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琥珀色の戯言

【読書感想】【映画感想】のブログです。2016年8月より、『はてなブログ』に移行しました。

【読書感想】日本の風俗嬢 ☆☆☆☆


日本の風俗嬢 (新潮新書 581)

日本の風俗嬢 (新潮新書 581)

内容紹介
「そこ」で働く女性は三〇万人以上。そんな一大産業でありながら、ほとんど表で語られることがないのが性風俗業界だ。どんな業態があるのか? 濡れ手で粟で儲かるのか? なぜ女子大生と介護職員が急増しているのか? どのレベルの女性まで就業可能なのか? 成功する女性の条件は? 業界を熟知した著者が、あらゆる疑問に答えながら、「自らの意思でポジティブに働く」現代日本の風俗嬢たちのリアルを活写する。


 同じ著者の『職業としてのAV女優』を興味深く読んでいたので、この新書も書店で見かけて即買い。
読んでいて驚いたのは、「風俗で働く」ということが、いま(2014年)の女性にとって、こんなに「狭き門」になっているのか、ということでした。
 僕はこの業界に詳しくなくて、『ナニワ金融道』の「フロに沈めたる!」みたいなのを引きずっていたんですよね。
 ああ、経済的に困窮してしまって、やむをえず「カラダを売る」ことになった女性が、たくさんいるんだろうな、と。

 風俗嬢という鏡が映し出すものは何か。それについては本書を読んでいただきたいが、最初にお断りしておけば、「お金のために腹をくくって裸の世界に飛び込み、涙を流しながら性的サービスを提供している」といったイメージはすでに過去のものである。
 どこにでもいる一般女性がポジティブに働いている。高学歴の者もいれば、家族持ちもいる。これが現在の普通の光景である。


 この新書を読んでいると、「どこにでもいる一般女性がポジティブに働いている」というのは、事実なんだろうなあ、と納得できるのです。
 現在は、風俗業界に「就職」することがかなり難しくなっており、業界内での競争も激しくなっています。
多少ルックスが良くても(ものすごく良い、ならともかく)、「イヤイヤながらやっている人」では、生き残っていけません。


 その一方で、著者は、「風俗は、もはや貧困女性のセーフティネットとして機能しなくなっている」ことも暴いていきます。
 若くて、ルックスが良くて、過激なプレイに対応でき、対人コミュニケーション能力を持った風俗嬢は、いまでも月収100万円を軽くこえる高収入を得ているのですが、そんなエリート風俗嬢は、ごくひとにぎり。
 以前であれば、「クラスの平均くらいのルックスの女の子」であれば、それなりに稼げていたのに、いまでは、競争率が上がって、「クラスの平均くらいでは、風俗業界で採用されるのも難しい」。

 性を売る行為がカジュアル化した理由は二つあり、「女性の性に対する意識の変化」と「貧困の深刻化」である。
 90年代から性風俗関連の取材を続けてきた私の感覚だと、ブルセラ時代と呼ばれた1980年代生まれが20歳になった2000年あたりから性の売買に抵抗のない女性は急増した。その後、数年間を費やして10代〜40代の多くにその意識が浸透している。この期間に女性たちは性に対してポジティブになった。「肉食女子」なとという言葉が生まれたのも、そのあらわれかもしれない。
 現在のように性風俗関連の仕事をポジティブに捉える女性が本格的に増えたのは、2008年の世界不況(リーマンショック)で雇用が本格的に壊れてからである。90年代までは性を売る行為は転落の象徴であり、大多数はそこまで落ちたくないという意識がまだ根強かったが、その頃と比べて、意識はまったく変わっている。
「自分の才能や技術に対して、男性客が安くはないお金を払ってくれている。誰にも頼らずに生きているのだから、私は平均的な女性に比べても勝っている。むしろ上層部にいる」という意識すら見られるのだ。
 2000年代以降は友人の紹介だったり、求人サイトで自分の意思で応募をしたり、繁華街でスカウトされたりと、多くの女性が性風俗にポジティブに足を踏み入れている。志願者が増えすぎたその結果、需要と供給のバランスが崩れ、今は以前のように簡単に商品価値が認められなくなった。つまり、女性なら誰でも参入できるビジネスではなくなったのである。


 店舗型の風俗店の新規参入が難しいこともあり、現在は「デリヘル」こと、「デリバリーヘルス」が隆盛となっているそうです。

 デリバリーヘルスが該当する無店舗型第一号の1万7204店は圧倒的な数だといっていいだろう。セブン−イレブンの店舗数1万6450軒(2014年4月末現在)を凌駕する数値で、供給過多、増えすぎている業態である。

 セブン−イレブンよりも、デリヘルのほうが多いのか……
 さまざまなデータに基づき、著者は、日本の風俗嬢の人数を32万5000人〜39万人と推定しています。
 「20歳から34歳の女性人口は約1000万人なので、風俗嬢人口が35万人とすると、この年齢層の女性の28人に1人が風俗嬢」となるそうです。
 しかも、それは「実際に従事している人の数」で、希望者まで含めると、もっと「潜在的風俗嬢人口」は多くなります。

 以前、身近な性風俗関係者に「10人面接に来たら、何人くらい採用?」という質問をしたことがある。
「求人で面接に来た女の子で採用するのは10人中、せいぜい3人くらい。外見で売り物になりそうなのが10人中4人、外見はよくてもコミュニケーション能力が低かったり、精神的に病んでいそうな女性は落とすから、それで3人。稼げる人気店はもっと厳しい。うちみたいなそんな稼げない普通のデリヘルはどこもそれくらいじゃないかな」(池袋のデリヘル店長)


 「2〜4人。半分以上は使えないレベルがくる。採用しても決められた日に来なかったり、時間通り来なかったりって女の子はすぐに断っちゃう。最終的に残るのは1人くらいかな」(歌舞伎町のデリヘル経営者)


 このような話から推定すると、20〜34歳までの女性の10人〜15人に1人くらいは、風俗業界の経験者か、志望したことがある人ではないかと思われます。


 先述した、「風俗で働く、どこにでもいる一般女性」の代表として、著者は「現役女子学生」を挙げています。
 いきなり風俗じゃなくても、ホステスとかキャバクラ嬢みたいな「身体の接触なしでやれる水商売」で良いのでは……と僕は思ったのですが、著者は、それに対する答えもちゃんと書いてくれています。
 ホステスやキャバクラ嬢は、お酒を飲めない人には難しい。よって、未成年では働けない。また、高度のコミュニケーション能力を求められ、拘束時間が長いし、時間の融通がきかない、ということで、短時間でコンスタントに稼ぐことは、風俗で働くよりも難しいのです。
 そういう意味では、「学生生活を維持するために、まとまったお金が必要だけど、ちゃんと自分の勉強時間も確保したい」という、「真面目な学生」にとっては、心理的な抵抗さえクリアできれば「割の良いアルバイト」なんですね。


 僕にとって衝撃的だったのは、「介護職のセカンドキャリア」として風俗嬢に転身する人がかなり多い、ということでした。

 兼業女性の中で、これまで目立っていた職業は看護師、飲食店員、アパレル転院、美容師だった。また、6割が貧困レベルの生活を強いられていると言われるシングルマザーが多いのも特徴である。
 性風俗に目立って人材を輩出している職業には、他業種と比べてなにかしらの深刻な問題を抱えていることが多い。看護師は命を預かる責任の重さが常につきまとううえに、女性ばかりの職場における人間関係で過剰なストレスを抱えがちだ。飲食店員、アパレル店員、美容師などのサービス業従事者の多くは低賃金であり、その収入だけでは人並の生活が出来ない。
 そして2000年代後半以降、急激に増えているのが介護職員である。
 全国各地で施設の介護職員や訪問介護員、ヘルパー二級や介護福祉士、ケアマネージャー(ケアマネ)の資格を有する女性が、今まで目立つ存在だった看護師や飲食店員、アパレル店員や美容師を抑えて、カラダを売る仕事に大量流入している。
「三年くらい前からサイトに募集広告を出すと7人か8人に1人くらいは、介護をしているって子が来るよ。給料が安くて一人暮らしなので苦しい、みたいなことをみんな言っているよね。でも介護の子は時間が限られていて、玉(タマ:外見)があまりよくないでしょ。断っちゃうことが多いよね。たまに介護している子が稼げちゃうと、介護の仕事を辞めてこっちが本業になるかな」(東京錦糸町デリヘル経営者)
 介護職員は、シフト制で時間が不規則な仕事である。資格試験の受験に三年以上の実務経験が必要な愛護福祉士以外は、時給計算の非正規雇用が一般的で、フルタイムで働いても月収は15万〜16万円にしかならない。親が低収入で仕送りの少ない地方出身の女子学生と同じく、普通に生活するのも厳しい金額である。正規雇用介護福祉士になっても、月給は手取りで19万円程度。生活が厳しいうえに将来性のない、離職率の極めて高いワーキングプアの筆頭職種となっている。


(中略)


 介護職員は、安月給で生活できない悩みから副収入の手段を探り、風俗の世界に足を踏み入れることが多い。全国的に人手不足の介護施設は、国家資格である介護福祉士を取得していれば、いつでもどこでも採用される。性風俗がだめになっても介護があるから大丈夫という保険があるので、大胆な行動がとれる。ダメになったら介護に戻ればいいという安心感が、性風俗の世界に積極的に向かわせるのである。この場合、介護業界のほうが「セーフティネット」として機能しているということになる。

 「介護職」というのは、日本の高齢化にともなう「成長産業」ともてはやされ、多くの人が介護の世界に入ってきたのですが、仕事は精神的にも肉体的にもきつく、その割には給料は安い、というのが現実です。
 「理想の介護」をやろうと業界に入ってきた人たちが、内部の現実に疲れ果て、離職する際に、同じ「サービス業」として、風俗を選ぶそうなのです。


 著者自身も、実際に小さな介護施設を経営しており、現場でさまざな「実例」をみてきたそうです。

 多くの介護施設は「笑顔、やりがい、成長、夢」など、ポエム的な常套句を一方的に職員たちに叩き込む傾向がある。洗脳してポジティブな状態を保たせて、なんとか低賃金で働かせようとする施設側の工夫だが、貧困レベルの生活をしている自分より、兼業風俗嬢の方がゆとりがあって幸せそうに見えるのは明らかで、よほど鈍い女性以外はその差を実感することになる。経済的に困っている様子のない兼業風俗嬢が入職して「実は私……」とカミングアウトすると、白い目で見るどころか、「私もやりたい」という者が現れる。こうしてまた誰かが性風俗への一歩を踏みだすという連鎖となる。
 一対一での会話や肉体を使ったサービスが求められる等、共通項は多く、相手が高齢者全般から男性限定に変わるだけ。他業種よりも違和感なく性風俗に向かっていけるという面もある。性風俗店の男性客が求める「明るさ」「コミュニケーション能力の高さ」「気が利く」「優しさ」等々は介護職員に求められる適性と一致する。

 ワーキングプアを次々と生みだしている悲惨な状況でも、介護施設側は「介護は熱い想いを伝えられる素晴らしい仕事、夢がある」などと必死に訴えている。しかし、介護職は蓋をあければ豊かさの欠片もない貧困女性の巣窟というのが現状だ。
 高い志を持って介護の世界に足を踏み入れても経済的、精神的にすぐに追いつめられ、これからは外見スペックが高い女性は性風俗へ、低い女性はそのまま専業介護職員という流れが、一つの定番となるのではないだろうか。


 「夢や理想」を掲げて、厳しい労働環境や安い賃金から目を逸らせようとしているというのは、介護業界だけではありません。
 いわゆる「ブラック企業」の、典型的なやり方、なんですよね。
 ネットや口コミで、他の世界を知って、そこで働いている人たちは、考え込んでしまうのです。


 この仕事に、本当に将来性はあるのだろうか?
 自分は、やっている仕事に見合った対価を受け取っているのだろうか?
「夢や理想」で目隠しされて、搾取されているだけではないのか?


 同じような「一対一の会話や、肉体を使ってのサービス」ならば、「どんなに頑張っても対価が安く、今後上がっていく見込みも少ない」介護職よりも、「自分の努力が報酬に反映されやすく、高収入が得られる可能性もある」性風俗のほうが、まだ「やりがい」がある、と考える人がいるのは、わかるような気がします。


 この本を読んでいると、「風俗嬢という仕事のこと」だけではなく、「風俗嬢が魅力的な仕事であることを認めざるをえない、いまの日本の若者の労働環境」も見えてくるのです。


 著者が実際に取材した「風俗業界」のナマの声とさまざまなデータがバランス良く配され、「風俗嬢の現在」、そして、「夢や理想のもとに搾取され続けることに疲れた若者たちの、働くことへの意識の変化」を描いた好著です。