琥珀色の戯言

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【読書感想】地図のない場所で眠りたい ☆☆☆☆


地図のない場所で眠りたい

地図のない場所で眠りたい


Kindle版もあります。

内容紹介
誰もが「探検」の魔力に取り憑かれる一冊。講談社ノンフィクション賞同時受賞記念刊行!
高野秀行角幡唯介は、早稲田大学探検部の先輩・後輩の関係にある。角幡は、高野の『西南シルクロードは密林に消える』(講談社)を読んで探検ノンフィクションを志したという。
二人にとって、探検とは、冒険とは何だろうか。探検家前夜から、探検の実際、執筆の方法論、ブックガイドまで、縦横無尽に語り尽くす。


高野秀行さんが『謎の独立国家ソマリランド』、角幡唯介さんが『アグルーカの行方』で、「講談社ノンフィクション賞」を同時受賞されたのを記念して(?)つくられた対談本。
ソマリランド』は「本の雑誌社」、『アグルーカ』は「集英社」だったので、講談社としては、ちょっとくらい恩恵にあずかりたいな、という思惑もあったのかもしれません。
そのあたりの事情はさておき、おふたり人の愛読者である僕にとっては、すごく楽しめる対談本でした。
この現在を代表する「探検作家」であるおふたりは、早稲田大学探検部の先輩・後輩なのです。
学年は10くらい違うので、角幡唯介さんにとっての高野さんは噂に聞く「伝説の先輩」で、長い間、実際に会ったことはなかったそうなのですけど。


この本は、ふたりの「探検論」で幕をあけます。

高野秀行「冒険・探検はいつ好きになって探検部に入ったのか」という聞かれ方をよくされるんだけど、そうじゃなくて、みんな昔は好きだったのにどんどんやめてっちゃって(笑)。


角幡唯介要するに、子どものまんまってことですかね(笑)。


高野:ある意味ね。そういう部分が俺は変わらないんだけど、みんなほかの人が変わってっちゃったという気がする。


この高野さんの話、僕はすごく好きなんですよね。
おふたりが「川口浩探検隊」を観ていた、という話も出てきますし。
そう、僕も「探検隊ごっこ」やっていたものなあ。
たしかに、いつ頃から「探検なんて、自分には関係ない世界のもの」だと思うようになってしまったのだろう。

角幡:川口浩探検隊を信じていたというのは本当なんですか。


高野:それは本当。ジャングルの奥地で謎の原始猿人バーゴンを探したりとか、頭がふたつある蛇を探したりとか、そういうものをかぶりつきで見ていたから、ずっと事実だと思っていたんだよ。大学で探検部に入ってからその話を先輩にしたら、「いや、あれはウソだろう」と言われて愕然としたんだよね。


角幡:それもマズいですね、ちょっと、変わってると言ったら失礼かもしれないですけど(笑)。僕は川口浩探検隊は好きだったけど、ウソだと思ってました。


高野:本当に? 夢がないね、君は(笑)。


角幡:常識があると言ってください(笑)。でも、やっぱり影響されてる部分は絶対にあって、僕が探検部に入ってやりたかったのは川口浩みたいなことだったんです。


高野さんは、早稲田大学探検部時代に、コンゴの奥地に「幻獣ムベンベ」を追いかけて行っているので、まさに「川口浩を本気でやってしまった人」なんですよね。
角幡さんも、こう言いながら、「雪男捜索」に出かけ、そのときのことを本に書かれています。
同じ「探検作家」でも、ユーモア系の高野さんと、シリアス系の角幡さん、というイメージがあったのですが、この対談を読んでいると、案外共通点もあるみたいです。


早稲田大学探検部時代のそれぞれのエピソードも面白いものばかりです。

高野:俺が1年のときに(探検部の)主流派の新人はやめちゃったんだよ。結局、俺を含めた非主流派の使えない連中5人だけが残って。非主流は、はっきりものを言う人間がいなくて、主張しないやつばかりなんだよ。あんな使えない連中どうするんだっていうくらい。


角幡:主流派はなんでやめちゃったんですか。


高野:俺が入ったときの幹事長が佐藤英一さんという、俺たちに甚大な影響を与えた人なんだよ。その人は物事を根源から突き詰める人で、「もう探検なんてこの世界にはないんだ」と言うんだよ。「宇宙か深海にしかないんだから、俺たちは山登りとか川下りとか全部やめて、宇宙ロケットか深海探査機を作ることを真剣に考えるべきだ」と大まじめに言っていた人なのね。


角幡:昔、東大の探検部はそれで廃部になっちゃったんですよね。探検とはなんぞやというのを考えすぎて、もうこの世界に探検はないという結論に達して解散してしまったという笑い話がある。


高野:だから突き詰めるのはよくないんだよ。でも佐藤さんは「だから今の探検部というのはダメだ」「少数精鋭にすべきだ」と言うので、そういうときにぶつかるのは、むしろバリバリやってる連中なんだよね。


高野さんは1966年生まれですから、1980年代半ばから、後半くらいの話です。
当時はまだ、そんなややこしい「思索」をする大学生が少なからずいた、ということなのでしょう(今もいるのかもしれませんが)。
この対談のなかでは、それぞれの「冒険」と「探検」の定義についても語られていました。


また、高野さんのこんな凄い能力も。

角幡:今、何ヵ国語話せるんですか。


高野:話せるというのも微妙な話だけど、実際、フランス語、スペイン語、中国語、タイ語、ソマリ語の6つはまあ使える。俺がある程度使える言語は、20代のころに習ったものばかりで、30代以降のものはソマリ語以外定着していない。

アヘンの栽培地の取材に行ってアヘン中毒になってしまったり、ソマリランドでもカートという地元の麻薬的なものにハマってラリっていたりしていた高野さんなのですが、こんなにすごい言語能力を持っているのか……


あと、お二人が探検にかかる「お金」を数字を挙げながら率直に話していたのも印象的でした。

角幡:金の話ってよく聞かれないですか。こういう探検ってすごい金がかかっていると思われているようで、僕なんかスポンサーをつけて活動しているとみんな思うらしいんですよ。このあいだ、なんかのブログで、僕の生き方は「本を出してそれを名刺代わりにスポンサーを募っていく生き方だ」なんてことが書かれていてビックリしたんですけど、そんなことはない。自分の旅なのに、なんで他人から金もらわなきゃいけないんだという気持ちがあるぐらい。それに今、スポンサーなんて基本的にはないですよ。三浦雄一郎とか、テレビ露出が多い人にはあるのかもしれないけど、僕にはあり得ないですね。


高野:俺なんかは、出版社が経費を出してくれるならありがたく受け取りたいんだけど、残念ながら俺が考える企画はなかなか理解してもらえないんだよ。とくに俺の本気度が高ければ高いほど、意味がわからなくなるらしい(笑)。『ソマリランド』なんて、あれだけ面白いと熱弁したのに、「へえ、平和なんですか。ふーん」で終わっちゃうからね。


そうか、全部「自費」なのか……
どのくらいお金がかかるのだろう?と思ったのですが、角幡唯介さんは『アグルーカの行方』で、5ヵ月間北極圏を探検するのにかかった費用は、飛行機代、途中のホテル代、新しく購入した装備なども含めて「150万円〜200万円くらい」だったと仰っています。
「150万円だとしても、1ヵ月30万円。日本の生活を考えたら多少かかってるけど、許容範囲じゃないですかね。ひとりでやっていると、本当に旅行に毛が生えた程度しかお金なんてかからないですからね」とも。
たしかに、北極圏に入り、ひとりで探検をはじめてしまえば、お金を使って買い物する機会そのものがありません。
まあでも、その期間は稼げないわけですから、経済的にはラクではないのでしょうけど。


とまあこんなふうに、いまを代表する「面白探検作家」のお二人のざっくばらんな話が詰まっている一冊です。
「ふたりとも知らない」という人には、ちょっとオススメするのは難しいのですが、どちらか一人でも作品を読んで、面白い、と思ったことがある人なら、かなり楽しめる対談本ですよ。



この『講談社ノンフィクション賞』受賞の2作、どちらもすごく面白いです。

謎の独立国家ソマリランド

謎の独立国家ソマリランド

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