琥珀色の戯言

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【読書感想】すばらしき特殊特許の世界 ☆☆☆☆


すばらしき特殊特許の世界

すばらしき特殊特許の世界

内容紹介
「特殊特許」と筆者が呼ぶ、個性的な特許を紹介。松本人志が発明した目覚まし時計など、ユニークな題材を取材や調査を通じてドラマチックに描く。新しいアイデアづくりのヒントも満載。笑えて学べる特許入門書。


 「特許」というものの存在を知らない人はいないと思うのですが、実際はどんなものが「特許」として認められているのか、あるいは、「特許」をとるには、どんな手続きが必要なのか?などということは、そんなに知られていないのではないかと思います。
 僕のイメージでは「特許さえとれば、使用料で遊んで暮らせるのではないか」という感じだったのですが、実際は、そんなに簡単な話ではないみたいで、特許を取るのも大変だし、お金になるような特許というのは、そんなに多くもないようです。
 それでも、「特許」をめぐってのさまざなま係争は後を絶ちませんし、いざというときに、致命的な問題となることもある。


 この本では、「何それ?」と驚くような特許に出願された発明が第1章で紹介されており(こちらは実際には特許を取るに至っていないのですが)、第2章では、「出願されただけではなく、実際に特許として認められた、驚くべき発明の数々」が採り上げられています。


 ちなみに、ここで著者が定義している「特殊特許」とは、以下の通り。

1.発明者や出願人/特許権者がふつうじゃない(なんで、この人が、この会社が、こんな発明を?)
2.技術の内容がふつうじゃない(なんで、こんなものを特許に?)
3.技術の解釈がふつうじゃない(なんで、そんな主張ができるの?)
4.権利の範囲がふつうじゃない(なんで、これが特許になるの?)


 「どうすれば特許が取れるか?」については、簡略化して、次のように説明されています。

(1)「特許を受けることができる発明」について「特許を受けることができる者」が「適式な出願書類」をそろえて特許出願する。
(2)特許庁の審査官による審査を受けて、「特許OK」と判断してもらう。

 これだけ読むと、そんなに難しくないのかな、なんて思ってしまうのですが、この本のなかで紹介されている、実際の特許出願のための書類の内容をみていると、図できちんと説明されていたり、既存の特許との差別化が大事だったり、専門知識がないと「特許として認めてもらう」のは、なかなか難しそうだな、という感じです。
 その一方で、要件さえ満たしていれば「何だこれは……実際にやるのは無理だろ……」と思われるような「特許」が認められていたりもするんですけどね。


 この本の第1章では、ダウンタウン松本人志さんが『発明将軍ダウンタウン』で考えた目覚まし時計の話や、秋元康さんが発案したという『AKB48のメンバーを振りまくる恋愛ゲームのシステム」が紹介されています。
 この『AKBメンバーを振りまくる恋愛ゲーム』の特許出願の「公開広報」(こういう特許がいま申請されていますよ、というのが、認められる前に周知のために公開されるのだそうです)には、こんなふうに書かれています。

 良心耐久度40の減少というリスクを冒しつつ、恋愛の障害削除と本命女子の好感度Pgの大幅アップを果たすといった、絶妙な恋愛感覚が要求される従来に無い恋愛SLGとなる。

 しかし、これって、あの『ときめきメモリアル』とかと、同じなのでは……
 僕もそう思いましたし、著者もそう感じてツッコミを入れておられます。
 そのあたりは、この公開広報のなかでは、こんなふうに説明されているのです。

 公知の恋愛ゲームでは、とりあえず登場人物の異性の誰でも良いので「告白される」などの形で恋愛成就ができれば疑似恋愛を体感した扱いとなるケースが多い。ところが、実際の恋愛では「誰でも良いからお付き合いができれば良い」というものではなく、やはり……「本命」の異性との恋愛成就が最も望ましいものである。……しかし、公知の恋愛ゲームでは……「本命」以外の異性との恋愛成就に至った時のバッドエンディングの感じ、例えば「うれしいけどちょっと残念」といった……ほろ苦さを体感しにくかった。

 これ、『ときメモ』ファンは、怒るのではなかろうか……そもそも、これを書いて出願した人は、『ときメモ』やったことがあるのだろうか……もっとも、この特許を審査する人も、どのくらい恋愛SLGに詳しいかわからないのですけど。
 既存の恋愛SLGでも「誰でもいい」ってことは、ないと思うのです。
 まあ、こんな感じの、けっこう「ごり押し」っぽいものも、けっこうあるようです。
(ただし、これはまだ特許として認められているわけではなく、まだ出願の段階です)


 第2章では、東野圭吾さんが会社員時代にとった特許が紹介されていたり(かなり専門的な技術に関する特許で、僕には読んでも内容がよく理解できませんでした)、「夫婦が別れることのない指輪」なんていうものも紹介されていました(これは実際に特許を取れていたそうです)。

 
 また、話題になった「越後製菓サトウ食品の切り餅裁判」についても、詳しく解説されています。
 僕はあの裁判のニュースなどを読んだことはあるのですが、「なぜ切り餅の切り込みの入れ方が特許になっていて、そこで激しく争っているのか?」は、いまひとつよくわかりませんでした。
 これを読んで、ようやく少しわかってきたような気がします。

 主要メーカーは、サトウ食品佐藤食品工業)、越後製菓、きむら食品、たいまつ食品など。これら4社はいずれも新潟県の地元企業で、合わせて業界シェアは7割を超える。今までは互助精神のもと共存共栄をはかってきたという。
 しかし、2009年に、業界2位の越後製菓が、自社の特許権を侵害しているとして、業界首位のサトウ食品を訴えた「切り餅裁判」が勃発して以降、業界はギスギスとした雰囲気となってしまう。

 サトウ食品越後製菓は、もともと、同じ新潟県の企業でもあり、ライバルではあるものの、犬猿の仲、というわけではなかったそうです。それが、この「切り餅裁判」のために、業界全体がバトルに巻き込まれてしまいました。
 またこの切り餅の切り込みについての特許が、微妙なものなんですよね。

 サトウ食品は、「パリっとスリット」は上下面にも切り込みを入れているから、側面に切り込みを入れる越後製菓の特許を使っていることにはならない、と反論した。
 どちらの主張が正しいのかは、越後製菓の特許の請求項を見れば一目瞭然と思いきや、その文言は次に示すように、じつにビミョーなものだった。

 載置底面又は平坦上面ではなく……側面表面に、……切り込み部又は溝部を設け、

 わかりやすく言えば、「切り餅の上下面(載置面又は平坦上面)ではなく側面(=側周表面)に切り込み(=切り込み部又は溝部)を入れるということだ。
「上下面には切り込みを入れないで側面にだけ切り込みを入れる」ことを意味にしているようにも思えるし、「上下面とは異なる面である側面に切り込みを入れる(上下面には切り込みを入れても入れなくてもよい)」ことを意味しているようにも思える。
 つまり、この文言だけでは、「パリっとスリット」が、越後製菓の特許の権利範囲(特許発明の技術的範囲)に含まれるのかどうかが、よくわからない。

 こういうのはもう、解釈の違いで、どちらにでもとれるような話ですよね……
 裁判でも東京地裁ではサトウ食品の勝ち、越後製菓控訴しての知財高裁の中間判決では、越後製菓の勝ち。
 終局判決で、越後製菓の勝ちが確定しました。
 しかしながら、これをきっかけに、越後製菓が他の製品に対してもサトウ食品を訴えるなど、さらなる訴訟が起こり、一連の裁判は、2013年12月現在も、まだ係争中なのだそうです。
 傍からみれば、狭い業界内のことだし、裁判費用も高額になりそうで、ブランドイメージも傷つくのですから、「和解」にもっていったほうがよさそうにみえるのですが……一度火がついちゃうと、なかなかそうもいかないのでしょうね。


 また、現在、アメリカのIT企業などを中心に「知的財産権を利用した究極の節税」が編み出されていることも紹介されています。
「ダブルアイリッシュ・ダッチサンドイッチ」という方法を使って、法人税の低い国を利用することによって、「グーグルの支払っている法人税の実効税率は、米国外事業で2.4%、連結ベースでも22.2%と非常に低いものとなっている(2009年)」そうなのです。
 これもひとつの「発明」ではあるのでしょうし、「違法」ではないのですが、なんというか、世の中には頭が良い人もいるものだなあ……と、溜息をつくしかないような。


 「特許」について楽しく知ることができる、なかなか興味深い一冊だと思います。
 「それ、特許取ればいいじゃん!」って言いながら、僕も含めて、ほとんどの人は、「どうやったら特許が取れるのか?」すら知らないのだよなあ。

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