琥珀色の戯言

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【読書感想】戦略は「1杯のコーヒー」から学べ! ☆☆☆☆



Kindle版もあります。

内容紹介
・セブンカフェ、マック:100円コーヒーの本当の狙いは?
スターバックス:広告費を駆けない「ブランドスパークス
ドトール:低価格競争の裏にある戦略とは?
ネスレ:フリー(無料)なのになぜ儲かる?


コーヒー業界をみれば「最新ビジネス戦略」がすべてわかる!
最新ビジネス戦略がわかる10の物語


(本書のストーリー)
ブラック金融会社を逃げ出した新町さくら。とあるきっかけでコーヒー会社・ドリームコーヒーに入社するが、彼女がはじめて知ったコーヒー業界は「ビジネス戦略」の宝庫だった! 外資系のスタバ、異業種のセブン、マクドナルド、ドトールの価格競争、最大手ネスレイノベーションなど超強力ライバルを相手に、さくらとドリームコーヒーはどう生き残るのか!?


セブンイレブンの「セブンカフェ」は、大ヒット商品となっています。
僕もよく利用しているんですよね。
いや、そんなにコーヒーの味にこだわるほうではないのだけれども、レギュラーサイズなら100円と、缶コーヒーを自動販売機で買うより安いし。


最近のコンビニエンスストア業界をみていると、なんだか、この「1杯のコーヒーの評価が、そのコンビニチェーンの評価と直結している」ようにもみえるのです。
もちろんそれはあくまでも僕の視点でしかないのだけれども、「ひとり勝ち」しているセブンイレブンに対して、同じようにコーヒーのサービスを開始したものの、セブンイレブンの二番煎じで、かつ、味や機械のデザインも特徴がないファミリーマートや、店員さんがいれるおいしいコーヒーで差別化しようとしたものの、かえって敷居が高くなってしまったような気がするローソン。


この本、いきなり若い女性キャラが出てきて、試行錯誤しながら、さまざまな会社の事例に触れ、「コーヒー業界の戦略」を学んでいくというものなのですが、あまりにもわかりやすく書かれていて、「ライトノベル感」があったんですよね。
こんなにうまくいくはずないだろ、と。
どこかでこういう話を読んだことがあるような気がしたのですが、そうか、『100円のコーラを1000円で売る方法』の著者だったのか。


身も蓋もない話をしてしまえば、セブンイレブンドトールスターバックスマクドナルドなど、さまざまなチェーンの「成功談」をまとめて、一冊の本にしたものなのですが、たしかに読みやすいし、マーケティングの入門書として、よくできていると思います。

「コーヒーは国内飲料の実に7割以上を占めているし、消費も伸び続けている。コーヒーは大きな成長市場だ。コーヒーは主に家庭と外食店で消費されている。コーヒー産業では歴史上さまざまなイノベーションが生まれてきた。マーケティングや経営理論の宝庫でもある。さらに最近では別の業界からの参入も相次いでいる。国内企業だけでなく、取引もグローバルだ」


この本の最大の魅力は、いま、この時期に「1杯のコーヒー」をテーマにしたことなのです。
スターバックスの日本での浸透、マクドナルドの100円コーヒー、そして、セブンイレブンの『セブンカフェ』の大ヒット……
「家か喫茶店か缶コーヒー」だったものが、この30年くらいのあいだに、価格も、提供方法も多様化し、大手コンビニチェーンの命運を作用するような戦略商品となっていきました。
「セブンカフェ」なんて、考えてみれば、「単なるコーヒーの自動販売機」じゃないですか。
にもかかわらず、なぜこんなに話題になったのか。

「セブンカフェは、2013年1月に登場してからわずか1年で4.5億杯、500億円も販売した大ヒット商品だ。しかも、新たに女性客を取り込み、リピート率も55%。サンドイッチや菓子パンと一緒に買う人も2割いるから、売上の相乗効果が見込める。セブン―イレブンにとって、セブンカフェは単なるコーヒー商品ではないのだ」
「セブンに行くと、ついついお菓子をよけいに買っちゃうんですよね〜」
「これだけを見ると、セブンカフェは順風満帆で成功したように見えるかもしれない。だが、セブン―イレブンはすでに30年以上、店内でコーヒーを出すことにしつこく挑戦してきた。今回、5回目の挑戦でようやく念願がかなったのだ」
「え? 5回目? 30年以上前からやってたんですか?」
「そうだ。コーヒーブームに乗ってつい最近始めたわけではない」

これを読んで、「そういえば、コンビニのコーヒーって、ずっと前からあったような気がするなあ」と思いだしてきました。
セブンーイレブンにとって、今回の「セブンカフェ」は、「5回目の大きな挑戦」であることと、それまでの4回の事例が、この本のなかでは紹介されています。
これまでの試行錯誤があったからこそ、この5回目での成功につながったのです。
しかし、一度火がついたら、1年間に4.5億杯って、すごいですよね……


そして、コンビニで安くてそれなりの美味しさのコーヒーが飲めるにもかかわらず、スターバックスの賑わいには、あまり影響がないようにみえます。
どうしてあの値段のコーヒーが、生き延びていけるのか?

「今でこそ絶好調のスターバックスも、かつて『スタバらしさ』を見失い、経営危機に陥ったことがある」
「え? あのスタバが?」
「1971年に創業したスタバはずっと成長が続いていた。だが、2007年から2008年にかけて突然大きく利益が減った。既存店の売上も来店客数が減少して落ちた」


(中略)


「ほとんどの人は、この数字を見ると『合理化すべし』と考える。言い方をかえると、経営合理化という方法は、経営のことをほとんど知らない新町さんでもすぐに思いつくような、きわめて安直な手だとも言える」


(それってほめてるの? けなしているの?)


「しかし、2008年1月にスタバのCEOに復帰したハワード・シュルツは、そうは考えなかった。彼は『スタバらしさ』を失ったことが業績低迷の真の原因と考えた」


(スタバらしさを失った……)わくらはまだよくわからない。


「当時、スタバではスピーディにコーヒーを提供するため、挽いたコーヒーの粉を店に届けて保管する方式に切り替えたが、店で豆を挽かなくなった結果、挽き立てコーヒー独特の重厚で豊かな香りが店から消えてしまった。売上アップのためにチーズ入りサンドイッチを温めて出していたが、チーズの強い香りがコーヒーの香りを台無しにした。さらに、研修不十分なバリスタが客にコーヒーを淹れるようになって、はっきり味が落ちた。消費者レポートで、マクドナルドのコーヒーよりも低評価になったこともある」
 藤岡は説明を続けた。
「つまり、成長と効率性を追求するあまり、スタバの魅力が失われたのだ。半分引退して店舗を見て回ったシュルツは、そのことを肌で感じていた。だから、CEOに復帰して『原点回帰すべし』と考えた。本来のスタバらしさ、つまり、家庭でも職場でもない『第3の場所(サードプレイス)』としてのポジションを取り戻し、革新的な文化に戻ろうと考えたのだ」


業績が不振になると、まず「経営効率化」が叫ばれがちです。
それは「わかりやすい」けれど、効率化によって、その組織の魅力が失われてしまうこともある。
もし、このときスターバックスが安易な「経営効率化」にはしっていたら、今の隆盛はみられなかったかもしれません。


もちろん、「安さ」は魅力です。
でも、人は、コーヒーを味わうためだけに、コーヒーを飲みに行くわけではない。
セブンカフェだって、そんなにのんびりするわけにはいかないけれども、ちょっと車を停めて、休憩する理由にはなるものね。


この本を読むと、「安さ」「美味しさ」だけではなくて、「ある商品を選んで消費することによって、社会に貢献し、それが顧客の満足につながるような仕掛け」も試みられてきているのです。
人が、コーヒーに求めるものも、時代によって変わってきています。


「なぜ、こんなに多様なコーヒーチェーンが乱立して、それぞれ生き残っているのか?」
ふつうの人のそんな疑問に、過不足なく答えてくれる、なかなか興味深い本でした。

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