琥珀色の戯言

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【読書感想】地球上の全人類と全アリンコの重さは同じらしい。 ☆☆☆


地球上の全人類と全アリンコの重さは同じらしい。

地球上の全人類と全アリンコの重さは同じらしい。

内容紹介
さまざまな場所でいろんなコトをしてアレコレと考えをめぐらせていくと、思いもよらない真実が見えてきたりすることもあるのです。人間とアリの本質的な違いとは何か? 地球の水はどうなってしまうのか? 中古車になぜ風船が飾られるのか? 真実はいかに!?


 椎名誠さんのエッセイ集。
 『SFマガジン』に隔月連載されていた「椎名誠ニュートラルコーナー」というコラムをまとめたものだそうです。
 「あとがき」で、椎名さんは「コラムタイトルそのまんま、ニュートラル・ギアでその時期、気になっていたり、考えてもしょうがないことを無意味にずっと考えていたことなどを書いたもの」だと仰っていますが、たしかに、そんな感じです。
 だからつまらない、というわけじゃなくて、世界中をめぐってきた椎名さんが紹介している「どこまで本当なんだ、これ?」というようなエピソードの数々は、なかなか興味深いものが多いんですよね。

 アフリカのサバンナで見た「ライオンゴロシ」はその名のとおりライオンに恐ろしい寄生をし、シメゴロシの木よりも戦略的かつ残酷だ。これは10センチほどの植物で、全体が釣りで使うギャング針に似ている。あちこちに硬い木質の逆刺(かえり)のはえている「腕」を10〜12本ほど悪魔のように広げていて、その中に沢山の種子がある。ライオンがこれを踏むと確実に付着する。強烈なのはこれが動く刺激によってどんどん付着した足などに食い込み締めつけていくことで、ライオンはこれを取ろうともがく、噛みついて歯で取りのぞこうとすると今度はその口に付着する。逆刺は足よりも柔らかい口にさらに深く刺さっていく。こうしてライオンの移動とともに種子はあちこちにばらまかれる。けれど本体はライオンの口からはずれず、ライオンがその口で食物を噛むともう絶対に抜けない悪辣な付着物になり、やがてライオンの口は化膿し、食物などとうてい食える状態ではなくなり、結果的に衰弱して死ぬ。その屍にハゲタカやハイエナがたかってくると今度はそれにとりついてさらに種子をまく旅に出るのである。

 こんな植物が実在するのか?と思わず検索してしまいました。
 確かにいるのです、ライオンゴロシ。


参考リンク:史上最強の植物「ライオン殺し」- NAVARまとめ


 こういうのを知ると、ライオンだって無敵じゃないというか、ライオンやってるのもラクじゃないんだな、と考え込まずにはいられません。

 一番鍛えられたのはパタゴニアとモンゴルだが、それがあったからパンタナールではアメリカのカウボーイそのものの旅を経験することができた。
 十人のピオン(ブラジルのカウボーイの呼び名)のチームに加わって野営しながら四百頭の牛を移動させた。やってみるとこれは重労働だった。ぼくは当初、テレビなどで見るように夜は焚き火を囲んでフライパンで豆など煎って、それを齧りながら誰かのギターの弾き語りなど聞きつつウイスキーのストレートを飲んで星空を眺めたりするのだろう、と思っていたのだが、それは映画やテレビドラマのなかの話であって、現実にはそんなゆったりした休息の夜はただの一夜もなかった。
 四百頭の、隙を見せればたちまち逃げてしまいそうな牛たちを、間違いなく事故なく逃亡牛(?)も出さず(牛を逃がすと全体責任で全員で一頭分の金を払う)目的地まで移動させる、ということは、体力と注意力と危険などがいっぱい隣りあわせになった、いわゆる三K労働のもっと過酷な状態なのだった。
 一日中、朝8時から夕方5時まで馬に乗って走ったりぐるぐる回ったり、笞で脅したりしながら移動していくから、夕方、その日の目的地に着くと、全身が完全にヨレヨレ化している。まず、一日中馬に乗っていると足はしっかりガニマタ化しており、すぐには普通に歩けない。馬そのものも大変な労働を強いられるけれど、その上に乗っている人間も全身の筋肉を使うのである。馬を乗り回して毎日続けて働く、というコトは、乗馬クラブの二時間ぐらいのゆったりのんびりの外乗(がいじょう、と呼ぶ)とはまるっきりレベルが違う。

 こういう「実際にやってみた人の話」というのは、やっぱり重みがありますよね。
 当たり前のようにみている「カウボーイの生活」も、実際はもっと過酷だった、ということなのでしょう。
 たしかに、四百頭の牛を脱落させずに移動させるって、考えてみたらすごいことですよね。
 牛はそこまで調教されているわけじゃないだろうし。
 椎名さんの「実際にやってみた話」というのは、すごく貴重でもあり、よくやるなあ、というものもあり。

 中古車を沢山ならべて売っている「中古自動車屋」の風景はかなりニギヤカな、いやケバケバしいのが多い。どこも競い合うようにして、アレハなんというのか、派手な色をしたモールみたいなものでそのクルマを逆U字型に囲み、あちこちに色とりどりの風船をくっつけて風にふらふらさせている。目玉商品ほどこういうマンガ的飾りつけが派手になるようだ。
 あれはいったい世の中に何をつたえよとしているのだろうか。そういうものでキンキラに飾りたて「どうです、きれいでしょう。凄いでしょう」と言っているのだろうか。
 沢山の風船が飾りつけられていると買うほうも風船の数が多いのでついそっちを選んでしまう、そいうことになるのだろうか。んな馬鹿な。と普通の大人は思うはずである。ひとことで言うと「幼稚」の世界。

 たしかに、あれを見て買う気になるのだろうか?と思うような「宣伝」ってあります。
 僕は「新規オープンなどの際に、アルバイトの店員らしき人が、店の前でずっと旗を振っている店」が、すごく気になるんですよ。見ていると「この旗振り役の人、きついだろうな……」と心配になってくるし、「こんなふうに待ち構えられていると、入りづらいな……」とも思うのです。
 むしろ、「絶対にここに入るのはやめよう」と。
 でも、この中古車の飾りつけも、疲労困憊しながら旗を振っている人がいる店も、昔からずっと同じように続いているので、統計的にみて、なんらかの「効果」が証明されているのだろうか……
 あの「アルバイトの酷使」をみて、「ここに入ろう!」って思う人もいるのかな。
 

 こういう「椎名節」を読むと、なんだかちょっと嬉しくなります。
 なんというか、「安定の椎名誠のエッセイ」以外の何物でもないのですけど、こういう「安心して読めて、ところどころで『そうそう』と頷けるエッセイ」って、案外少ないんですよね。
 僕にとっては、椎名さんの文章を30年くらい読み続けているから、というのはあるのだとしても。

 

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