家のない少年たち 親に望まれなかった少年の容赦なきサバイバル
- 作者: 鈴木大介
- 出版社/メーカー: 太田出版
- 発売日: 2010/12/17
- メディア: 単行本
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Kindle版もあります。
- 作者: 鈴木大介
- 出版社/メーカー: 太田出版
- 発売日: 2014/03/05
- メディア: Kindle版
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内容紹介
確かに彼らは、生き抜いていた。
詐欺、闇金、美人局、架空請求、強盗――家族や地域から取り残され・虐げられ、居場所を失った少年たちは、底辺の仲間となって社会への「復讐」を開始する。
だが大金を手にしてもなお見つからない、"居場所"。彼らはそれを探し続けるーー。
取材期間10年、語られなかったこの国の最深部を活写する、震撼ノンフィクション。
『モーニング』連載漫画「ギャングース」原案。
著者の『出会い系のシングルマザーたち』『援デリの少女たち』という、女性の貧困や社会で生きることの困難を描いたノンフィクションは既読だったのですが、「底辺を生きる少年たち」についての著者があったというのは、今回、Kindle版が出たことではじめて知りました。
この『家のない少年たち』、紙の単行本が出たのは、2010年。
著者が『家のない少女たち』を上梓したあと、読者から、こんな反響があったそうです。
「家のない少女たちの話はわかったけど、家のない少年たちはどうしているの?」
ごもっともである。だけど、その答えは簡単だ。
彼らは、ストリートにいる。
若者が起こした傷害や、窃盗・強盗犯罪、詐欺事件などのニュースの中にいる。
生まれつき被害者として育った少女らは、売春産業や児童買春の被害者になることで生きる糧を得ていた。一方、家のない少年たちは、犯罪の加害者になることで、糧を得て、生き抜いていた。
劣悪な家庭環境のなか、路上に放り出された少年たちがまずやるのは、決まって空腹を満たすための万引きだ。これが被害者が加害者に転じる分岐点。あとは恐喝に引ったくり、強盗……どんどん後戻りできなくなる。こんな構図は、多分、戦後の戦災孤児たちが愚連隊を作った時から変わらないものなのだろう。
だが、2000年代の少年たちはちょっと違った。
ネットや携帯などのツールの発達が、少年たちを犯罪現場の”主役”にのし上げたのだ。
オレオレ詐欺や架空請求など、いわゆる振り込め詐欺を始めとして、違法風俗の経営、窃盗団などなど、様々な犯罪の中核を少年たちが担うようになった。
この本では、少年院で出会った4人の少年たちがつくった「犯罪集団」のことが紹介されていきます。
彼らはみな、家庭で虐待を受けて居場所がない少年たちだったのです。
いつも傷まみれだった。男、そして母親からの虐待は妹に対してのほうが酷かったが、なんとか婆ちゃんの家から通えていた小学校では、「臭い」と言っていじめられていたので、登校せずにブラブラしていることも多かった。妹が小学校入学するのとほぼ同時に婆ちゃんは他界。その時点で、兄妹揃って地元の児童養護施設に入ったのだという。
「施設で服もらうんですよ、部屋着を。それをしばらく着てて、前に自分が履いてたズボンを捨てないで取っておいたの、後から匂いかいだんですよ。そしたら本気で小便臭くって、俺って本当に臭かったんだって知った。風呂なんてまともに入ってなかったから当たり前だけど、歯磨くとか、風呂入るとか顔洗うとか、そういう習慣は全部、俺と妹は施設に入ってから教わった。妹は虫歯で歯が半分なかったし。けど『これで殴られずに済む!』なんて安心はしませんでしたね。施設、上がいたから」
施設に「保護」された少年たちを待っていたのは、先輩たちの「力による支配」でした。
年上や力の強い子供に殴られ、万引きを強要され、引ったくりをやるようになり……
「愛された経験もなく、自分や他人を大事にすることを教えられずに成長してきた子供たちが、犯罪者集団の一員として生きていくこと」は、この本で彼らが生きてきた道のりを知ると、「ごくあたりまえのこと」のように思えてくるのです。
しかしながら、僕はどちらかというと「カツアゲされるほう」であり、「不良たちに絡まれて怖い思いをするほう」でしたから、「彼らは生い立ちが不幸なんだから、何をやっても仕方が無い」とも思えないのです。
相手にどんな事情があろうと、殴られれば痛いし、お金を盗られれば悔しい。
正直、そんな連中は、「排除」してほしい。
「ちゃんと更生している人もいるじゃないか」とか言いたくもなる。
彼らは、オレオレ詐欺や架空請求、そして、同じような裏家業をしている連中からの「空き巣狙い」などで数千万円、あるいはそれ以上の収入を得ていくのです。
冗談みたいな話だが、実は振り込め詐欺や闇金などの裏稼業人は、組織内で分配する前の犯罪収益金をメンバーで持ち歩くことを極端に嫌がり、金庫保管などにこだわる傾向が非常に強い。これは要するに、メンバーの裏切りと持ち逃げを想定してのこと。もちろん事務所に堂々と置いてある場合もあれば、マンションやアパートの隠し部屋などで金庫に入れて隠している場合もある。
内部からの情報があるからこそ、こうした現場を知ってタタくことが可能となるわけだが、龍真らが求めればこうした内部情報というものは、あまりにも容易にいくつも入ってきた。それほど不良業界も、末端に対する搾取が厳しく、恨まれる上層部が多かったということなのだろう。
後述するが、不良をタタくというのは、ひとつのブームだったように思える。取材線上に上がった”不良をタタく不良”は、龍真たちだけではなかったし、もっと派手に活動しているチームもあった。これは不良の業界に莫大な金が流れ込んでいたことの証左でもあった。
龍真たちにとっても、あらゆる裏稼業人にとっても、不良をタタく不良にとっても、等しく”パラダイス”が訪れていた。
「裏稼業で集まったカネ」をもつ不良たちを、さらに不良たちが狙う。
彼らのカネは、違法に集められたものだけに、もし盗まれたとしても、警察に届け出ることができるようなものではありません。
そこで、「ラクに稼ぐ手段」として、「不良たちのカネを狙う人たち」が出現してきたのです。
弱肉強食というか、本当に、気の休まることがない世界だなあ、と。
この本には「更生を目指す、元不良たち」も出てきます。
でも、こういう生活に慣れてしまった人たちが、果たして、「普通の生活」に馴染めるのかどうか。
うまくいってほしい、と僕も願っていますが、そんなに簡単なことではないはずです。
この本を読むと、「どうすればいいのかねえ」という絶望しか浮かんでこないのも事実なんですよね。
この本の主人公のひとりは、こう言っています。
「不公平だなって思いましたよね。ある程度、親とかしっかりしてるヤツはそもそも鑑別で抜けるし、少年院に来ても保護観察つけて早めに出てけるんですよ。少年院で運動会やるんだけど、親が見に来るヤツとそうでないヤツで、卒業のタイミング違う。運動会に親つっても、ヤクザとヤンキーの集会みたいですけどね。俺ら、親なんか来るわけねえし、だからマックス(満期)じゃないっすか。そうそう俺、『クローズ』って漫画嫌いなんですよ。漫画喫茶で全巻読んでポイしましたね。イラッときました。不良、不良とかって、高校に通えてるヤツが不良とか意味わかんねーし。他のヤンキー漫画みたいのとかみんなほとんど高校行ってたりで、クソだなって。不良高校行かねーよ。そういう話をスギやサイケたちとして、俺ら高校行くとか考えたこと一度もないし、そういう選択肢ないじゃないですか。不公平だなって。ブッ壊してやんよ。適当な不良ごっことか。
『クローズ』なんて、なまぬるい、とみなすような、リアル不良の絶望感……
しかし、著者は「あとがき」のなかで、こう述懐しています。
この本には書けなかった。
多分、一生をブタ箱とシャバの往復で過ごし、どこかで刺されて死んじゃうかもしれない、そんなゴミ屑のような裏稼業人もいることを、僕は知っている。
それは本書に登場するような、取材に応じ語るだけの能力を持つ者の、ずっとずっと下にいた。
辻原君のような切れる頭もない。龍真のような信念もない。
利用するヤツはいても、本当の仲間はいない。いても自分から裏切ってしまう。
文字も読めない。障害を持っていることも多い。
人の気持ちもわからない。自分より弱い者には容赦なく血まみれになるまで叩き、自分より強い者には何の抵抗もなく土下座をする。
このノンフィクションで描かれている世界ですら、「本当の最底辺」ではないのです。
そこには、不良少年たちに体当たりで取材し、信頼を得ている著者でさえ、「どんな裏切り方をするかわからない、危険さを秘めていて、刑事警察ではなく、福祉の庇護下にあるのが適当だと思える」人々がいる。
こんな世界はあることを知っても、どうすればいいのか……と困ってしまうようなノンフィクションなんですよ。
でも、まずは知ることからはじめていくしかないのでしょうね。
- 作者: 鈴木大介
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
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- 作者: 鈴木大介
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