琥珀色の戯言

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【読書感想】とっぴんぱらりの風太郎 ☆☆☆☆


とっぴんぱらりの風太郎

とっぴんぱらりの風太郎


Kindle版もあります。かなり分厚い本だったので、僕はこちらで読みました。

とっぴんぱらりの風太郎

とっぴんぱらりの風太郎

内容(「BOOK」データベースより)
天下は豊臣から徳川へ―。重なりあった不運の末に、あえなく伊賀を追い出され、京(みやこ)でぼんくらな日々を送る“ニート忍者”風太郎。その人生は、1個のひょうたんとの出会いを経て、奇妙な方向へ転がっていく。やがて迫る、ふたたびの戦乱の気配。だましだまされ、斬っては斬られ、燃えさかる天守閣を目指す風太郎の前に現れたものとは?


 書店でこの本を見かけ、「おお、万城目さん新作が出たのか」と手にとろうとして、驚きました。
 ぶ、分厚い……
 万城目さんの新作(といっても、僕が読んだのが遅かっただけで、けっこう前に出ているのですが)は、なんと752ページの超大作。
 これだけのボリュームであれば、上下巻に分冊しても、ほとんどの人は納得すると思うのですが、一冊にまとめて1995円の良心的な価格設定です(Kindle版なら1500円)。
 本の価格というのは、初版部数で決まる、というのをどこかで聞いたことがあるのですが、それにしても頑張った価格だなあ、と。
 たしかに、一冊2000円を超えると、専門書とか写真集でもないかぎり、ちょっと手を出しにくい気がしますしね。


 さて、この『とっぴんぱらりの風太郎』、関ヶ原の戦い以降〜大坂の陣の時代を舞台とした「忍者アクション活劇」なのです。
 主人公のちょっとした間違いから主家を追われる羽目になったニート忍者「風太郎(ぷうたろう)」。
 彼と虚々実々の駆け引きをみせる、元仲間の忍者たち。
 「戦いではなく、大御所(徳川家康)に頭を下げることによって、大名家や平和を維持できる時代」を生きざるをえなかった「遅れてきた忍者たち」の姿は、なんだか「日本経済が右肩上がりだった時代」を知らずに大人になってしまった若者たちに重なってしまうところもあるのです。
 主家から道具のように使い捨てにされるのが当然だった忍者たちは、戦乱の時代の終わりだからこそ「自分の生き方」に悩んでしまうんですよね。
 「自由」になれる、なってもいいはずなのに、「義理」とか「忠誠」みたいなものに縛られてしまう、というか、自分で自分を縛ってしまう。
 いやまあ、読んでいる間は、山田風太郎先生へのオマージュを感じる「なんでもありの忍者活劇」なんですけどね。
 読み終えたあとに、なんだかとても「ずっしりくる」のです。
 メガ・ノベル症候群(分厚い本を時間をかけて読むと「これを読み終えた自分をほめてあげたい」という気持ちが加味されて、評価が上がりやすい)なのかもしれないけれども。

 
 これまでの万城目作品に比べると、かなり残酷なシーンも出てきます。
 人もバンバン死にます。
 最初のほうを読んで、コミカル路線なんだろうな、と思っていたのですが、中盤に風太郎がいくさに駆り出される場面あたりから、けっこう読んでいて精神的にキツイと感じるところもあったんですよね。
 そういう「戦争という悲劇」を描くための作品として、成功している、ということでもあるのですが。
 万城目さんは、この作品では、人間の死生に関して、つとめて淡々と描いておられるように感じます。
 でも、その根底には、ものすごく熱いものもあって。

 
 ただ、752ページは、やっぱり長いよなあ、と感じたのも事実です。
 電子書籍で読んでいると、「既読率が1%増えるのに、ものすごく時間がかかる」ような気がしました。
 話としても、「前置き」とか「ひょうたんの育て方」がけっこう詳しく書かれているため、盛り上がってくるのが半分過ぎくらいからなので、ちょっと間延びします。
 万城目さんが書く日常会話が好きな人や、ひょうたん栽培に興味がある人にとっては、前半のほうが楽しいのかもしれませんね。


 時代劇らしい時代劇、というわけではないのだけれども、時代劇という形式を借りて、万城目さんが「いま、書きたいこと」をすべて書いた作品なのでしょう。
 それだけに、このボリュームになってしまい、散漫になってしまっているところもあるのですが、「生きていることの手ごたえのなさ」を感じている人に、じっくり読んでいただきたい、そう思います。

「大阪まで何をしに行くのかは知らんが、くれぐれも無理はするな。これからは、いくさのない、まともな世が来るはずじゃ。忍びが忍びとして死ぬ時代は終わったのだ。もはや、己の命をかけてまで成し遂げる仕事などない。風太郎よ、長生きせい。それが何より、正しいことじゃ」

ニート忍者、風太郎の選択は、いかに。

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