琥珀色の戯言

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【読書感想】USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか? ☆☆☆☆



Kindle版もあります。
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年間集客2年連続100万人以上UP! 資源は、アイデア
ヒットメーカーが明かす、アイデア発想・4つの技法
2001年の開業年に年間1100万人を集客しながら、その後、700万人台まで落ち込んでいたユニバーサル・スタジオ・ジャパンを、“3段ロケット構想"でV字回復させた立役者、森岡毅CMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)の初の著書。森岡氏はお金もない、人も足りない、9回裏ランナーなしの状態から、「後ろ向きに走るジェットコースター」などずば抜けたアイデアを次々に繰り出し、ヒットを連発。USJのV字回復の立役者となった。本書では、USJのドラマチックなV字回復の軌跡をたどりながら、「アイデア発想の技術」をやさしく学ぶことができる。


 僕はUSJユニバーサル・スタジオ・ジャパン)に、行ったことがありません。
 九州在住の僕にとっては、東京ディズニーランドやディズニーシーの集客数などはニュースでときどき目にしますし、ハウステンボスの「業績のV字回復」も新聞やテレビでよく見かける話題なのですが、USJがこんなに業績を上げてきていることは知りませんでした。

 私が働くテーマパーク、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンUSJ)は、2001年にハリウッド映画のテーマパークとして誕生しました。世界中のどのテーマパークよりも早いペースで開業からの来場者数が1000万人を突破し、年間の来場者数も1100万人を達成しました。しかし、その後は800万人前後に落ち込み、私が着任する直前の数年間は700万人台の前半まで低迷していました。
 それがここ3年間で業績を急上昇させて、「USJが奇跡的なV字回復!」と、多くのメディアで取り上げていただけるようになりました。2012年度の年間集客は、低迷時の1.4倍近い1000万人に迫るところまで伸び、2013年度も見込みではさらにそれを上回る勢いです。
 数字だけ見ると、確かに鮮やかで奇跡的な成功に見えます。しかし、改革の陣頭に立って走り続けてきた当人には、美しかったり鮮やかだったりする側面はどこにも見えないのです。
 悪戦苦闘、七転八起の連続だった泥臭い足跡と、何度も訪れた絶体絶命のピンチをなんとか切り抜けていきたヒヤヒヤの残像……。私の脳裏に蘇るのは、発狂しそうなくらいドラマチックだった3年間の記憶です。

 外資系のメーカー(P&G)でヘアケア製品のマーケティングを担当していたという著者は、もともと「エンターテインメント好き」だったこともあり、2010年の6月に、株式会社ユー・エス・ジェイに転職します。
 著者は、マーケティングの専門家ではありましたが、エンターテインメント業界での経験は皆無だったそうです。
 この3年間には、東日本大震災も発生しており、直接被害を受けたわけではない関西でも「自粛ムード」で来場者数が激減した時期がありました。
 そんななか、著者はその「発想力」で、USJにたくさんのお客さんを集めることに成功していくのです。
 2014年にオープン予定の目玉アトラクション「The Wizarding World of Harry Potter」に集中して資金を投入するため(この施設の建設には、450億円を投資するそうです。USJの年間売り上げは約800億円)、その他の事業のため使えるお金がほとんどなく、さりとて、経営状態が悪化すれば、ハリー・ポッターのアトラクションが完成する前に潰れてしまうかもしれない、そんな綱渡りの状況下での3年間。


 著者がやってくるまでのUSJは、かなり厳しい状況にありました。
 テーマパークの常として、最初は物珍しさに周囲の人たちが来場してくれますが、リピーターを獲得できなければ、じり貧になっていきます。
 著者は、外部からきた人間として、きわめて冷静に「USJの弱点」を分析していきます。
 そして、それまでインターネットなどで言われてきた「USJが駄目な理由」の誤りを、こんなふうに指摘しています。

 要するに「映画だけにこだわらないとディズニーブランドと差別化できなくなるから絶対に集客できなくなる」のだそうです。大変失礼ですが、「ああ、実戦経験の足らない自称マーケターは多いな」と私は思いました。
 その「映画だけにこだわること」こそが戦略上の大きなミスなのです。この日本において、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンが、どうしてディズニーランドと差別化しないといけないのでしょうか?
 そもそも、USJTDR東京ディズニーリゾート)の間には激しい集客競合がほとんどないのです。その証拠に、この数年間で急激な二桁成長を続けるUSJですが、TDRはその煽りを受けるどころか、ちゃんと集客を伸ばしていますよね?
 その理由は、東京と大阪の間には交通費という「3万円の川」が流れているからです。両方のマーケットは分断されているのです。その川を渡って向こう岸に行く人の割合は、USJ側から見ると実は全集客の1割にも満たないのです。


(中略)


 映画が大好きで大好きで、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンにも何度も行きたくなる……。もしもそんな私のような映画ラブな消費者が「十分な人数」マーケットに存在するのであれば、「映画だけ」のパークも戦略の1つのオプションとなります。
 しかし、実際の世の中はそうはなっていないんですね。USJが年間集客400万人のパークで良いならば、「映画だけ」にこだわるのもありだと思います。しかし、実際にそのレベルの集客では、これほどの巨大パークを維持運営することは不可能です。
「映画だけ」を望む人々に対しては申し訳ないですが、私が「映画だけ」では駄目だと思った最大の理由がこれです。「映画だけ」にこだわっても、映画好きな人が年間に10回来てくれるわけでも、10倍のお金を落としてくれる訳でもないのです。


 著者はこの後「人がエンターテインメントを楽しむときに、映画コンテンツを見ている確率は「約1割」だという数字を挙げて、「映画だけでは十分な集客を見込めない理由」を説明しています。
 「映画はエンターテインメントのなかでは堂々の1位だけれども、それでも『1割』なのだ」と。
 そこで、マンガ『ONE PIECE』やテレビゲーム『モンスターハンター』とのコラボレーションなども取り入れ、これまで「カップル向けの大人の雰囲気」だったパークに、ファミリー向けのエリアを増設し、集客力アップを目指しました。
 結果をみてみれば「当然の選択」だった思われますが、「映画のテーマパークとして差別化するべきではないか」という声は、USJ内部からも根強かったそうです。
 「ただ『なんでもあり』にするのではなく、クオリティが高いものを提供すること」が前提だったからこそ、うまくいったのです。

 
 USJには高い技術があったのですが、それをうまく活かしきれていないところもあったようです。

 例えば、私の入社以前の話なのですが、ショー・アトラクション「ピーターパンのネバーランド」で登場する海賊船に、職人がお金と時間をかけて超ハイレベルなエイジング塗装(汚し=経年劣化をリアルに感じされる特殊塗装)をしました。ところがその結果、肝心のゲストには「海賊船があまりにボロボロで古くて汚い」と不評だったことがありました。

 こういうのは、本当に「もったいない」としか言いようがありません。
 どんなにすばらしい技術でも、その使いどころが悪ければ、労力に見合った効果は得られないのです。
 著者は、資金や時間に限りがあるからこそ、「どこに集中的に資源を投下していくか」を考え抜いたのです。


 著者は、すごいアイディアを次々に思いつき、それを実現して、まるで魔法のようにUSJを「V字回復」させていくのですが、この本を読んでいると、そこには「特殊な才能」では片付けられない苦闘があったようです。
 簡単にアイディアが浮かんでくるわけではなくて、アイディアが浮かんでくるまで、ひたすら考え続ける、だからこそ、いつかはひらめきが生まれる。
 率直に言うと、こんなの真似できる人は、ほとんどいないんじゃないか、とは思うのですけど、ひとりの人間の発想の力で、あんなに大きなテーマパークが変わっていくという物語は、とても魅力的なんですよね。

 その夜のことです。
 疲れた心をベッドに転がして、いつものように何かアイデアはないかと考えながら、私は眠りに落ちていきました。
 すると夢を見ました。ものすごく鮮やかなカラーの夢を久しぶりに見たのです。
 その夢の中で私は見てしまったのです。
 ハリウッド・ドリーム・ザ・ライドが走り抜けたあの昼間の映像が、逆回転再生されているシーンをまじまじと見ていたのです。
 そのとき、コースターはいつもの右から左ではなく、左から右に走り抜けていったのです!
 私はガバッと跳ね起きました! 
 夜中の午前2時34分、寝ている間についにアイデアの神様がやってきたのです!

 しかし、このアイデアも、すぐに周囲に受けいれられたわけではなく、「安全性の問題がある」「一度当局の認可を前向きで取ったライドを別目的に取り直すという前例がない」など、ネガティブな反応もあったのです。
 さらに、技術陣はこうも言ったそうです。

「後ろ向きコースターのアイデアがそんなに消費者にウケる素晴らしいアイデアならば、世界中にいるコースターの専門家が既に思いついてやっているはずです。どこにもそんな後ろ向きの高速コースターが存在しないことを見れば、それをやらない方が良い理由が必ずあるはずです」

 著者は「安全性」「認可」についてはさておき、この技術陣の反応には心底腹が立った、と述べておられます。
 目の前のアイディアに対して、まず「やらない理由」「できない理由」を探してしまうのでは、新しいことは何もできない、と。
 ああ、でもこれ、僕も技術者だったら、こういうことを言いそうだなあ、と身につまされてしまったんですよね。
 案外「誰でも思いつきそうなのに、いや、誰でも思いつきそうだからこそ、誰もやっていないこと」って、あるのかもしれません。
 結局、このアイディアは「ハリウッド・ドリーム・ザ・ライド〜バックドロップ」として実を結び、2013年春にオープンしてすぐに長蛇の列ができ、日本でのアトラクションの待ち時間記録を更新(9時間40分、2013年3月21日)したのです。
 それにしても、10時間近くって……開園時間に入場しても、これに乗って帰るだけになりそうですよね。
 

 著者の「発想法」も紹介されており、「どう問題にアプローチして良いのかわからず、アイディアがなかなか出てこない人」にとっても、何かのきっかけを与えてくれる本だと思います。
 「できない理由」ばかりを思い浮かべて諦める前に、やるべきことが、きっとある。
 USJにとっての「切り札」の「The Wizarding World of Harry Potter」、僕もぜひ体験してみたいと思っています。

 

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