琥珀色の戯言

【読書感想】【映画感想】のブログです。2016年8月より、『はてなブログ』に移行しました。

【読書感想】起業のリアル ☆☆☆☆


起業のリアル

起業のリアル


Kindle版もあります。

内容紹介
LINE森川亮、スタートトゥデイ前澤友作、
ユーグレナ出雲充、リブセンス村上太一、
ライフネット生命岩瀬大輔、チームラボ猪子寿之
テラモーターズ徳重徹、サイバーエージェント藤田晋……。


「でも、それで本当に儲かるの?」


今をときめくベンチャー社長16人に日本で一番有名なジャーナリストが容赦なく突っ込む。
彼らの生い立ち、挫折、決断、そして新しい金儲けの哲学が詰まった一冊。


「でも、それで本当に儲かるの?」
この対談集を読みながら、僕は何度もそう思いました。


僕自身は「起業家精神」とは縁遠い人間で、あーもう他の職場に行きたい……とボヤキつつも、なかなか目の前に転がってきたボールをシュートできないような人生を送っているのです。
で、「起業家」たちに対しては「お金が大好きなのか、目立ちたがりなのか……とにかく押しが強い人じゃないと、やってられないだろ、社長なんて」と決め付けていたのです。


この起業家たちと田原総一郎さんとの対談を読んでいて、あらためて思い知らされたのは、僕の「起業家像」の古さだったんですよね。
IT関連の「起業家」というと、堀江貴文さんのことをイメージしてしまうのですが、ここに登場してくる「バブル時代を知らない、日本は斜陽だと言われつづけてきた時代の起業家たち」は、僕と同世代の堀江さんとも違う価値観を持っている人たちでした。
(『サイバーエージェント』の藤田さんのように、堀江さんと同世代の人も登場されてはいるんですけどね)


『フローレンス』代表の駒崎弘樹さんの回より。

田原総一郎駒崎さんの世代は、社会をよくしたいという思いから社会起業した人が多いですね。でも四十代以上の社会起業家は少ない。どうしていまの若い人は社会起業をやるのかな?


駒崎弘樹僕らの世代は、批判のことを「DIS(ディス)る」といっています。DISはラップ文化の一つですが、僕らの世代は社会をDISることに限界を感じているんです。
 タイタニック号がいままさに沈没しようとしているときに、「船長、ダメじゃん」とDISっても、何にもならないですよね。だとしたら、もう自分たちで穴をふさぐしかない。DISるのは後でもできるから、とりあえず板とトンカチ持とうぜ、という気持ちで社会起業する人が多いのだと思います。


田原:どうか、いままではDISることばかりやってきたもんね。野党もしかり、新聞もしかり。


駒崎:昔はそれでもよかったと思います。力強い体制が悪いことをしていて、その悪に対して正義の市民が火炎瓶を投げるという構図がありましたから。でも、いまは悪がいないじゃないですか。僕は2010年から半年間、政治的任用ということで民間人ながら半年間内閣府の官僚をやったのですが、鳩山元総理を含めて、悪の権化みたいな政治家や官僚に出会うことはありませんでした。DISるより僕たちで解を見つけて提示していくほうが、問題を生んでいる構造を早く動かせます。


資本主義とか共産主義とか大国の欲望とか悪徳政治家とか……
そういう「それを批判することで世界が変わる(と信じられる)ような巨大な悪」がいなくなってしまって、ただただ、延々と続く不況で、緩やかに下降し続ける時代を、生きてきた若者たち。


いまの40代、あるいはもう少し上の世代が「ゆとり」だとか「覇気がない」などと揶揄してきた世代の若者たちは、この長い下り坂を生き抜くための「最適解」を探しつづけてきたのだな、と、これを読んで痛感しました。


ただ「DISる」だけでは何も変らないことを、彼らは上の世代をみて、悟ったのでしょうね……


リビング・イン・ピース』代表の慎泰俊さんの、こんな話も印象的でした。

田原総一郎慎さんはすごく前向きで、自信に満ち溢れているように見えます。もともとそういう性格なのですか?


慎泰俊:もともとかどうかわかりませんが、過去の成功体験が私に自信を持たせてくれた面はあると思います。


田原:たとえば?


慎:私が通っていた学校には、三年生になったら一、二年生からお金を巻き上げるという悪い伝統がありました。この習慣をどうしても変えたくて、三年生で生徒会長になったときに同級生たちと話し合いを続け、なくすことができました。


田原:なくすといっても、口で言っても聞かないでしょう。


慎:講堂に同級生の男子生徒150人を集めて「もうやめようよ」と提案したのですが、最初は「ふざけんな」という反応でした。一、二年生の間はずっと我慢して、ようやくお金を取る側になったのだから、ある意味で当然の反応です。サッカーをやっていて体は強かったのでいじめられたりはしなかったですが、ずいぶん陰で笑われていたようです。


田原:それじゃ変らないじゃない。


慎:途中から言い方を変えました。最初は「間違ったことはやめよう」だったのですが、それだと反発があってうまくいきませんでした。そこで半年後から「自分たちでいい学校をつくって、歴史を変えよう」と方針転換したところ、共感してくれる人が増えてきて、いろいろな悪い習慣がなくなりました。


田原:すごい成功体験ですね。


慎:卒業式で表彰状をもらったとき、全校生徒が拍手してくれました。これは本当にうれしかったです。でも、感謝されたくてやったわけではないんですよ。自分が心から変えたいと思ったから働きかけただけで。


ああ、世の中には、すごい人っているものだなあ、と。
この慎さんのエピソードの場合は、「新しい世代特有」というわけじゃなくて、どの世代にも、こういう「集団の空気を変えられるカリスマ」って、いるものではあるのでしょうけど。


慎さんが言っていることって、まあ、100人に聞けば99人くらいは「正論」だと判定するはずです。
ところが、これまで自分たちがお金と取られてきた人たちには、受け入れがたかった。
それも、わかる。
そこで、慎さんは「なぜ、間違っているお前たちは、正しいことに従わないんだ!」と、正しさを押しつけることの限界を理解したのです。
そして、「悪いことをするな」ではなくて、「みんなで、後輩たちのために、良い歴史を作っていこう」と呼びかけた。
結果として起こったことは同じかもしれないけれど、みんなの「やる気」を引き出すことに成功したのです。


ジョン・F・ケネディの有名な演説に「国があなたのために何をしてくれるかではなく、あなたが国のために何ができるかを考えようではありませんか」という一節があります。
「国にばっかり頼らず、自分でできることは、自分でやれ」という内容でも、相手への訴え方次第で、効果は大きく違ってきます。


『チームラボ』代表の猪子寿之さんは、「日本の後進性」について、こんな意見を述べておられます。

田原総一郎猪子さんたちが新しいものを生み出していることについて、僕はとっても頼もしいと思う。でも世界的に見ると、iPhoneにしても、グーグルのサービスにしても、新しいものはアメリカからやってくる。なぜ日本ではできないのですか。


猪子寿之なんだろう。大きく言うと、アメリカの西海岸、つまりシリコンバレーは、未来を全面的に肯定している。それに対して、日本は未来を否定している。その違いかな。


田原:未来の肯定はわかる。未来の否定ってどういうこと?


猪子:例をあげると、コピーライト(著作権)ビジネスがそうでしょ。20世紀までは音楽も出版もソフトウェア、あらゆる業界がコピーライトをパッケージ(複数のものを一つにすること)化してビジネスにしてきた。でも、情報化社会になった瞬間、コピーライトパッケージはビジネスにならなくなった。それを受けて、シリコンバレーの人たちは、「いままでのモデルがビジネスにならなくなるなら、次はどういうものがいいのか」と未来を肯定して、YouTubeをつくったり、音楽はライブのビジネスに移ったりするわけです。ソフトウェア産業のアップルもグーグルもコピーライトをパッケージにして売ったりしてませんよね。


田原:でも、日本は過去にこだわると。


猪子:だからどうするかというと、コピーライトのパッケージ化はもはやビジネスにならないのに、無理にビジネスを成り立たせようとして法律を増やしていく。そして、法律を増やしてもビジネスが復活しないにもかかわらず、さらに増やしていく。これは未来の否定だよね。


田原:これはどうしたらいいだろう。


猪子:どうにもならない。日本はすでに老人の国だから。


「日本は、著作権ビジネスが限界を迎えているという現実を見ようとせず、法律で時代の流れを食い止めようとしている」
 ああ、たしかにそういう面はあるのかな、と。
 グーグルは「著作権ビジネスの、その後」を考えているように見えるものなあ。
 ただ、ミッキーマウスというキャラクターに関するディズニーのコピーライト延長問題などをみると、これは、アメリカだから、日本だから、というより、時代の流れに乗って変化していかなければならない、という人たちと、それを食い止めて、既得権益を守りたい、という人たちの、世界共通の葛藤なのかもしれないな、とも思うのです。


 僕自身は「起業家的なメンタリティ」を全く持たない人間なのですが、だからこそ、「いま、この時代に起業している人たち」の話はすごく新鮮でしたし、「実は、この人たちは、僕がいままで読んできた立志伝中の『伝説の経営者』たちよりも、よっぽど良心的で、利他的なのではないか」と思いました。
 彼らは「自分が見つけた穴を、自分たちでふさぐ」ために、起業しているのです。
 そういう気質が、起業家としての成功につながるような世の中であってほしいと願っています。