琥珀色の戯言

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【読書感想】空き家問題 ☆☆☆☆


空き家問題 (祥伝社新書)

空き家問題 (祥伝社新書)

内容紹介
東京オリンピックが開かれる2020年、全国の空き家は1千万戸に達し、空き家率は十五%に上(のぼ)とされる。 空き家は毎年二十万戸ずつ増加しており、すでに日本全国空き家だらけなのだ。 2030年には、まるまる東京二十三区分、今より一千万人の人口が減ると見込まれ、家はあっても住む人がいないという社会は目前である。 空き家問題の根本にあるのは、日本の都市発展の歴史そのものであり、戦後の日本が行き着いた末の姿である。 今後、家は、コストばかりがかかる、無用で厄介なものになる危険が大きく、空き家は重大な社会問題として認識されていくだろう。


 僕も40歳を過ぎ、家に子供がいて、周りの人が家を建てた話を聞いていると、「庭がある一軒家とか、良いよねえ……」などと考えてみたりするわけです。
 高齢になると、家を借りるのも大変、とか言われているし。


 でも、この新書を読んで、考え込んでしまったのです。
 本当に「持ち家」って、必要なんだろうか?
 いや、むしろ、「邪魔」になりかねないのでは……

 今、国内で「空き家」としてカウントされる家はどのくらい存在するのでしょうか。
 総務省では5年に一度の割合で全国を対象に「住宅・土地統計調査」を行っています。平成20年(2008年)の調査結果によれば、国内の住宅総数は5759万戸、平成15年(2003年)から比べると、人口の伸びがない中で、5年間に370万戸、6.9%も伸びています。一方空き家数は住宅総数の増加率を上回る14.6%、97万戸も増加し、総数では757万戸に達しています。これを総住宅数に占める割合(空き家率)でみると、13.1%になります。前回調査で12.2%ですから、作れば作るだけ空き家の割合がどんどん増加していくのが今の日本の状況ということがわかります。
 さて、この増加の状況ですが、このままいきますと、平成32年(2020年)の東京五輪開催の時にどうなっているのでしょうか。過去5年間で97万戸、つまりこのまま毎年20万戸空き家が増加していくと仮定した場合、平成32年(2020年)までにプラス240万戸となり、空き家数はなんと1000万戸の大台に到達してしまいます。

 ちなみに、平成32年の「空き家率」(全住宅数のなかの空き家の割合)は、15%を超えることが予想されるそうです。
 2020年は「東京オリンピック」の年で、「オリンピック特需」が期待されているのですが、日本の人口が減り、高齢化がさらに進んでいくという流れは、オリンピックでも押しとどめることはできそうにありません。
 オリンピックが開催されるからって、子供が劇的に増えるわけもなく。
 

 でもまあ、「人口が減って、空き家が増えても、それで何か困ることがあるの?」と、僕は思っていたのです。
 空き家はもったいない感じがするけれど、それでも、何か悪影響って、あるのだろうか?


 ところが、この新書を読んでみると、空き家、とくに一軒家というのは、本当に「お荷物」になりかねないのです。
 家は人が住んでいないとどんどん荒れてしまう、と言いますが、家屋の老朽化による倒壊の心配や悪臭、庭に草木が生い茂っていくことによる虫の発生、「人が住んでいない家」が増えることで、そこに住み着いたり、隠れ家にする人々による治安の悪化が懸念されます。
 所有者にとっては、住んでいない家であっても「固定資産税」の対象になり、税金を納めなければなりません。
 家を取り壊して更地にし、再利用しようとしても、更地というのは「宅地」に比べて固定資産税が5倍くらいに跳ね上がるそうです。
 それですぐに売れればいいけれど、よほど良い場所にある土地でもなければ、なかなか売れません。
 売れないあいだは、高くなった税金を払い続けなければならないのです。
 僕も地方都市住まいなのですが、僕の息子が将来どんな生活をして、どこに住むかなんて、想像もつきません(まだ5歳ということもありますが)。僕自身、自分が子供の頃に親が想像していたのとは、全く異なる生活をしているのでしょうし。
 「よっぽどの名家の後継者」でもないかぎり、「家」に縛られるような人生を送る人は、今の世の中では、ほとんどいないはずです。
 自分たち夫婦が死んでしまったら、子供にとって「お荷物」になる可能性が高いのに、家を建てる必要があるのだろうか……
 30歳くらいで建てて、一代で住み尽くす覚悟なら良いのかもしれません。
 でも、「財産として子孫に家を遺す」というのは、これからは、もう、流行らないというか、かえってありがた迷惑にさえなりそうです。


 そもそも、「持ち家があれば、年をとっても住む場所に困らない」というのも、「身の回りのことが自分でできるくらいの体力があれば」の話なんですよね。

 C子さんは、87歳になられた今でも矍鑠(かくしゃく)とされ、耳もよく聞こえ、頭ももちろんパーフェクト。私の尊敬するお年寄りのひとりです。C子さんが語ります。
「牧野さん、ここに暮らしはじめて40年以上になるけど、子供も巣立ち、主人も亡くなって今では私ひとりよ。おかげさまで健康で生活上の悩みは特にないけど、ひとつ挙げるとすればご近所がもう空き家だらけなの。10年くらい前から団地内にあったスーパーや雑貨店はみんな閉店してしまったの。買い物に行くのでも昔は車でどこにでも出かけられたけど、今はもう怖くて運転免許も返上しちゃったしね。最寄りのスーパーまで行くにはバスに乗るしかないわ。バスがあるうちはよいけど、これがなくなったらもう陸の孤島だわ」
 ここは、Bさんのご実家よりもさらに問題が深刻化しているケースでした。つまり、お年寄りの一人暮らしの増加から事態はさらに進んで、地域内で空き家の比率が増加し、地域を支える商業店舗がなくなり、車を使うことも困難になったお年寄りがバスで他の地域の店舗に買い物に出かけるという、ほんの十数年前、地方で問題となった「過疎地」問題がまぎれもなく、今首都圏で生じているという事実でした。


 首都圏、横浜でさえ、こんな感じなのか……
 この新書のなかでは、神奈川県のJRの駅前に分譲されたマンションの購入希望者に、地元の高級住宅地の高齢者たちが大勢いたという話が紹介されています。
「なぜ住み替えを?」と販売員が尋ねると「丘の上での生活は環境は良いけれど、土地が広すぎて家や庭の手入れが大変、老朽化してメンテナンスにもお金がかかるし、近所の店も無くなってしまったので……」とのことでした。
 1億円くらいの価値があるだろうという高級住宅地に住む人たちが、5000万円の駅前マンションに住み替える……「生活上の便利さ」を優先して。この家に将来住む子供もいないことだし、と。
 ところが、この買い替え、ほとんど全部「流れてしまった」そうなんですよ。
 なぜならば、「高級一戸建て」が全く売れなかったから。
 高級住宅地だからと吹っかけたわけではなく、土地の価値を考えれば、妥当な値付けだったそうなのですが。
 いくら「高級住宅地」だと言っても、生活に不便な一軒家は、もう、誰も買わないのです。
 都心のタワーマンションや駅前の便利なマンションでもないかぎり、「資産」としての価値よりも、「将来のお荷物」になる心配のほうが大きい。


 そして、「空き家率」は2020年の東京オリンピックの後も、増加していきます。

 現在の空き家率は13.1%。この値は今後どこまで増加していくのでしょうか・野村総合研究所の推定によれば、今後も平成15年(2003年)当時と同じ年間120万戸の住宅が新たに着工されていくのならば、2040年には空き家率は43%に達するという衝撃的なデータを発表しています。まさに「お隣は空き家」状態です。
 着工戸数を半分の60万戸に抑制したとしても36%ということですから、事態の悪化は止めようがないということになります。

 今から四半世紀後には、2軒から3軒に1軒は「空き家」になってしまうのです。
 もちろん、その割合は地域によって差が出てくるでしょうし、一戸建てのほうが「空き家率」が上昇することが予測されるので、「ゴーストタウン」が日本のあちらこちらに生まれてくることになります。
 上下水道などのインフラの問題や、税収の低下なども著者は懸念しています。
 でも、これって、「人口減」「ライフスタイルの変化」によるものですから、劇的な打開策って、なさそうなんですよね。


 著者は、この新書のなかで、さまざまな対策を考えているのですが、そのなかには、こんなものもありました。

 自治体をまとめ、新しい都市計画を策定しても人々がどんどん首都圏や東京に吸い込まれていったのでは、事態はいっこうに解決しないことになります。日本の国内における「ひと」の再配置が必要です。
 地方への移住についてはかなり昔からテーマとなっていたことです。定年後の新しい生活として地方へ移住したり、サラリーマンをやめて地方に新天地を求める、あるいは親の家を継いで移り住むなど、さまざまなケースがあります。それでもその規模は小さく、大きなトレンドを形成するには至っていません。きわめて個人の問題に収斂しているのがこれまでのケースです。
 しかし国家プロジェクトとして「ひと」を再配置するとなると、仕掛けは大掛かりになります。人口が減少し、自らの数も減少する一方の地方自治体に、いったいどうやったら人は戻ってくるのでしょうか。
 このきっかけとなるのが、皮肉なことに地方ではすでに高齢者が減少し始め、高齢者用の施設に空きが出始めていることです。施設の中には利用者の減少で経営が苦しくなっているところまで出てきています。
 一方で先ほども触れましたように、首都圏では医療施設、介護施設や高齢者用賃貸住宅のすべてがまったく足りない状況に陥っています。これでは高齢者は首都圏から脱出せざるをえません。
 これからの地方は高齢者がいなくなるのを逆手にとって、新たに首都圏などで溢れた高齢者を招き入れるのがもっとも手っ取り早い人口回復策なのです。高齢者から高齢者へ、なんだか夢も希望もないかのように感じられますが、高齢者用施設が健全に運営できれば雇用が生まれます。雇用があれば若い人たちも地元に残ってくれる可能性が高まります。理想を言えばキリがありませんが、まずは「ひと」を増やす。そこに仕事が生まれる、この好循環をとにかく早く実現していくことです。

 たしかに、こういうのが「現実的な解決策のひとつ」なのでしょうね。
 それにしても、「地方では、すでに高齢者が減少しはじめている」のか……

 
「家を建てること、あるいは家を購入することを考えている」という方は、この新書、読んでおくことをオススメします。


「それでも家を建てますか?」


 僕は、もういいかな、一軒家を持つのが夢だった時代は終わったんだな、と感じたんですよね。
 でも、「家を建てることさえ、人生の目標にならない時代」っていうのも、なんだかちょっとせつない。

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