琥珀色の戯言

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【読書感想】昆虫はすごい ☆☆☆☆


昆虫はすごい (光文社新書)

昆虫はすごい (光文社新書)


Kindle版もあります。

昆虫はすごい (光文社新書)

昆虫はすごい (光文社新書)

内容(「BOOK」データベースより)
私たち人間がやっている行動や、築いてきた社会・文明によって生じた物事は、ほとんど昆虫が先にやっている。狩猟採集、農業、牧畜、建築、そして戦争から奴隷制、共生まで、彼らはあらゆることを先取りしてきた。特に面白いのは繁殖行動。相手と出会うため、あの手この手を使い、贈り物、同性愛、貞操帯、子殺し、クローン増殖と何でもアリだ。どうしても下に見がちな私たちの思考を覆す、小さな生物のあっぱれな生き方を気鋭の研究者が大公開!


 昆虫は、お好きですか?
 僕も子供の頃は、虫取りとかやっていた記憶があるのですが、なぜか年齢とともに、昆虫が苦手になってしまって。
 6歳の息子が、素手でセミ捕りとしているのをみて、「よくやるなあ!」なんて感心してしまいます。
「パパも捕ってよ!」
 ……いや勘弁してくれ。
 子供の頃、あんなに大好きだったカブトムシやクワガタムシでさえ、「でければあまり触りたくない」感じなんんですよね。
 そういえば、僕の親も、昆虫は苦手だった記憶があります。
 一概に、「年をとったら、虫が苦手になる」とは限らないのかもしれないけれど。

 本書では、多様性のうえで繁栄をきわめる昆虫を対象として、それらの興味深い生活や行動について紹介したい。そのすごさ、すばらしさは、本書の紙数だけで十分に表現することは難しいが、その一端はご理解いただけるものと信じている。
 読者がおそらく一番驚くのは、ヒトが文化的な行動として行っていることや、文明によって生じた主要なことは、たいてい昆虫が先にやっているという事実であろう。本書ではそのような内容にとくに注目している。


 この新書、「アリやシロアリと共生する昆虫の多様性解明が専門」という著者が、自身の研究の成果を基盤に、さまざまな昆虫の生態を集め、わかりやすく紹介したものです。
 僕が子供の頃に読んだ『ファーブル昆虫記』や、昆虫好きだった頃に読んだエピソードなどを思い出すのですが、それと同時に、研究の深化によって、これまで僕が「知っているつもり」だった昆虫の生態にも、いろんな例外があるのだな、ということがわかりました。

 そして究極の贈り物は自分自身である。カマキリの雄は、交尾中に雌に食べられてしまうことがある。雄は上半身を食べられながらも、下半身だけはしっかり生きており、きちんと交尾を全うする。きっとそのような能力を持つ雄が遺伝子を残したのだろう。
 ただし、すべてのカマキリの雄が雌に食べられてしまうわけではなく、うまく雌と交尾して、さらに別の雌と交尾する要領のいい雄も少なくない。逆に、雌に近づく方法に失敗し、交尾を成し遂げる前に雌に食べられてしまう気の毒な雄もいる。

 アリはアブラムシの甘露を舐めとって自らの餌にするいっぽう、それら大事な「乳牛」を捕食者(クモやテントウムシハナアブというハエの幼虫)や寄生者(アブラムシに卵を産む小さなハチなど)から守るために保護を行う。
 アブラムシの体は非常にやわらかく、栄養のある液体の詰まった水風船のようなもので、さらにすばやく逃げることもできないことから、捕食性の生物に狙われやすく、襲われたらひとたまりもない。
 また、アブラムシが甘露を垂れ流すと、そこにススカビというカビが発生するので、アブラムシ自身も不潔な環境で生活しなければならないし、ススカビによって植物は病気になり、自分たちの餌の質まで落としてしまうことになる。
 これらの点で、アリとアブラムシの両者はいわば持ちつ持たれつの共生関係にあり、実際にアブラムシによっては、アリがいないとすぐに壊滅してしまう集団もある。
 しかし、こうした昆虫どうしの共生関係も、美しい友情物語のように一筋縄でくくるわけにはいかないようだ。アリがアブラムシに対して甘露をねだりすぎるあまり、アブラムシの成長が妨げられる事例も報告されている。さらに、アリはアブラムシが増えすぎると間引きして、それを餌にしてしまうこともある。
 あとで詳しく述べるが、共生という事象においても、利益と不利益が完全に平等に配分されるという状況にはなりがたいようだ。

 カマキリの雄は、交尾の際に雌に食べられてしまう、と僕はずっと思っており、そこに「カマキリの雄の自己犠牲の心」みたいなのを見出していたわけです。
 でも、これを読むと、「カマキリの雄だって、別に好きで交尾のときに食われているわけじゃないんだな」と、なんだかちょっと安心(?)しました。
 まあ、そりゃそうだよね、と。
 なかには要領のいい雄もいて、いろんな雌と交尾するケースがあり、交尾もできないまま、食べられ損になってしまうこともある。


 アリとアブラムシの「共生」についても、子供の頃から、なんとなく「美談」のようなイメージを抱いていたのですが、実際にはアリからの搾取がきつかったり、アブラムシが増えすぎたら、食べちゃったりするんですね。
 アリって、けっこうひどいヤツだなあ……まるで人間みたいだ……
(とか、すぐに「擬人化」してしまうことに、著者はところどころで釘をさしています)


 また、こんな話もありました。
 昆虫では、陰茎や膣も伸縮性のない外骨格からできており、雌での交尾器(膣)と雄の交尾器(陰茎)が、それぞれ錠と鍵の関係になっているそうなのです。

 一方、そのようなしっかりとして錠と鍵の関係があると、たとえば栄養状態がよくて大きくなってしまった雄成虫と、栄養状態が悪くて小さく成長した雌成虫が交尾できないという問題が生じる。つまり大きな鍵が小さな鍵穴に挿さらない可能性がある。
 その点、クワガタのなかまは、とくに雄成虫の大きさの個体変異が激しいが、それらにおける鍵と鍵穴の関係はどうなっているのだろうか。多数のノコギリクワガタで体のあちこちを計測した研究は、体のほかの部分の変異の大きさにくらべ、雄の陰茎の大きさの変異が小さいということがわかっている。
 つまり、小さな雄も普通の大きさの陰茎、大きな雄も普通の大きさの陰茎で、どちらの雄もほとんど同じように交尾ができるようになっているのである。ほかにも成虫の体の大きさに変異のある昆虫がいるが、それらではどうなっているのか、気になるところである。
 ちなみに、私たちはクワガタの小さな雄成虫をまだ「子供」で、その後も成長して大きくなると誤解していることがよくある。しかし、昆虫は成虫になったが最後、特別な例外を除いて、決して大きくはならない。


 ああ、本当に「うまくできている」ものなのだなあ、と。
 あと、クワガタの小さな成虫って、「もう大きくならない」のですね。

 そして病気を媒介する昆虫としてもっとも恐るべきものは、ハエ目カ科のカである。「カに刺された程度」という言葉があるように、カに刺されても、多くの場合は一過性の痒みしかないが、媒介する病気の威力には背筋の凍る物が多い。
 実は世界的に見て、野生動物によるヒトの死亡原因の第一位はカが媒介する感染症である。その数は殺人(第二位)よりもずっと多いという。

 著者は、その代表的なものとして、ハマダラカが媒介する「マラリア」を挙げています。
 日本でも感染者が多数出て問題となったデング熱も、名前だけ出てきます。
 これが書かれた時点では、まさかこんなにデング熱が日本で知られることになるとは、予想もつかなかったと思われます。


 こういう面白い話が、たくさんつまっている新書です。
 モノクロの小さな写真が多くて、何が写っているのかよくわからないものがあるのは残念なのですが(こういうのこそ、電子書籍でカラー写真にリンクされていたり、関連動画をすぐに観られたりすれば、すごく楽しいと思うのだけれども)、なんだか久々に「子供の頃の、昆虫マインド」を取り戻せたような気がしました。

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