琥珀色の戯言

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【読書感想】神様の裏の顔 ☆☆☆


神様の裏の顔

神様の裏の顔


Kindle版もあります。

神様の裏の顔 (角川書店単行本)

神様の裏の顔 (角川書店単行本)

内容(「BOOK」データベースより)
神様のような清廉潔白な教師、坪井誠造が逝去した。その通夜は悲しみに包まれ、誰もが涙した―と思いきや、年齢も職業も多様な参列者たちが彼を思い返すうち、とんでもない犯罪者であった疑惑が持ち上がり…。聖職者か、それとも稀代の犯罪者か―驚愕のラストを誰かと共有したくなる、読後感強烈ミステリ!!第34回横溝正史ミステリ大賞受賞作。


 第34回横溝正史ミステリ大賞受賞作。
 著者は、お笑いコンビ「セーフティ番頭」として6年間活動。4年前に限界を感じ解散し、作家に転身し、この伝統のある賞を受賞した元お笑い芸人というのが、けっこう話題になっています。
 現在28歳。芸人としてのキャリアには、けっこう早いうちに見切りをつけてしまったのだなあ、と。
 元芸人で、放送作家として活躍している人はけっこういるので、芸人と「書く」という仕事とはけっこう近いとは思うのですが、この若さで、これだけの作品を書ききったのはすごい。

 
 ストーリーに関しては、「ありきたり」だと最初は思っていたのです。
 世間から「神様のような善人」だと思われていた人間について、他者がさまざまな視点から語っていくことで、その「本性」が暴かれていく、という展開。
 読んでいて、「しかしこれ、こんなに早く、あからさまに『伏線』を明かしまくっていてもいいのか?」と思っていたんですよ。
「こんなベタな展開で、最後までもつのか?」
「なぜこれで、『横溝正史ミステリ大賞』を?」
 というような黒い疑問に突き動かされて、読み続けてしまったようなものです。
 競馬でいえば、すごいペースで飛び出していった逃げ馬をみるような感じ、といえばいいのか。
 このペースだと、最後までもたないはず。でも、いまはこんなに後続と差が開いているし、もしかしたら、これ、このまま、逃げ切ってしまう、のか?
 まあ、結果的には、そういう逃げ馬は、最後の直線で後続に捕まって、ずるずると後退していくんですけどね。
 でも、バテるだろうと思っていても、毎回、「もしかしたら……」とドキドキしてしまうのです。


 この作品は、ゴール前でバテそうになったかと思ったら、ゴールを無視して明後日の方向へ逸走したように見えました。
 えっ、そっちに行っちゃうの?


 会話のリズムも良く、ストレスなく読めます。
 人物描写も、やや類型的で深みはありませんが、これは「そういう小説」ではないのでしょう。
 途中のプロセスもなかなか面白くて、『十二人の怒れる男』みたいだなあ、と。
(あるいは『十二人の優しい日本人』)

 
 ただ、最後の「どんでん返し」は……
 うーむ、ネタバレになってしまうので詳述は避けますが、こういう「最後に驚くような結末が!と言いたいためだけに強引に作られたようなどんでん返し」って、僕は嫌いです。
 あまりに御都合主義というか、そんな偶然は、さすがにありえないのでは、と言いたくなります。
 「やられた!」「騙された!」っていうよりは、「えっ?何その結末」と唖然としてしまう、置き去りにされた感。
 でもなあ、このくらい強引に「意外などんでん返し」とか「叙述トリック的なもの」が無いと、いまのミステリって、話題にならないのかもしれませんよね。
 うまくて堅実な人間ドラマを描けるベテラン作家は少なからずいるのだし。
 それに、「社会派」とか「警察という企業小説」みたいなのじゃない、「パズルゲームのようなミステリ」も、貴重だと思うんですよ。
 ただ、この作品は、パズルとしても成り立っていない感じはしますけど。


 読んで何か心に残るとか、そういうミステリではありませんが、読んでいるあいだは、とりあえず「どこに着地するのか」が気になってしょうがない、そんな作品です。
「人の思い込みの怖さ」みたいなものは、描かれており、「芸能界」という場所に足を踏み込んでいた著者の「人間観」も反映されているのかな、と僕は思いました。

 
 ミステリマニア向けではありませんが、「いまちょっと話題になっている元お笑い芸人の小説を、ちょっと読んでみたい」という人は、「おお、なかなかやるじゃん」というくらいの満足感を得られるのではないかな。

 
 しかし、「トンデモであっても、どんでん返しって、やっぱりあったほうが良い」のかねえ……

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