
 もしこれから桜玉吉のマンガを読んでみよう、という方がいらっしゃったら、この作品よりは『幽玄漫玉日記』あたりから読みはじめることをオススメしておきます。
 とりあえず、玉吉さんが、いま、生きているというだけで、僕はけっこう嬉しい。

 

幽玄漫玉日記1巻 (ビームコミックス文庫)

幽玄漫玉日記1巻 (ビームコミックス文庫)

アクセスカウンター