琥珀色の戯言

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【読書感想】聖なる怠け者の冒険 ☆☆☆


聖なる怠け者の冒険

聖なる怠け者の冒険

内容紹介
「何もしない、動かない」ことをモットーとする社会人2年目の小和田君。
ある朝目覚めると小学校の校庭に縛られていて、隣には狸の仮面をかぶった「ぽんぽこ仮面」なる怪人がいる。
しかも、そのぽんぽこ仮面から「跡を継げ」と言われるのだが……
ここから小和田君の果てしなく長く、奇想天外な一日がはじまる。


朝日新聞夕刊連載を全面改稿、森見登美彦作家生活10年目にして、3年ぶりの長篇小説。
新聞連載の挿画をまとめ、森見登美彦氏のコメントもついた画集『聖なる怠け者の冒険挿絵集』(フジモトマサル著)も同時刊行。
二冊まとめてどうぞ。


この作品、もとは朝日新聞の夕刊に連載されていた作品なのですが、単行本化にあたり、登場人物と初期設定以外はほとんど書き直されているそうです。
高村薫か!とツッコミを入れてしまったのですが、うーむ、原作(?)はそこまで作者にとって不本意な作品だったのか?と、そちらを読んでみたいような気もしてきます。


この『聖なる怠け者の冒険』なのですが、京都の宵山の日を舞台とする、まさに森見さんの十八番の設定です。
しかも、この日一日だけのエピソードに、300ページ以上が費やされているのです。


が、しかし。
ペンギン・ハイウェイ』のときも気になっていたのですが、森見さん、作品が長くなるにつれて、どんどん立ち上がりが遅くなっているというか、面白くなるまでに時間がかかるようになってきているんですよね。
大ファンの人は、序盤の登場人物の「怠けの美学」みたいなところでクスッと笑ったりできるのではないかと思われますが、僕は100ページに達した時点で、あまりの退屈さに「これ、『本屋大賞候補作全部読み、という縛りがなかったら、投げ出してるな……」と。
ああ、いつもの森見作品だ、という安心感があるのと同時に、長編小説としては、もうちょっと序盤にも盛り上がるところがないと、退屈すぎるんじゃないか、と欠伸をひとつ。


設定の奇抜さというのも、ことごとく同じように設定が奇抜だと、「ああ、またこんな感じか……」になってしまいますしね。

 玉川さんは露店の裏側を抜け、電気コードに引っかかりそうになり、トウモロコシの詰めこまれた段ボールとガスボンベの隙間を抜け、路地の奥にある見たこともない神社で遊ぶ子どもたちに道を訊ね、ビルの屋上にのぼって大文字山の方角を確認し、硝子窓から半地下の薄暗い喫茶店を覗きこみ、涼しげな金魚鉢が置かれた画廊の前を通り、軒先で陽射しに焼かれる鍾馗さんを見上げ、民家の庭先で流し素麺を楽しむ人々に道を訊ね、薄汚れて蔦のからまったビルの裏手を抜け、赤い風船が漂う地下道を歩き、大丸百貨店の食料品売り場をさまよったが、混迷は深まるばかりだった。いかにも抜けられそうな路地が袋小路になっていて、抜けられそうもない路地が抜けられる。どこもかしこも見憶えがないように感じることもあれば、これまでに幾度もここを通ったと感じることもある。

中盤から後半にかけて、たたみかけるような文章の力は、読んでいてすごく心地よいし、クライマックスはそれなりに盛り上がってくれるのですが、細かい設定の伏線に関しては、森見さんのこれまでの作品を読んでいないと、面白く感じるのは難しいところもあります。


こういうのは、「らしい作品」じゃないと「違う!」って言われるし、「らしい作品」になりすぎてしまうと「マンネリ!」って叩かれるしで、大変だとは思うのですけどね……


森見作品未読の方は、これから読むのはオススメできません。
夜は短し歩けよ乙女』の文庫から入ってみたらいかがでしょうか、としか言いようがありませんし、そんなに面白くも目新しくもないので、「こういうのが『本屋大賞』に平然とノミネートされるから、海堂尊さんに『本屋大賞・神7』なんて揶揄されるのだろうな」という気はします。
どうしようもない駄作ではないけれども、少なくとも「今年の10冊」に入るような作品でもありません。
読みながら、「これ、押井守監督が映像化したら、面白いんじゃないかな」と、ちょっと思いました。


聖なる怠け者の冒険 挿絵集

聖なる怠け者の冒険 挿絵集

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