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【読書感想】あなたはなぜパズドラにハマったのか? ソーシャルゲームの作り手が明かす舞台裏 ☆☆☆☆


あなたはなぜパズドラにハマったのか? ソーシャルゲームの作り手が明かす舞台裏

あなたはなぜパズドラにハマったのか? ソーシャルゲームの作り手が明かす舞台裏


Kindle版もあります。

内容紹介
そうだったのか!! 目からウロコのソーシャルゲームの舞台裏。あなたも、思わず魔法石を買ってしまったことはありませんか?
携帯、スマホ向けソシャゲの開発を長年手がけてきたプロデューサーが、あんな話やこんな話まで、全部バラします。
知識ゼロでも読めるソーシャルゲーム開発・運営の裏話が満載。
「1%の課金者が売り上げの半分を支えるビジネス」「パズドラがもたらしたソシャゲ革命」「怪盗ロワイヤルとドラコレが気づかせたバブル」
「開発者なら誰でも知っているソシャゲの常識」「キャバ嬢とトラック運転手がハマる?」「1日のうち儲かる時間、1年のうち儲かる日」ほか。


 一時期ほど「社会問題」として語られることはなくなったソーシャルゲーム
 下火になった、というよりは、「一般的なものになった」と言ったほうが正しいようです。
 もちろん、かなりの金額を使っている人はいるようですが、子どもがとんでもない額を「ガチャ」で遣ってしまって……という話は、以前ほどは聞かなくなりました。
 運営側の「浄化」が奏効しているのか、あまりにもあたりまえの光景になってしまったため、メディアなどで採り上げられることがなくなってしまったのかは、わかりませんけど。


 この本は、ソーシャルゲームの黎明期から、実際にその開発・運営にあたってきたという著者が、その「裏側」を語ったものです。
 これまでの「ソーシャルゲーム論」というのは、「現代社会との関連の考察」とか、「ソーシャルゲームそのものの是非」を中心に語られたものが主流でした。
 社会にとって目新しく、そして「形のないデータに高額を遣う」ということが理解困難だった人が多かったため、「社会現象」として扱われていたのです。
 しかしながら、この本は、あくまでも「開発・運営側の視点」を貫いているんですよね。
 社会問題としてではなく、「ゲーム」として、「商品」としてのソーシャルゲームが語られており、新鮮な印象を受けました。
 そもそも、デジタルネイティブ世代(物心がついたときから、インターネットが存在していた世代)の若者たちは「データをお金で買う」ことに、そんなに抵抗無いでしょうし。


 これを読むと、「ソーシャルゲーム」と総称されるもののなかでも、さまざまな世代交代や、運営側の思惑の変化がみられていることがわかります。
 現在のソーシャルゲームの代名詞である『パズドラ(パズル&ドラゴンズ)』は、発売当初は、「鳴り物入り」というわけではなかったのです。

 2012年2月に『パズル&ドラゴンズ』のアイフォーン版が配信されました。
 すぐにアイフォーンアプリの売上ランキングで上位に入り、気が付けば1位に。
 その時、ランキング動向を見ていた僕やその他のゲーム開発者は、パズドラの人気がその後2年以上も続くなどとは思っていませんでした。
 当時の『パズドラ』は世間的にも知名度が低く、ひっそりとランキングトップになっていた印象でした。
 まさかその後『パズドラ』の運営元ガンホーの株価が100倍以上になるなんて…。


 2012年前半までは、スマホアプリの売上ランキングに載るアプリの多くは、有料の買い切りタイプでした。
 そんな時に始まった無料ソーシャルゲームパズル&ドラゴンズ』の長期政権。
 ソーシャルゲーム開発者からすれば、お金儲けのツボを押さえておらず、「何故これが1位を取るほど稼いでいるのだ」と不思議に思っていたクリエイターも多かったはず。僕もそうでした。


 『パズドラ』は、それまでのソーシャルゲームと比べると、明らかに「異物」だったのです。
 著者は、『パズドラ』の「違い」について、こう述べています。

・「それまでのソーシャルゲーム」は「課金させる仕掛けがあちこちにある」のに、『パズドラ』にはほとんどない。それどころか唯一の課金アイテムである「魔法石」を配りまくっている。


・「それまでのソーシャルゲーム」は「ゲームを有利に進めるためのコミュニケーションを取らせること」で、人と人とが繋がる環境を作り離脱させない仕組みがあったが、『パズドラ』には他人との直接的なコミュニケーションがない。


・「それまでのソーシャルゲーム」は「ただボタンを押すだけ」だったが、『パズドラ』はゲームとしても楽しむことが出来た。


 本の中では、それぞれの項目について詳しく説明されているのですが、『パズドラ』というのは、それまでの「ただボタンを押すだけ」のソーシャルゲームとは、異なるコンセプトでつくられていたのです。
 既存のソーシャルゲーム運営者たちにとっては、このゲームの特大ヒットは、衝撃的なものだったそうです。
 いままでの「常識」をことごとく覆すようなコンセプトでつくられているのですから、そりゃそうだろうな、と。
 ただし、著者は、『パズドラ』が受け入れられた背景には、それまでの「ボタンを押すだけのソーシャルゲーム」でのユーザーの体験の蓄積も大きかったのではないか、と考えているようです。
 ボタンを押すだけのソーシャルゲームは、それまで、テレビゲームに縁がなかった人たちを、ゲームの世界に引き込みました。
 ただ、彼らも次第に、「ボタンを押すだけのゲーム」に物足りなさを感じるようになってきた。
 ちょうどそこに登場したのが『パズドラ』だったのです。
 

 スマホ時代になって『パズドラ』に人がハマった理由の一つに、スマートフォンならではの操作性を重要視して作られたことが挙げられます。
 スマートフォンに適した遊ばせ方とは、「片手で遊べ、親指で画面をツルツルする」こと。
 十字キーとボタンがないスマートフォンでは、片手で持った時に自由に動かせるものは親指だけです。『パズドラ』はその状態で心地よく操作できることを考えて作られています。
 しかも連鎖の発生により、テンションを上げさせるゲーム性もあり、パズル部分だけでも面白いと思わせたことが画期的でした。
 この『パズドラ』のヒットをきっかけに「遊べるソーシャルゲーム」へと各社がシフトしていきました。

 ソーシャルゲームは、シンプルでなければ、ユーザーがついてこないと考えられてきました。
 でも、ユーザーだって、ゲームで遊んでいくうちに成長していきます。
 ただ、ボタンを押すだけのゲームでは、物足りないと感じる人が、増えてきました。
 これまでのテレビゲームの世界で起こってきたことが、ソーシャルゲームでも繰り返されてきた、とも言えるのです。
 ただ、そういう「遊べるゲーム」へのシフトというのは、開発費の高騰の原因にもなり、開発側としては、難しい面もあるようです。
 それでも、これだけソーシャルゲームが乱立していては、「差別化」しないと生き残れない。


 また、「課金」についての、こんな話も出てきます。

 課金しそうでしないユーザーを特定して、それまで「絶対無課金」と言っていたユーザー層に対して、セールを機に一回でもアイテムを買わせることを狙います。
 何故なら一度でも課金してしまうと、その後のソーシャルゲームにお金を払うハードルが、かなり下げられるから。
 人って一度お金を遣ってしまうと、「あと100円ぐらい、いいか」と何かあった時にまた課金してしまうものなのです。
 運営側が狙っているのは、そんな「課金の習慣化」。
 恋愛と一緒ですね。
 酔った勢いでチュウまで行ったらなし崩し、みたいな。
 ソーシャルゲームにハマりたくない人は、最初の課金は心してください。
 最初は遊びのつもりだったのに、ちょっと課金したのがきっかけで、その後もずぶずぶとハマってしまうかもしれませんよ。


 恋愛のたとえはさておき、著者は実際に課金しているユーザーたちのデータをみて、運営してきているわけですから、この話には説得力があります。
 考えてみれば、課金しまくっている「ソーシャルゲーム廃人」たちだって、最初は「1回くらい、100円くらいなら、まあいいか」と思っていたのだろうし。
「課金しないつもりなら、いくらセールで安くても、絶対にしない」
 そう決めておくべきなのでしょう。
 でも、無課金でゲームの世界を満喫するには、ものすごく時間が必要になるし、「課金してもらう側」も、さまざまな手練手管を使ってきます。
 絶対に課金しない、ということであれば、ソーシャルゲームそのものに接触しないのが、最良の方法なのかもしれません。


 著者によると、ソーシャルゲームのユーザーの年代分布は「10代、20代、30代、40代とほぼ同数」なのだそうです。
 世代毎の総売上が一番多いのは30代で、一番課金しないのは、カードが使えない10代。
 子どもの課金が問題になっていますが、実際にお金を使っているのは、僕くらいの大人たち、なんですね。
 飲みに行くのは時間もお金もかかるし、付き合いもめんどう。とくに趣味もない。
 短い時間で気分転換できるソーシャルゲームって、たしかに、「中年向け」なんだよなあ。


 この本を読んでいて、シンプルにみえるソーシャルゲームも、実は、すごく細かいところに気を配っているということに驚きました。

 ソーシャルゲームでいう「最初のデート」とは、「チュートリアル」と呼ばれる、登録後すぐに始まるゲームの遊び方を教える場面です。
 ガイド役のキャラが出てきて、「このボタンを押して闘って」、「このボタンを押してカードを合成して」…と猿でも出来るように一本道でゲームの進め方を指図しますが、このチュートリアルで「こいつ面倒くさいなあ」と思われると、すぐにそのゲームから離脱されてしまいます。
 だからチュートリアルは、長くても5分以内で終わるのが理想です。
 中には、チュートリアルの長さをユーザーのタイプに合わせて変更しているゲームもあり、「こいつはせっかちだな」という行動(ボタンを押しまくってすぐページを切り替えたり)をとったら、チュートリアルをすぐに終わらせるようにするゲームもあります。
 チュートリアルを7割のユーザーが突破すれば成功でしょう。ゲームによっては半分以上のユーザーがチュートリアルで離脱します。

 
 ソーシャルゲームの現場では、そこまで、ユーザーも「見られている」のです。
 ちなみに、一度そのゲームに登録してくれた人が、翌日も来てくれる確率は「半分くらいなら合格」なのだとか。
 最近は、ゲームの種類も豊富になっていますし、同じような内容のゲームをいくつも掛け持ちするのは、時間的にも困難。
 『パズドラ』のように、多くの人が高レベルになっているゲームに、最低レベルから参入するのも敷居が高い。
 ソーシャルゲーム業界は「当たれば大きい」だけに、一気に「レッドオーシャン」(競合相手が多い、厳しい市場)になってしまったのです。


 これからのソーシャルゲームは、どこへ行くのか?
 これは「ケータイ小説」のような、一時的な流行なのか、それとも、新たなゲーム文化として定着するのか?


 ソーシャルゲームのみならず、テレビゲーム一般に興味がある人にとっては、興味深い内容だと思います。




 

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