琥珀色の戯言

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【読書感想】ヒップな生活革命 ☆☆☆☆


ヒップな生活革命 (ideaink 〈アイデアインク〉)

ヒップな生活革命 (ideaink 〈アイデアインク〉)


Kindle版もあります。

ヒップな生活革命 ideaink 〈アイデアインク〉

ヒップな生活革命 ideaink 〈アイデアインク〉

内容紹介
アメリカから、変革の波が広がる。


アメリカ人の意識が、大きく変わり始めた。
抜群においしくなったコーヒー、「買うな」とうたう企業広告、地元生産を貫くブランド、再燃するレコード熱……
サブプライム金融危機を受け、新たなる「ヒップスター」たちが衣食住の各所で変革の波となり、大企業主導の社会の中で独立した場所を広げている。


私たちは無力ではない。
ニューヨークに住みアメリカ文化を追い続けてきたライターが、現地で進化する「生き方の革命」をレポートする。


「これからのアイデア」をコンパクトに提供するブックシリーズ第11弾。画期的なブックデザインはグルーヴィジョンズ


 著者は、この本の冒頭で、こう述べています。

 アメリカ人はバカだ。そう思っている人は少なくないかもしれません。マクドナルドを食べてぶくぶく太り、「アフリカという国は」といった知的レベルを疑うような発言をする大統領を選出し、自分の財力で払える以上の価格のマイホームを購入してサブプライム金融危機を引き起こし、世界経済を道づれにしたバカな人たちだ、と思っている人が。実は私自身も、長い間この国に暮らしながら、アメリカ人のメインストリームに対して、そして、アメリカ人に対して、似たような考えを持っていました。


 ファストフード大国、アメリカ。
 銃による悲惨な事故や犯罪がどんなに起こっても、ライフル協会が勢力を持ち続け、銃規制に反対する国、アメリカ。
 国民皆保険制度に対する「共産主義だ!」というプロパガンダに同調し、自分の首を絞めている人が大勢いる国、アメリカ。
 正直、僕自身も、そういうイメージを持っています。
 テクノロジーやアートの最先端で活躍する凄い人がたくさんいる一方で、「なんでそんなことを信じるんだ……」という人々が大勢いる、そんな国。
 富めるものはますます富み、貧しいものは、ひたすら搾取され続ける。


 アメリカは「格差社会」という印象が強く、「普通に暮らしている人々」が、あまり想像できないんですよね。あんなに多くの人が生きている国なのに。


 著者は、長年アメリカで生活してきて、「そういうアメリカ」が、近年、少しずつ変わってきていることを実感しています。
 サブプライム危機は、1930年代の世界大恐慌と比較されるくらい、アメリカの経済にダメージを与えましたが、そこで打ちのめされた廃墟のなかから、新しい潮流が生まれてきたのです。

 ところが、日常的に目に入ってくる悪いニュースにも慣れた頃、少しずつ何かが変わっていくのを肌で感じるようになりました。驚くほどおいしいコーヒーを出すインディペンデント系のカフェが増え、産地直送の新鮮な野菜がぐんと手に入りやすくなったのです。大量生産の仕組みの中で粗悪な商品を作るかわりに、古いものや廃材を直して使ったり、リメイクしたりする作り手が増え、手づくりのクラフト文化のつぼみが開花しているのに気がつきました。また、個人経営の本屋が、ギャラリーが、レコードショップが再び増え、文化に活気をもたらすようになっていました。
 一度は消えてなくなるかと思われた紙の媒体の世界でも、予算を自ら捻出した手づくり感あふれる新しい雑誌が増え、アーティストたちが作る「ZINE(ジン:自家出版の少部刊行物)」の文化が再び盛り上がりを見せるようになりました。無力感に打ちのめされるだけでなく、自分たちの手で何かを起こそうとする人たちによって、ファッションや食を含めたライフスタイルの分野で、またメディアの世界で、新しい動きが生まれていったのです。


 もちろん、これらの「変化」は、まだアメリカの中でも局地的なもので、「感度が高い人たち」が牽引しているものです。
 現在でも「主流」は、「大量生産、大量消費」であることは間違いありません。
 でも、潮目は、確実に変わりつつあります。
 

 この本を読んでいると、いわゆる「グローバル経済」の本丸であるアメリカで、現在起こっていることについて考えずにはいられません。
 グローバル企業は「世界のなかの人件費が安い地域で、商品を安く、大量に製造すること」によって、大量消費社会を支えてきました。
 それによって、アメリカ国内での製造業は「コスト競争」に敗れ、衰退していったのです。
 ところが、グローバル経済が進化するにつれて、「世界の工場」であった中国でも、労働者の地位が向上し、賃金も上がっていったのです。
 そうなると、商品の製造コストも上昇していきます。
 それに対して、グローバル企業は、もっとコストがかからない地域に進出していくわけですが、これを突き詰めていくと、どんどん、「世界は標準化していく」ことになります。
 

 今、遠い異国で安価に作られたモノよりも、少し割高でも近くで作られたモノを買おうという考え方が支持される背景には、自分の周りのコミュニティや地域経済を支えよう、すなわり自分が消費することで支える相手は、できるだけ近いほうがよいという考え方があります。そしてもうひとつ、サプライチェーンをなるべく短く、つまり商品が動く物理的距離を短くすることで、環境コストをなるべく減らそうという考え方もあるのです。

 ヒース(アメリカで国内生産を行っている新興時計ブランド「シャイノラ」のCEO)と話をしていて興味深いと思ったのは、彼が「アメリカ産のものをアピールすると、ときどきアメリカ国旗を振りかざすタイプの愛国主義者と勘違いされることがある」と言ったことです。たしかに、アメリカ国内で作られたものを応援することは、今から20年前だったら愛国主義者による排外主義的思想と受け取られたかもしれません。
 けれども今、自分になるべく近い場所で作られるものを応援することは、愛国主義とは別の場所に存在するひとつの価値観になっています。それは、自分のお金を自分が属するコミュニティの中で使うことに、プラスアルファの価値を求める考え方です。この思想が、「目の届くところで生産したい」という作り手の意図や、アメリカの歴史やルーツを懐古するマーケティングと合致して、現在ひとつの流れを形成しているのです。


 「地産地消」には、作っている人の顔が見えやすいというメリットがありますし、商品を作る場所と消費する場所の動線が短くなることによって、コストも削減されるのです。
 地元の商品を買おう、使おう、というのは、イデオロギーの問題だけではなくて、消費者にもメリットがあるのです。
 これから、世界が「均質化」していけばいくほど、「それなら、地元産で良いじゃないか」と考える人は、増えていくのではないかと思います。
 逆に、経済大国が世界中の労働力が安い地域につくってきた「生産拠点」が、これからどうなっていくのかという心配もあるのですけど。


 この本のなかで、「ニューヨークで農業が行われている」というのが紹介されており、僕は驚いてしまいました。
 土地がもったいない、と思うのだけれども、この本を読んでいくと、けっしてそれは「無謀なパフォーマンス」ではなく、利益を出せる仕組みになっているのです。
 

 「グローバリズム」の最先端を進んでいるアメリカには、もう、「その限界」が、見えているのかもしれませんね。


 著者は「新しいアメリカ人」のスペックの一部を、こんなふうに紹介しています。

 電話はiPhone、コンピュータは必ずMacで、テクノロジーの恩恵は享受しながらも、アウトドアやガーデニングが好きで、週末になると郊外のセカンドハウスやキャンプに出かけて、あえて原始的な環境に自分を置いたりするタイプ。外で音楽を聴くときもiPhoneで、家にはターンテーブルがある確率が高く、ハリウッド映画よりインディーズ映画を好みます。政治や社会への関心が強く、圧倒的にリベラル寄りで、同性婚マリファナの合法化を支持し、オバマ大統領が歴史的勝利をおさめた2008年の選挙のときには、仕事を休んでオバマ陣営に参加したような人もいるかもしれません。


 うーむ、率直に言うと、「なんか、鼻持ちならないサブカルクソ野郎」を目のあたりにしているような、居心地の悪さを感じてしまうんですよね。
 日本の「ヒップじゃないオッサン」としては。
 

 それでも、こういう変化が、アメリカでは起こりつつあるということは、知っておいて損はしないと思います。
 これまでの例でいえば、アメリカで起こったことの多くが、のちに、日本でも起こっているのですから。