琥珀色の戯言

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【読書感想】叱られる力 ☆☆☆



Kindle板もあります。

内容紹介
150万部超のベストセラーとなった阿川佐和子さんの『聞く力』の第2弾です。今回のテーマは、「叱る」です。
『聞く力』についての取材を受けるうち、阿川さんは女性誌の編集者との雑談で、いかに部下を叱りにくいか、若い社員が叱られ弱いか、について聞かされる機会が何度もありました。注意したら会社に来なくなった、なんていうのは序の口で、隣の席の先輩が怒られているのを見ただけで辞表を出す、「人に叱られたのは初めてで、どうしたらいいかわからない」と茫然とする……などなど、異常に打たれ弱い新人・若手社員が増殖している現実に気づかされたのです。
そこでアガワが、父親や仕事のボスに怒鳴られ続けた60年を振り返るとともに、上記のような実例を引き合いに、「叱る」「叱られる」も結局は「聞く」ことにつながる大事なコミュニケーションであると説きます「きっぱり、はっきり、しっかりと」「親は嫌われる生き物」「『いつもそうなんだから』は禁句」「『最悪の経験』を尺度にする」「『私、人見知りなんです』は甘え」など、アガワ流の「叱る覚悟」「叱られる勇気」をお楽しみください。


内容(「BOOK」データベースより)
いま打たれ弱い若者、部下を叱れない上司、子供を怒れない親が増えているという。そんな時代に、親に上司に怒鳴られ続けて60年のアガワが贈る、叱られても凹まない心得。


そうか、阿川さんって、もう還暦なんだよな、全然そうは見えないけど……
なんて思いながら読みました。


これまでも、『週刊文春』で長年続いている対談や、檀ふみさんとの往復エッセイなどで活躍されていた阿川さんなのですが、新書『聞く力』が大ベストセラーになってから、さらに露出される機会が増えています。
この『叱られる力』は、『聞く力2』として書かれたものなのですが、大ベストセラーの続編ということでプレッシャーも大きかったはず。
『聞く力』は、阿川さんが対談などで出会った人たちのエピソードを集めた「ベスト盤」的な内容で、さまざまな有名人たちの話の「いいとこ取り」という感じで、僕も楽しく読めました。
この『叱られる力』では、阿川さん自身の個人的な体験、とくに、父親阿川弘之さんとの関係について、かなりページが割かれていました。
阿川さんのエッセイをこれまで読んできた人(僕もそうです)にとっては、「ああ、この話、前に阿川さんのエッセイで読んだ」という内容も少なくないのですが、「家族はみんな平等なのが当然」だと教えられてきた、いま20代以下の世代にとっては「何その横暴なお父さん!」みたいな感じかもしれませんね。
もっとも、この新書のターゲットって、おそらく僕くらいの40代から、僕の親世代である60代くらいでしょうから、「そうそう、ほんと、いまの若者は、叱られ方も知らないんだから!」っていう、勤務先の偉い人の声が聞こえてきそうでした。


とはいえ、この新書を読んでいると「叱られ慣れていない大人たち」を相手にしなければならない、「叱られて育てられた親世代」の困惑も伝わってくるんですよ。

 男性社員に届け物を頼んだところ、往復四十分ぐらいのところにもかかわらず、二時間経っても戻ってこない。どうしたのかしら。事故にでもあったのか。心配しているところへようやく戻ってきたので本人に訊ねたそうです。
「どうしたの? なにかあったの?」
 するとケロリとした顔で、
「お昼を食べていました」
「それならそれで、行く前にちゃんとボードに書いておくとか、途中で連絡を入れてくれるとかしてくれなくちゃ、心配するじゃないの! 他にも頼むことだってあるんだし」
 注意をすると、彼は唖然とし、
「僕、生まれて初めて怒られました」
 いまときは、家庭でも学校でも叱られずに育っている人が増えているのでしょうか。叱られない日のなかった私の子供時代と比べたら、アンビリーバブルな現象です。そんなに親も先生も優しいのですかね。


 これ、いくらなんでも「釣り」なのでは……
 と、ネットに毒された僕などは考えてしまうのです。
 でも、どうなのかなあ、今の若者って、ここまで「叱られない」の?

「これは別にウチの会社が思いついたんじゃないんですが、けっこうあちこちで言われているんですよ」と前置きした上で、最近、雑誌の編集長になった友達の女性編集者が「叱り方の極意」を教えてくれました。すなわち、
「借りてきた猫」
「借りてきた猫? なにそれ?」
 訊ねると、


 か……感情的にならない
 り……理由を話す
 て……手短かに
 き……キャラクター(人格や性格)に触れない
 た……他人と比べない
 ね……根に持たない
 こ……個別に叱る


 この七項目に留意して叱りなさいということらしい。誰が考えたのかは知らないけれど、うまい方法を思いつく人がいるものです。
 私と一緒にその「借りてきた猫」説を聞いていた、私よりかなり若い女性たちが一斉に騒ぎ出しました。
「えー、理由を話さなきゃ叱っちゃいけないの? そんなの自分で考えろって言われたよねえ、昔は」
 たしかに私も昔、「自分の胸に手を当てて考えてみろ!」と言われた記憶があります。でもあの言葉は、きつかった。そんな持って回った言い回しをしないで、説明してよとは思いました。子供の頃は父親に怒鳴られてさんざん泣いたあと、むしろ父から「なにがいけなかったかわかったか。わかったなら行ってみろ」とよく問われたものですが、あれもきつかった。なんで突然、父の機嫌が悪くなったのか、よくわからないんですもの。だからしかたなく、「わかりました。サワコが悪かったから」と言うのが精一杯の「理由」でしたっけ。


 阿川さんとお父様のさまざまなエピソードを読んでいると、「こんな家父長制の権化のような前時代的な父親と、衝突しながらもよく付き合ってきたものだなあ」と感心してしまうのですが、阿川さんの「年長者ウケの良さ」というか「偉い人の捌き方の上手さ」みたいなのは、おそらく、そういうお父さんとの関係で身につけたものではないかと思われます。
 「理不尽に怒られるのは嫌」なのは、みんな同じはず。
 しかしながら、現実には、「それで成長する人」もいれば、「それをうまく消化できないで、深く傷ついてしまう人」もいる。
 でもまあ、いまの管理職の世代にとっては「自分たちは、相手の機嫌次第で、きつい『指導』を受けるのが当たり前だったのに、自分が上司になったら『かりてきたねこ』かよ……」ですよね、きっと。


 あと、「人見知り」についてのこんな話も、身につまされました。

 だからね。本質的には私も人見知りなのですよ。でも、そんなことにウジウジしていられない切迫した状況がドカンと襲ってくるものだから、「私、人見知りなんです」なんて言っている暇がないのです。こうして私は、「人見知りではない人間」という刻印を押されてしまうことになる。
 でも、世の中のたいがいの人は、そういう状況を経験しているはずです。本当は人見知りと言いたいところだけれど、そんなこと言ってたら仕事にならないし、用事が済まないし、前にも進めないから、なんとかその恥ずかしい気持ちを克服して生きていくしかないと自らを鼓舞しているのです。それを最初から「私、人見知りなんです」と宣言して周囲の承認を得るって、どういうこと?
「それって、甘えなんじゃないの?」
 つい、私は言ってしまいました。すると質問をしてきた女性編集者の口がポカンと開いて、
「あ、言われてみたら、そうかもしれません……」
 初めて気がついたとばかりに目を輝かせたのです。私とて、確信があったわけではありません。でも言ったあとによくよく考えてみれば、どうもそういう傾向があるのではないかという気がしてきました。つまり、極端なことを言えば、最近の日本人の多くがいくつになっても「大人になった」自覚に欠けているのではないかと……。


 僕も「人見知り」なものですから……
 ただ、「仕事」となると、「人見知りだから」で済まない状況というのは、確かにあります。
 そして、少なくとも仕事としてのコミュニケーションでは、ある程度「人見知り」も改善できるのです。


 プロインタビュアーの吉田豪さんが『情熱大陸』で採り上げられていたことがあったのですが、僕は吉田さんって、もっとこうグイグイ相手に食い込んでいくようなタイプだと思い込んでいたんですよ。
 ところが、番組内でインタビューしている吉田さんは、むしろ朴訥に、ボソボソと喋っていました。
 それでも、インタビューされている側は、吉田さんにどんどん自分のことを話してしまう。
 吉田さんは、インタビューをする前には、できる限り多くの相手の資料(著書や過去の発言、作品など)を予習されているそうです。
 阿川さんも、対談の前には、相手の著書や最近の仕事などをきちんと確認されているのだとか。
 

 仕事で誰かと話をする際に、うまくコミュニケーションを取ろうと思うのであれば、事前に「相手のことを知っておく、知るための努力をする」ことで、状況はかなり改善されるようです。
 それでも、人前で緊張したり、うまく話せないことはあるのでしょうけど、「自分のことに興味をちゃんと持ってくれている相手」には、こちらが口下手でも、大概、向こうから心を開いてくれるものだと、吉田豪さんは仰っていました。

 
 「人見知り」だってアピールしておけば、予習しなくても許されるよね。
 それは、たしかに「甘え」なのかもしれません。


 もちろん、ひどい対人恐怖症のような、医学的な介入が必要なものは、例外ではありますが。


 そういえば、「プレゼンテーションの名人」だったスティーブ・ジョブズは、多忙を極めるなか、大事なプレゼンの前には、何度も何度もリハーサルをして、「観衆にどう見えるか」を確認していたそうです。
 ジョブズには才能があったのは間違いないけれど、練習しなければ、その才能を十分に活かすことはできなかったのではないかと思います。


 正直、この新書に書かれている阿川さんの「叱られ方」や「コミュニケーション術」って、やっぱり「いま、還暦くらいの人からみえている世界」だとは思うのです。
 若い人たちには、反発したくなるところも多いのではないかなあ。
 しかしながら、実際にいまの社会で偉い立場にある人の多くは、この阿川さん世代なわけで、「いまの会社でトップにいる世代の人たちが好んで読むような考え方」を知るためには、ちょうど良いテキストなのかな、という気がします。



聞く力―心をひらく35のヒント ((文春新書))

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