琥珀色の戯言

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【読書感想】警視庁科学捜査最前線 ☆☆☆☆


警視庁科学捜査最前線 (新潮新書)

警視庁科学捜査最前線 (新潮新書)


Kindle版もあります。

警視庁科学捜査最前線(新潮新書)

警視庁科学捜査最前線(新潮新書)

内容(「BOOK」データベースより)
最新ツールを武器に犯人を追い詰める。防犯カメラ、Nシステム、データ解析ソフト―警視庁の捜査は、科学の力で急激な進化を続けている。「犯罪ビッグデータ」とは何か?逆探知はどこまで可能か?最新防犯カメラの驚異の性能は?「パソコン遠隔操作ウイルス事件」「『黒子のバスケ』脅迫事件」等、最近のケースをもとに、一線で取材を続ける記者が舞台裏まで徹底解説。犯罪捜査の最前線が丸ごとわかる一冊!


 いま、警察の「捜査」は、どのようにして行われているのか?
 警察に関しては、「不祥事」や「未解決事件」のほうがクローズアップされがちではありますが、この新書では、防犯カメラやNシステム、そして、「犯罪ビッグデータ」など、捜査に使われている最先端のテクノロジーが紹介されています。


 2011年5月に起こった「立川6億円強奪事件」の解決に果たした「Nシステム」の役割を、著者はこのように紹介しています。

 Nシステムは日本警察が最も秘匿するシステムだ。
 皆さんも一度はご覧になったことがあるのではないだろうか。高速道路や幹線道路にかかった鉄骨。その上部にカメラが四台ほど並んで取り付けられていて、通過した車のナンバー、運転席、助手席の写真などを記録している。警察関係者によるとNシステムは犯人追跡などの犯罪捜査に利用されているという。あらかじめ登録された車両ナンバーがNシステムを通過した際に、瞬時に読み取り、警察庁の中央制御コンピュータに送信されて手配車両かどうか照合される仕組みだ。
 このNシステムの読み取った記録と手配車両のナンバー等が一致することを「Nヒット」と呼んでいる。例えばA地点でヒットした場所と時間、B地点でヒットした場所と時間をつなぎ合わせていくと、逃走経路の軌跡が浮かび上がるというわけである。
 浮上したのは無職の男と元暴力団組員の二人の実行犯だった。ベンツを運転していたのは、無職の男のほうだ。
 二人の「後足」の分析捜査で事件の関係者が更に判明していく。現金を奪った後、白いベンツは、現場から立川駅のはるか北に位置する新青梅街道に向かい迂回する形で中央自動車道の国立府中インターチェンジから東京方面に向かっていた。途中のNシステムの画像には運転役の男の姿がはっきりと捉えられていた。この時、元暴力団員が後部座席に乗っていることも確認された。車は東京都心、埼玉を抜け常磐自動車道に入る。
 そして、茨城県つくば市内の谷田部インターチェンジで降りる様子が、インター出口のカメラで捉えられていた。
茨城県内で白のベンツを探せ!」
 捜査一課長の若松は青木からの分析情報の報告を受けて下命した。捜査一課や機動捜査隊の特捜本部員らが茨城県に飛んだ。

 この新書を読むと、日本中に張り巡らされている「防犯カメラ」や「Nシステム」の凄さに驚くばかりです。
 僕が思っていた以上に、捜査は「ハイテク化」しているのだなあ、と。
 そして、「防犯カメラがあるところで、犯罪とかやっても、絶対すぐに捕まるだろうな」とも。


 街に防犯カメラがたくさんある、なんていうのは、なんだか「監視社会化」が進んできているようで、嫌な感じがしていたのですが、この新書で紹介されているデータや地域の人たちへのアンケート結果などをみていると、「防犯カメラが存在している(そして、その情報が公開されている)ことによって、地域の犯罪が減っている」のは事実で、住民たちも「監視されている不快感よりも、犯罪抑止効果への期待感・満足感」のほうが大きいのです。
 自宅内のようなプライベートな場所はともかく、公共の場所であれば、「治安のための監視カメラの役割」を評価している人のほうが、多いんですね。
 裏を返せば、それだけ「治安に不安を抱いている人が多い」ということでもありますが。
 ちなみに、防犯カメラというのは、暴力事件のような「衝動的な犯罪」にはあまり抑止効果がないそうです。


 また、『黒子のバスケ』脅迫事件では、こんなふうに捜査が行われていたとのこと。

 一連の事件では500通に及ぶ脅迫状が犯人から送りつけられていた。
 捜査本部では「犯人が送り先を事前にパソコンなどで検索している可能性がある」として脅迫状の送付先のおよそ70社からあわせて43億5000万件にのぼるIPアドレス)インターネット上の住所)のアクセス履歴の提供を受けていた。
 インターネットのサイトを閲覧した場合、パソコンが使われた地域、インターネットプロバイダーの契約者情報を含む12桁のIPアドレスが、ある一定期間保存される。これが手がかりになると考えた捜査本部のSSBC技術支援係では、「膨大な履歴を高速で検索・分析」できるソフトを民間会社の協力を得て活用。2013年12月上旬になり、ついにIPアドレスの「共通項」が浮かんだ。
大阪市内のネットカフェのパソコンから事件関係先が検索されている」
 イベント会場の運営会社まで同じパソコンからアクセスされた形跡も見つかっていた。捜査本部は大量の捜査員を大阪市周辺に派遣。アクセスされたネットカフェ周辺の防犯カメラ画像の回収・解析も同時に進めた。
「こいつだ!」
 捜査員は思わず声を上げた。アクセスしていた時間帯に店に出入りし、アクセスしたパソコンを特定。会員証の名前や住所は実在しないものだったが、店や周辺の防犯カメラは30代くらいの男を捉えていた。肩には黒地に白い線が二本入ったリュックサックをかけている。男が高速バスのサイトを利用していることも判明していた。

 警察が本気を出せば、ここまでのことができてしまうのです。
 犯人もかなり用心深く立ち回っていたようですが、それでも、必要であれば、43億5000万件ものIPアドレスを分析し、検索の内容から犯人を追い詰めていった、警察の底力。
 実際のところ、警察のマンパワーにも限りがあるでしょうから、現時点では軽微なネット犯罪に対してここまでやることはないのでしょうけど、こういうシステムがどんどん効率化され、多くの例に運用されてくる可能性は高いはず。
 「ネットでのやりとりは相手の顔が見えない」けれど、こういう「確実な証拠」が残ってしまう面もあるのです。
 それにしても、この『黒子のバスケ脅迫事件』での警察の執念はすごい。
 犯人が身柄を確保されたとき、「ごめんなさい。負けました」と話したというのも、わかるような気がします。
 最近話題になった「YouTube万引き男」は「無能警察」なんて連呼していましたが、彼の身柄確保に時間がかかったのは、警察が「無能」だったからというよりは、「小物に本気を出していなかっただけ」ではないかと思われます。

 私たちが街で眼にする防犯カメラの設置台数は年々増え続けている。国土交通省によると、全国の駅構内に設置されている防犯カメラの設置台数は約7万台に上るという。

 しかし、これほどまでの「防犯カメラ大国」になっても、犯罪検挙率は100%、というわけにはいかないのも事実です。
 この新書のなかでは、近所付き合いが少なくなり、近隣住民からの「聞き込み」で情報を得ることが難しくなっている、という捜査員の嘆きも紹介されています。
 ハイテク化、ビッグデータ化というのは、「人から情報を得ることが難しくなった時代の象徴」でもあるのです。


 この本を読んでいると、自分が悪いことをしようと思っているのでないかぎり、「監視社会」もある程度は受け入れたほうがメリットが大きいのかもしれない、という気がしてくるんですよね。
 というか、もうすでに、僕の周りも「監視カメラだらけ」になってしまっているのだよなあ。
 とりあえず、「悪いことをするのはやめておいたほうがいいな」と、あらためて思い知らされる新書です。

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