琥珀色の戯言

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【読書感想】プロ野球VSメジャーリーグ 戦いの作法 ☆☆☆


内容紹介
アメリカでは中四日で五人の先発投手を回す。一方日本は中六日で六人の先発投手を回す。一見日本の先発投手のほうが楽に思えるが、著者も含め、中六日は調整しづらいと思っている選手もいる。調子が悪いと次の登板までの一週間が長く感じてしかたなくなるのだ。
このように日本のプロ野球メジャーリーグのスタイル、いわば「戦いの作法」には随所に相違点がみられる。本書では日米の野球を比較するとともに、「乱闘はボクシング」「オーナー不在だったエクスポズ」「ほんまにあったコルクバット」など驚きのエピソードも開陳。野球の見方に奥行きが生まれる一冊。


(本書の内容の一部)
・メジャー式練習のブームは近鉄から始まった。
メジャーリーグのサインは単純。サイン盗みへの警戒心がない
・日本人投手がメジャーで成功するかしないか、その見極めのカギになるものとは?
・メジャーの乱闘は、なぜボクシングのような本格的な乱闘になるのか
・日米では内野守備の基本的な教え方が違う
・理屈で考えても、ダウンスイングは日本の大きな誤解
ロッキーズ監督の許せない一言
・ユニホームを決めるのは先発投手
マニー・ラミレスのチップは10万円
・学ぶべきは3つのF


 日本のプロ野球メジャーリーグ、それぞれで長期にわたって活躍した吉井理人さんによる日米2つのリーグの比較論。
 こういう本って、どうしても、どちらかに肩入れした著者が、もう一方を批判する内容になりがちなのですが、これは、両者の「違い」について、比較的フラットに紹介されており、読みやすく感じました。

 結果が出てくるとコーチの考え方も変わってくるのがプロの世界である。
 近鉄の理に適ったトレーニング法が、成績にも結びつき始めたことで、他のメニューもより理論的に正しい方向へと変化していった。
 たとえばブルペンがそうだ。
 メジャーではブルペンに入る時間はすごく早い。場合によってはウォーミングアップの前に入ることもある。
 日本では全員でランニング、体操などのウォーミングアップをして、それから投内連携などの全体練習をしてからブルペンに入る。その程度の練習で体がヘトヘトになるわけではないが、その状態がベストかといえばけっしてそうではない。
 だからアメリカでは各自でウォームアップし、体調が万全の状態(=ヘルシー)かつ、練習をする前の心身が疲れていない状態(=フレッシュ)で投げられるように練習が組まれている。
 投げることがもっとも故障に繋がりやすいわけだから、ヘルシー&フレッシュな状態で投球練習をするのは当たり前のことだ。疲れた状態で投球練習をすることでフォームを崩せば、それを取り返すのに大変な時間を要する。
 だけど日本は試合で少しへばってからのことも考えて、「疲れてからどれだけ頑張れるか」という考え方で練習させた。
 つまり、よいピッチングはコンディショニング(調整)次第と考えるか、鍛錬によると考えるかの違いである。
 今は多くのチームが早い時間帯にピッチング練習をさせている。僕がコーチをやっていた日本ハムファイターズでもそうしていた。

 メジャーに移籍したダルビッシュ投手は、吉井コーチのやり方を経験したことにより、メジャー流への戸惑いが少なかったかもしれませんね。
 こういうふうに比較してみて、「じゃあ、どちらが優れているのか?」と考えてみると、正直、僕は「どちらも一理あるなあ」という感じなんですよ。
 ピッチャーにとってもブルペンは練習のなかでも、もっとも大事なものだし、良い状態で、良いイメージをつくっていく、また、怪我を避ける、というのもわかる。
 その一方で、試合のことを考えると、「疲れたときにも、粘れるようなピッチャーになるために、疲れた状態を練習でも経験しておくべき」なのかもしれません。
 結局、いまの趨勢としては、「メジャー流」が増えているみたいなのですけどね。


 吉井さんがニューヨーク・メッツに移籍したとき、当時のメッツのバレンタイン監督は、「日本人のピッチャーはスタミナがない」と言っていたそうです。
 それは、ひとつの試合での球数ではありません。
 先発ローテーション投手は中4日が当然のアメリカの投手と比べると、だいたい中6日の日本から移籍してきた投手は、登板を重ねると、早い回に打たれてしまいやすい、というデータがあったのだとか。
 アメリカでは、日本よりも厳密に先発投手の球数制限は守られているようなのですが、遠征での移動時間も長いし、日本から来ると、かなり厳しい環境なのです。
 

 この新書では、主に「メジャーリーグでの選手たちの考え方」が書かれています。
 メジャーリーグの文化、と言っても良いかもしれません。

 メジャーリーグはルーキー(日本からFAやポスティングで来た選手も同様)に厳しい。
 ただしモラルや暗黙のルールといったものは誰かが教えてくれる。
 メッツに入った新庄剛志に、ホームランを打った時にホームベースに手でタッチしたら挑発行為になるよ、と教えてあげた人がいたように、チームには必ず教育係のような人がいる。往々にしてその役目はベテラン選手が担う。
 彼らは時として相手チームの若手まで教育する。
 メッツに僕がいた頃、ロジャー・セデーニョというベネズエラ人の足の速い外野手がいた。
 彼はダイヤモンドバックス戦で、大量リードしているゲームで三盗した。するとダイヤモンドバックスマット・ウィリアムズ(2014年からナショナルズの監督になった)という怖い顔をした三塁手が、セデーニョに説教を始めた。
「お前、メジャーリーガーの流儀を分かっているのか」
「こんなところで走る選手なんてメジャーにはおらんぞ」
「こういうことをしていたらお前のためにもならんぞ」
 プレーが再開して、すでにピッチャーが振りかぶっているのにまだ説教は続いていて、挙げ句、セデーニョは三塁ベース上で泣き出してしまった。
 大量点での盗塁はいわゆる書かれざるルールの一つとして、メジャーでは許されないことの一つだ。
 最近は日本でも同様に、一塁手がファーストベースから離れた時(点差が開き、明らかに投手が牽制をしない時)の盗塁には、記録員が盗塁をつけなくなった。

 ただしよほどの大差の試合展開にならない限り許される行為がある。
 それは併殺の時にセカンドのベースカバーに入った内野手をスライディングで潰しにいくこと。それと、ホーム上でのキャッチャーへのクロスプレー(タックル)であったが、捕手に関しては2011年にサンフランシスコ・ジャイアンツバスター・ポージーが本塁上でのタックルによって大怪我し、そのシーズンのプレーが絶望的になってから、危険なのでよくないという声が出始めた。そして2014年、MLBでは危険なクロスプレーを制限する新ルールが試験的に導入された。

 個人的には、点差がついているときは、盗塁よりも「併殺崩しのためのスライディング」や「本塁でのクロスプレー」を「自粛するのがマナー」としたほうが良いのではないか、と思うのですが。
 接触プレーのほうがはるかに選手が怪我をするリスクは高いので。
 これらのプレーは、選手の打率とか打点に関わってくるので、というのは、あるのでしょうけど。
 日本人の内野手メジャーリーグでなかなか成功できないのは、守備力の問題だけではなく、この「併殺崩しのスライディング」で怪我をすることが多いからではないか、と吉井さんは指摘しています。
 ファースト、サードでは接触プレーはそんなに無いかもしれませんが、メジャーではこのポジションには長打力がある選手が揃ってますし。


 また、吉井さんは「三振に対する考え方の違い」も紹介しています。

 ホームランを打てるのなら、その分、三振は構わないとアメリカ人は考える。三振もボテボテのゴロを打つのもフライを打ち上げるのも同じアウトだと。
 日本の二軍ではコーチが「きょうの三振の数は幾つ」とか試合後に注意することがある。とくに見送り三振は叱る。無気力、気持ちが逃げていると見てしまうのだろう。
 アメリカではたまたま待ち球が違っていたと思われるだけで、見逃し三振でベンチに戻ってきてもまったく叱られない。

 三振に関しては、日本では「アウトのなかでも屈辱的、とくに見逃し三振は」と考えられています。
 選手側だけでなく、観戦しているファンも、やっぱり「チャンスで見逃し三振」なら「せめて振れよ!」と思いがちですし、「空振り三振」なら、「なんとかバットに当てろよ……相手がエラーするかもしれないんだし……」というふうに感じてしまうのです。
 でも、アメリカ人は「どうせアウトなら同じことだし、ホームランを打てるようなバッターは、三振が多くなるのはしょうがない」と考えているんですね。
 こういうのも、どちらかが正しい、というわけではありませんが、日米の「野球観のちがい」なのでしょう。
 

 日本とメジャーリーグの違いに興味がある人、そして、既存のこのような比較論を読んだことがあまり無い人には、入門編としておすすめできると思います。
 ただ、そんなに目新しい話は書かれていないので(吉井さんの実体験である、というのは、ものすごく説得力があるのですが)、ある程度の知識を持っている人は、内容を確認してから購入したほうが良いかもしれません。

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