琥珀色の戯言

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【読書感想】泡沫候補: 彼らはなぜ立候補するのか ☆☆☆☆


(038)泡沫候補: 彼らはなぜ立候補するのか (ポプラ新書)

(038)泡沫候補: 彼らはなぜ立候補するのか (ポプラ新書)

内容紹介
マック赤坂羽柴誠三秀吉外山恒一……彼らはなぜ負けるとわかって戦うのか? 有名候補者たちの真実がここにある!


内容(「BOOK」データベースより)
彼らは本当に当選すると思っているのか?国政選挙や有名自治体の首長選挙には、必ずといっていいほど「泡沫候補」と呼ばれる人々が名乗りをあげる。当選する見込みがほとんどないにもかかわらず、なぜ彼らは立候補するのか?気鋭の映画監督が、異例の大ヒットを記録した「映画『立候補』」での取材を基にして迫る、泡沫候補者たちの真実。


泡沫候補」はなぜ、立候補するのか?
候補する、という行為だけなら、「ああ、目立ちたいんだな」とか「世の中に物申してみたい人なのかもしれないな」とか、想像することは可能なんですよ。
ただし、知事選以上の「大きな選挙」に立候補するには、300万円の「供託金」が必要となります。
この「供託金」は、一定割合以上の得票がなかった場合、没収されてしまうのです。
僕たちが「泡沫候補」と言われて、思い浮かべるような人たちは、まずこの「一定割合」に達しません。
「供託金300万円+選挙費用」というお金をかけて、「当選」は夢のまた夢、マック赤坂さんのような「目立つ人」を除けば、ほとんどメディアに採り上げられることもないのに、なぜ、彼らは選挙に出るのだろうか?
著者は、大阪府知事選の「泡沫候補」たちに取材をしているのですが、彼らは一様に「客観的にみたら、自分が当選するとは思えない」と答えているのです。


この新書の主役は、ネットでは話題になることも多い「マック赤坂」さんでした。
著者のドキュメンタリー映画の主役のひとりがこの人なのですが、なんというか、「こんな人が出馬していいのかよ!」と言いたくなるような傍若無人っぷり。

 さっきまで松井一郎氏が出陣式を行っていた大阪府庁舎前には、代わって白のロールス・ロイスが横付けされた。車の横には大きく「スマイル党・マック赤坂」という安っぽいステッカーが貼られている。6000万円するロールス・ロイスのボンネットの上には、選挙でよく見かける車載用のスピーカーが2つ、無造作に置かれていた。
「はい。それでは、ピー」
 マック氏の声が建物に跳ね返り「ピー」とハウリングした。櫻井秘書は落ち着いてスピーカーの向きを調整する。
大阪府庁! 万歳!」
 マック氏は両手を大きく広げ大阪府庁に向かって叫んだ。目の前には、NHKの取材クルーとスポーツ紙の記者と私たちがカメラを構える。一般の聴衆は1人もいない。
「それでは、挨拶代わりにスマイル党マック赤坂がスマイルダンスをやります」
 少し間をおいて、車の中から櫻井秘書がCDの再生ボタンを押した。
「ドュンドュンドュン♪ ハア〜〜♪」
 低いベースのリズムが刻まれ、女性の神秘的な声が入ってくるイントロが流れ始めた。曲はVan McCOYの「The Hustle」。1975年に流行ったディスコミュージックで、団塊の世代にはたまらなく懐かしい音楽らしい。マック氏は小さな踏み台に乗り、マラカスを両手に持ち音楽に合わせてリズムを刻む。
「タッタッタッタ♪ タッタッタッタ ♪たかじん、たかたかター」
 基本的には音楽に合わせてマラカスを振るだけだが、時折、小ギャグを挟み込む。NHKのカメラマンはカメラを上下に振って、スマイルダンスを一生懸命撮影していた(NHKは初日のみ、第一声を候補者平等に報道する)。
「なんじゃこりゃ」
 私は離れたところからカメラを回しつつ、心の中で思った。強面のNHK記者が私に言った。
「この人、真面目にやったらそこそこ票とれると思うんだよな。話もできるし、頭も良いんだし。なんで、踊っちゃうのかな〜」
 そのNHK記者は、前日に行われたマック氏の出馬表明記者会見にも参加していた。

 他に、踊り以外でもマック氏が街頭活動として力を入れていることがあった。演説中に美人を見つけると、
「スマイル美人!」
 と叫ぶ。すると櫻井秘書が名簿を持ってその女性に近づき、メールアドレスと連絡先の記入をお願いする。マック氏が言うには、スマイル美人のナンバーワンに選ばれると「マック赤坂と行くロサンゼルスの旅プラス100万円」がプレゼントされるとのことだった。私の調べた範囲では、実際に100万円をプレゼントした形跡はないので、ただのナンパだと思う。たとえ100万円をあげていたとしてもナンパだと思う。
 自由気ままに行動して、歌って、踊って、ナンパする。本当にどうしようもない人。これが初日から数日間密着したマック氏の印象だった。


 なんなんだこの人は……
 京大卒で伊藤忠商事に入り、実業家としても、ロールス・ロイスに乗れて、供託金300万円をドブに捨てる(って言うのは失礼なんでしょうけど)くらいの資金力もある人だし、政見放送でのパフォーマンスにしても、かなり研究してやっているようなんですよね。
 いきなり知事とかは無理かもしれませんが、地方議会の議員レベルであれば、「真面目にやれば、そこそこ票をとれる」のではないかと、僕も思います。
 ただ、その一方で、有名人でも、二世でもなく、政党の推薦も得られない人は、「真面目に」立派な政策を主張したとしても、ほとんど見向きもされない、という現実もあるわけです。


 マック赤坂さんのような「パフォーマンス系泡沫候補」というのは、僕にとって「納得はできないけれど、そういう人がいるのは、理解できなくもない存在」なんですよ。
 「選挙」という形で、自分をアピールし、世の中を変えようという積極的な意思は感じるので。


 しかしながら、この大阪府知事選挙には、マックさんの他にも「泡沫候補」が出馬しています。
 この選挙に出馬した、元大阪府職員の岸田修さんへの取材。

――岸田さんの選挙活動についてですが、どこで演説とかされますか?


岸田「いやー、そんなん。そりゃーあんまし、せーへんよ。説教はしないけどな。届出までやな」



――届出だけで選挙活動をする?


岸田「お金いるやん。掲示板とかあんなん。ポスター枚数1万2000なんぼとか、お金いるやんか。選挙ビラとか8万枚のはがきとかな。使うたら見返り求めるしな、人間やったらやっぱり。100円、1000円使うても見返り求めるやろ?」



(中略)


ーー供託金は府庁の退職金ですか?


岸田「そりゃやってきて、35年間働いとったしな」


――その300万円を出されて。


岸田「うんうん、しゃあないわな。高い。まぁ難しいけどな、そこんとこは。内容のある候補がたくさん出てきたらええと思うけどな。せやないと、承認みたいになるやん、投票が。せやから選挙の投票率が落ちていっとるやろ?」


……この人、何のために出馬したんだろう……
岸田さんは「政見放送も原稿の棒読み」だったそうです。


うーむ、「そんなにやる気ないのなら、出馬するなよ!」と腹が立つというよりは、「なぜ、この人が300万円を捨てて、出馬するに至ったのか?」と、疑問でなりません。
本気で当選すると信じ込んでいるという人や、落選しても世の中に風穴をあけてやる、政見放送で言いたいことを言ってやる、仲間を増やしてやる、という外山恒一さんのような人の頭の中は「想像可能」なんですよ。彼らに投票はしませんけど。
でも、こういう「あまりにもやる気のない記念出馬」だと感じる人のことは、不可解だとしか言いようがありません。


しかし、マック赤坂さんや羽柴誠三秀吉さんみたいに、負けても負けても懲りずに出馬しつづけている人がいることを考えると、「魅力」もあるのだろうなあ、「選挙に出ること」には。


マック赤坂氏が母校である京都大学の学園祭に自主的な演説のために行った際(大阪府知事選なのに、です)、運営側にさんざん迷惑がられながらも、酔っぱらって上機嫌のマック氏をみて、ある男子京大生は、こう言ったそうです。

「一言で言えば陽気なおっちゃんやな、と。若者に良い意味でも悪い意味でも政治に親しみを感じさせてくれてるんじゃないかなと思います。たとえ、有名じゃなくてマックさんのことを知らんかったとしても、マックさんみたいな人と実際に会って喋ったら、政治に興味を持つきっかけになるんじゃないかなと。僕自身、1回も投票に行ったことないですから。
 でもやっぱり、ここで飲んでいることが、どう選挙活動に結びつくのか全然わかんないです。マックさんには投票しないです」

そりゃ、そうだよね。
むしろ、この京大生のほうが出馬したほうが良いんじゃないかな、と思いました。


この新書を読んで、僕はちょっと考え込んでしまったんですよ。
彼ら、「泡沫候補の足掻き」は、観ていて微笑ましかったり、理解不能だったりするのですが、彼らと「当選していく候補」の違いは、どこにあるのだろうか、と。
それが「政治家としての資質や能力の違い」であれば良いのだけれど、結局のところは、所属していたり、支援してくれていたりする政党の力が無ければ、ごく一部のタレント候補以外は「泡沫」なんですよね。
その人が、どんなに立派な政策を掲げていたとしても。
それが「現実」であり、政党や組織のなかで、うまくやっていくのも「能力」ではあるのでしょう。
とはいえ、「面白くない選挙活動を粛々とこなせて、バックに大きな組織がついていること」が、当選するための条件であるとするならば、「面白みがない、無難な人」や「二世議員」ばかりになってしまうのが当然ではあるのです。


巻末の著者と『ドワンゴ』会長の川上量生さんの対談のなかで、川上さんはこんなことを仰っています。

川上:今の社会って「××したい」とあるベクトルに向かって明確なビジョンを持てる人は少ないと思うんですよね。世の中をすごく単純化して見て、ビジョンを持てる人はいるかもしれないけれども、実際世の中はそんな簡単でもないし単純でもないじゃないですか。おそらく世の中を変えようとするために必要な知識量を、ひとりの人間が得ることは、もはや無理だと思うんですよ。複雑すぎて。そうすると、逆説的ですけど世の中を変えていくのは根本的に「わかってない人たち」ですよね。世の中を変えられると「勘違いしている人」たちですよ。じゃあそういう人たちが実際に政治の世界に行って、勉強して、十分な知識量を身につけられるのかっていったら、それもまた難しいんだろうなって思いますね。


「面白い政治家」が出てくることを期待してしまうところが僕にはあるのですが、実際は「面白い人が組織に推されて出馬し、当選し、政治の世界でやっていく」ことは、難しいのです。
「勘違いしている人」がみんなを連れて行くのは、必ずしも良い方向とは限りませんし。


「なぜ、泡沫候補は出馬するのか?」というのは、知らなくても自分が生きていくうえでは、何のデメリットもありません。
 そして、この新書を読んでみても、その明確な理由というのは、よくわかりません。
 でも、「そういうこと」が気になってしょうがない僕にとっては、なかなか面白い本でした。

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