琥珀色の戯言

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【読書感想】交通事故学 ☆☆☆


交通事故学 (新潮新書)

交通事故学 (新潮新書)


Kindle版もあります。

交通事故学(新潮新書)

交通事故学(新潮新書)

内容(「BOOK」データベースより)
そもそも人間にとって、動くものの速度や距離の見積もりは苦手である。その上、心理や生理、環境によっても対応が違ってくる。だから、車の安全性能は年々進歩しても、ドライバーは相変わらずあれこれ間違え続ける。初心者とベテランの視線の違い、加齢によるミスマッチ、個人差のあるリスク敢行性―どうすればヒューマンエラーを防ぎ、安全レベルの高い運転ができるのか、交通心理学の知見をもとに徹底解説。


なぜ交通事故は起こるのか?
そして、事故を起こさないためには、どうすればいいのか?

 普段、私たちは時速4キロ程度で歩行する。それが数百年以上続いた後、100年足らずの間に高速移動できる道具を手に入れた。地上を歩いて移動するためのセンサーとして発達してきた視覚や聴覚が、スピードについていけないのは当然かもしれない。

車を運転したことがある人ならば、「交通事故を絶対に起こさない方法などない」ことは実感しているのではないでしょうか。
自分がどんなにきちんと運転していても、相手のミスに巻き込まれてしまうこともあります。
そもそも、どんなに運転に自信がある人でも、一瞬の隙を無くすことは不可能ですし。


この新書では、「交通心理学」という心理学の一分野から、「交通事故の発生原因と、その防止策」にアプローチしたものです。
著者は、交通心理学の中心的なテーマとして、

 事故の人的要因の分析/個人差と運転行動(性格、年齢、性差など)/運転と心身機能(視機能、アルコールの影響など)/運転者の不適格因子の評価(適性)/歩行者の交通行動/緊急事態における道路利用者の反応と教育・広報/道路利用者の生涯教育システムの開発/情報提供システム

という項目を挙げています。
要するに、「自動車の運転と事故に関する、ほぼすべてのこと」が、守備範囲になっているのです。


これを読んでいると、事故には本当にさまざまな要因が関与しているのだなあ、とあらためて考えさせられます。
でも、「100%事故を起こさない方法」はなくても、「リスクを下げるために気をつけること」はあるんですよね。

 事故統計から認知の誤りを年齢別に見ると、脇見は年齢とともに減少する。若いうちは外界に興味が向くが、加齢とともに余計なものを見なくなるからだ。その代わり、安全不確認が増えてくる。運転経験が増すと、他に車はいないだろう、減速しなくても大丈夫だろう、といった予測運転が増えてくる。
 また、年齢が増すにつれ、考えごとや悩みごとに注意を奪われ、運転に集中していないということも考えられる。考えごとにも色々あるが、病気やローン、対人関係などはなかなか頭から離れられないものだ運転していても心ここにあらずでは、「見れども見えず、聞けども聞こえず」いなってしまう。
「脇見」は実際に何を見ていたのか、トラックの追突事故の人的要因分析で調査したことがある。その結果、車内ではタバコ、缶ジュース、伝票、ごみ箱、ライター、カーステレオ、チューインガムなど運転とは関係ないものばかりである。
 車外では、他の車、標識、信号、駐車場所、外の店と実に広範囲にわたる。バックミラーを見ていたケースも多かったが、大半が何気なく後方の状況を見ており、必ずしも情報をとるためではなかった。

 この新書で紹介されていてるデータによると、「統計上、全事故の3割以上が24歳以下のドライバーによって引き起こされている」そうです。
 また、運転経験3年未満のドライバーによる事故は毎年全事故の30%前後を占めているのだとか。
 ただし、加齢や運転経験の蓄積にともなって、「これは大丈夫だろう」と自分の予測に頼ってしまいがち、というのも指摘されています。
 そして、年齢を重ねていくと、考え込んでもどうしようもないような悩み事が多くなったり、体調不良に陥りがちなのも事実です。
 この「脇見」のとき、車内で何を見ていたか、なんていうのも、思い当たる節があります。
「事故のリスクと、缶ジュースがこぼれて車内を汚すこと」を比較すれば、ジュースなんて放っておいてもいいはずなのですが、その場では、優先順位をキチンとつけて対応するのって、けっこう難しかったりするんですよね。


 さまざまな事故の実例やそのパターンが述べられているところでは、僕自身の「危なかった……」という経験の記憶が蘇ってきて、読んでいて、ちょっとつらくなってきました。
 大きな事故の経験がある人は、これを読むときには、ちょっと注意しておいたほうが良いかもしれません。
「怖い」って思い始めたら、どうしようもなくなってしまうことも、あるんですよね。


 あと、運転のパターンには、地域性というのもけっこうあるみたいです。
 いちばん驚いたのが、この話。

 時間に余裕があるのに追い立てられるように先を急ぎ、車間距離を詰めたり、黄色信号を強引に通過したりするドライバーもいる。自分では気がつかないが、そうした危険な運転が日常的な運転行動として習慣化してしまっているのである。
 もともと日本人は諸外国人に比べて、「急ぎの心理」が強いという。青信号になる前に発車するのを陸上競技や水泳になぞらえてフライングと名付け、東京、大阪、ヨーロッパ三都市(ロンドン、シュツットガルトマンハイム)で観察した結果、東京1.84秒、大阪4.92秒、ロンドン0.37秒、シュツットガルト1.27秒、マンハイム0.10秒だった。
 ヨーロッパに比べて日本人は相当フライング気味で、大阪などは群を抜いている。中には赤信号のうちに少しずつ交差点に侵入し、青信号に変わる前に左折を完了してしまったドライバーがいたとも報告されている。

 大阪、すごいな……
 関西で運転するのは大変、という話をよく耳にするのですが(九州でいえば、福岡で運転するのもけっこう大変です。バスが多いし)、これほどまで、せっかちというか、フライングスタートが常態化しているんですね……
 みんながそれを常識として運転していれば、自分だけ「青になってからスタート」するのも、難しいだろうし。
 僕自身が大阪で車を運転する機会はほとんど無いであろうことに、正直ホッとしています。
 まあでも、「そんなに急いでどこへ行く」とは思うのですけど。
 一般道でも、すごい勢いで抜いていった車に、次の赤信号であっさり追いついてしまって、なんだかなあ、ということはよくあります。


 取り締まりで捕まるのは「運が悪い」なんて考えてしまいがちなのですが(まあ、気持ちはよくわかります)、スピード違反やシートベルトでの取り締まりが重視されている理由も書かれています。

 違反別交通事故件数を見ると、安全不確認や脇見など認知エラーが6割以上を占める。取り締まりの最大の対象である速度違反は1%にも満たないから、なぜ警察はスピードばかり取り締まるのか不満かもしれないが、死亡事故での違反は最高速度違反が15%と突然高くなる。速度を出すほど危険度は増すのである。
 またシートベルトの非着用時の致死率は運転席では着用した場合の約28倍、助手席が約11倍、後部座席は約9倍。取り締まりには相応の理由があるということだ。

 取り締まられると「みんな同じようなことをしているのに、なんで自分だけ……」と言いたくもなるのですが、スピード違反やシートベルト非着用というのは、たしかに重大事故と大きな関連がある、ということなんですね。
 もちろん、検挙にも事故にも無縁であるにこしたことはありません。


 これを読んだから事故に遭わなくなる、というほど、交通事故というのは単純なものではなさそうですが、車を運転する人は、知っておいて損はない話がけっこう詰まっていると思います。
 知っていたら事故に遭わない、というわけじゃないのでしょうけど、避けられる事故は、避けたいものですよね。