琥珀色の戯言

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【読書感想】私の夫はマサイ戦士 ☆☆☆☆


私の夫はマサイ戦士 (新潮文庫)

私の夫はマサイ戦士 (新潮文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
添乗員として世界を飛び回っていた私は29歳のとき、ケニアの魅力に惹かれて移住した。でもその時は予想もしなかった。伝統的な暮らしを営む本物のマサイ戦士・ジャクソンと結婚することになるなんて…しかも私は第二夫人!結婚祝いは牛?家は女が建てるもの?戸惑いながら見つけた幸せとは―人生って不思議だけど、運命ってありがたい。文庫化にあたり新たに一章を追加。


世の中には、バイタリティに溢れた人って、いるものだなあ……
半ば感心し、半ばあきれつつ、僕はこの本を読みました。
「本物のマサイ戦士」と結婚?
しかも、「第二夫人」?
いやほんと、僕もいろんな人の話をきいているので、ちょっとやそっとの国際結婚では「ふーん」って感じなのですが、さすがにこれは「えっ?」と思い、この文庫本をレジに持っていきました。

 赤道直下のアフリカ東海岸に位置するケニア共和国。日本からは、乗り継ぎのいい飛行機に乗っても丸一日かかる遠い国で暮らし始めてから、早10年の月日が過ぎようとしています。
 この10年、実にいろいろなことがありました。恋もし、結婚もし、離婚もしました。そして現在、私はケニアの中でも伝統的な生活を営むマサイの戦士の第二夫人に迎えられ、首都ナイロビと、夫ジャクソン(推定30歳)の住むケニア西部の小さな村エナイボルクルムを行き来しながら、世界中を駆け回る添乗員の仕事を続けています。
 日本人としても、ケニア人としても、マサイの嫁としても、そんな非日常的な生活が日常になっているなんて、考えてみれば不思議な話です。ですが、それが私にとって一番自然なスタイルであるのは確かです。

 子供の頃から、目立ちたがりで好奇心旺盛だった著者は、短大卒業後に旅行会社の添乗員となりました。
 仕事に恋愛にと、とにかくバイタリティあふれる生活をおくっていたのですが、僕がこれを読みながら思い出していたのは、倉田真由美さんの『だめんず・うぉ〜か〜』だったんですよね。
 著者は世界各地で、「カッコいいけど、お金や女性にはだらしない男」と付き合っていくんですよね、仕事はバリバリこなしながら。

 さらに、ケニアを嫌いになった理由――それは公私ともにパートナーとなったピーターを巡るさまざまな出来事でした。
 マタトゥ(ケニアのナイロビ市内を走る乗り合いの小型バス)経営に乗り出した頃から、私とピーターは友だちの一線を越えた、深い仲になっていました。それは当然の成り行きだったと思います。共通の夢、マタトゥオーナーになろうと、苦労をともにし、喜びを分かち合ってきた関係上、いつの間にかお互い人生のパートナーとしても認め合う、離れられない存在になっていたのです。
 ところが、またしても私の男運のなさなのか、しばらくすると、ピーターの女性関係に振り回されるようになっていました。もともとピーターはマカンガとして人目を引く存在だっただけに、昔働いていたマタトゥのオーナーの娘をはじめ、若い女の子のおっかけがつくなど、彼に好意を寄せる女性は多く、女には不自由ない生活をしていたのだと思います。しかも、彼が興味を持つのは決まってお金のかかる女性ばかりなのです。
 昔付き合っていた女性にはめられ、レイプされたと訴えられ、彼女に買収された警察に連行されたことがありました。またある時は、妊娠させられたから堕胎するお金をくれと要求されたこともあります。示談金として慰謝料や保釈金を払わなければならないことが相次いで起こりました。
「ピーターの恋人は外国人だから、いくらでもお金があるはず」と、ちょっとしたことでも大問題にしてお金をせしめようとする人も、実際、多かったと思います。そんな彼女たちの魂胆も見え見えだけに、ピーターがすべて悪いとは思わなかったのですが、女性がらみのトラブルが多く発生したのは事実です。


 いやまあ、読んでいると、著者のワールドワイドな「だめんず」好きに、ちょっと呆れてしまうところもあるのですけどね……
 それ、「ケニアが悪い」というよりは、著者に男をみる目がないだけなのでは……
 こういうことを、率直に書いているというのが、この本の魅力でもあるのですが。


 私生活でいろいろあったものの、結局、ケニアのナイロビを基盤に添乗員としての仕事を続けていた著者は、マサイの伝統儀式「エウノト」を見に行って感銘を受け、そこで出会ったマサイ戦士・ジャクソンに見初められることになるのです。
 それにしても、伝統的なマサイの生活をしていたジャクソンさんが日本人女性に結婚を申し込んだのもすごいし、それを受け入れた著者のほうもすごい。なんという思い切りのよさ。
 読みながら、「これ、本当にうまくいくのかな……」なんて思ったのですが、ジャクソンさんはマサイの伝統を守りながらも、著者の仕事や人生観も否定せずに尊重しているんですよね。
 これだけお互いの習慣や常識が異なると、かえって、「相手を自分のやり方に染めてしまおう」なんて考えなくなるのかもしれません。


 それでもやはり、「妥協するのが難しい、文化の違い」みたいなものもあるんですけどね。
 著者はけっこう赤裸々に「マサイの性」についても書いていて、ちょっと驚いてしまいました。

 以前、ジャクソンから「子どもはまだできない?」と聞かれたことがあり、「ちゃんと然るべき時にしないと妊娠しないのよ。だから今度会うのは来週だけど、意味がない。再来週にしないと」
 と話すと、
「別に子どものためにだけするわけじゃないから、会うのは来週で構わないよ」
 と笑っていました。
 だったら、何のためにセックスをするのか。それは「身体が求めるから」だと言うのです。
 しかし、甘い雰囲気を作るわけでもない。身体も少しだけしか触ってくれない。すぐ挿入し終わってしまう。それだけだと、やはり私も欲が出てきます。もっと心も身体も愛し合えたらと思うのです。
 西洋人のように濃厚なセックスを楽しみたいわけではないのですが、少なくともお互いが満足できる時間にしたい。セックスは愛情を確認し合う行為のはずなのに、マサイにとってのセックスには、その要素がありません。そもそもスキンシップのないマサイの愛情表現からすれば、当然のことかも知れません。

 著者は、そこで諦めずに、ジャクソンさんを「啓蒙」しようともするのです。
 その方法のひとつが「アダルトビデオを見せる」こと。
 ジャクソンさんは、あまりの衝撃に、気分が悪くなってしまったそうなのですが……


 さまざまな文化の違いはあるのですが、たしかに、いまの日本に住む僕にも、マサイの人生観は、なんだかちょっとうらやましいと感じるところも、少なからずありました。

 印象的だったのは、千晶さんがベロニカに投げた問いでした。
「数あるマサイの文化の中でも、特に大切なものとは何ですか」
 それは伝統社会に生きる彼らの根幹にかかわる質問のようにも思えました。
「マサイにとって最も重要なのは年長者を敬うこと、モラルを持つこと、マサイの伝統文化を尊重すること、すべてのマサイの文化を実践することができなくても敬意を持つこと」
 ベロニカはそう教えてくれました。


 この本の文庫化に際して、新たに加えられた章には、ジャクソンさんが来日し、講演をしたときのエピソードが紹介されています。

 また、ある講演では、どんな質問にでも即答するジャクソンに関心が集まりました。
「ジャクソンはなぜ迷わないんですか。もしかしたら違うかもしれない、とは思わないんですか。私たちはいつも迷います」
 思えば、私との結婚も出会って二回目で決断しています。
「悪い結果は考えない。もし問題に直面したら、そのときに考えればいい。日本人は悪い結果のことしか考えないから前に進めないのでは?」
 これはマサイ特有の野生の直感なのでしょうか。
 そして今回、一番印象に残った質問とジャクソンの答えは、東京での最後の講演でした。
「何か一つ、日本から持って帰れるものがあるとしたら、何を持って帰りたいですか」
 ジャクソンはその質問にじっくり考えたのち、
「いつの季節も枯れることなく流れている、日本の川を持って帰りたいです」
 と、答えたのです。いかにも彼らしい答えでした。と同時に、大自然の中で生きているマサイですら羨む自然を日本は持っているんだということに気づかされました。日本の何が誇れるのか、日本人が何を守らなければならないのかを、ジャクソンは思い出させてくれる。そんな彼が誇らしくもありました。

「日本人は悪い結果のことしか考えないから前に進めないのでは?」
 行き当たりばったりはよくない、と僕などは考えがちです。
 それで、綿密に計画を立てている(つもりの)時間に次々に浮かんでくるのは、ネガティブな想像ばかり。
 たしかに、「問題に直面したら、そのときに考えたらいい」場合だって、多いはずなのに。
 先日、書店で『心配事の9割は起こらない』というタイトルの本を見かけました。
 まあ、実際はそんなものなんだよねえ、きっと。

 
 「自然」といえば、アフリカのサバンナのような「大自然」を思い浮かべてしまうのですが、「絶えることなく水が流れている川」のような「人間を助けてくれる自然」は、多くの日本人にとっては「そこにあるのが当然のもの」です。
 「マサイですら羨む自然」かあ……


 マサイ戦士と結婚したいという人だけでなく、マサイの文化や考え方に興味がある人にもおすすめです。
 文化や考え方って、あまりに違うからこそ、かえってお互いを尊重しやすい、そんな面もあるのかもしれませんね。

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