琥珀色の戯言

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【読書感想】脱法ドラッグの罠 ☆☆☆


内容(「BOOK」データベースより)
二〇一四年七月、厚生労働省と警察庁により「危険ドラッグ」と名称を改められた脱法ドラッグ。街で容易に入手でき、事件・事故が相次いでいるが、法規制をくぐりぬけ、十数回モデルチェンジを繰り返し進化した脱法ハーブは、覚せい剤よりも危険だとされている。このドラッグが若者中心に中高年まで関心を惹きつけている主な理由の一つは、セックスでの快楽。問題を理解する鍵は、「脱法」という言葉にある。本書では、関連業者に取材を重ね、製造工場にまで潜入。初めて脱法ドラッグ問題の全貌を明らかにした、緊急書き下ろし出版。


 「脱法ドラッグ」とは、どんなものなのか?
 こういう「法に触れそうな(あるいは触れている)危険なクスリ」って、「興味や縁がある人は、ドップリと漬かっている一方で、大部分の人はまったくその実態を知らない」というのが現実だと思います。
 僕は後者側から、「やりたい人が勝手にやって破滅していくのは、社会としては望ましいこととは思えないけれど、自分がそこに積極的に介入していきたいという気分にはなれないな、怖いし」という目線で、この脱法ドラッグをみてきました。
 しかしながら、このようなドラッグを使用した人が車を運転し、子供を含む、多数の死傷者が出るような事故が起こっているのをみると、「自分の子供が、そんなドラッグ野郎に轢かれるようなことはあってはならない」と思いますし、そのためには、もっときちんと規制してもらいたい、と考えるようになりました。

 
 ちなみに、2015年2月の時点では「危険ドラッグ」という呼び方が一般的なのですが、著者はこの薬物の問題点を浮き彫りにするために、あえて「脱法ドラッグ」という言葉を用いています。

 私が本格的に脱法ハーブについて取材を始めたのは、2011年、ちょうど東日本大震災の直前あたりだった。その頃、脱法ハーブは「合法ハーブ」と称され、繁華街の雑貨店や通信販売などで購入できるようになりつつあり、大麻愛好者の間で密かに話題になっていた。

 そもそも、もともと「安全」であることが前提であるものに対して、「合法○○」なんていう名前がつくわけがないんですよね。
 「合法ラーメン」とか、「合法自転車」とかいうのは存在しない。
 逆に「合法」であれば、自分自身の健康や、ドラッグの影響で周囲に迷惑や危険を及ぼす可能性のあるものでも、「使っていい」のか?
 著者は、その境界について、この新書のなかで考え続けています。
 いまの世の中って、「でも、違法じゃないだろ?」と、危険なこと、他人に良くない影響を与えることが容認されたり、その「違法でないギリギリのところ」を突くことが賞賛されたりしがちになっていると、僕も思うのです。
 

 著者は、ハーブを売っている店で取材をしたり、製造工場に入ったりもしています。
 こういう取材って、けっこう怖いだろうな、と思いつつ、ちょっとドキドキしながら読みました。
 ただ、「脱法ハーブ工場」が、そんなにおどろおどろしいところではなく、家内制手工業の、小さな工場、みたいなところだったのは、意外だったんですけどね。
 働いている人たちも、「仕事」として、淡々と「脱法ハーブ」をつくっているようでした。
「悪いものをつくっている」という後ろめたさみたいなものはそんなになくて、「使う人の責任だから」と、丸投げしてしまっているような感じです。
 もしかしたら、もっとイリーガル感満載の工場も、あるのかもしれませんけど。


 僕は「もっとどんどん法で規制して、『脱法ドラッグ』を根絶してほしい」と思っていました。
 ところが、これを読んでいると、「ある成分を規制して違法にすればいい」というものでも無いようです。

 既に述べたように、脱法ハーブはヨーロッパで「偽大麻」「合法大麻」と呼ばれ流通した新種のドラッグから派生したものだといえる。偽大麻とはそのまま「大麻マリファナ)の偽物」という意味だが、厳密に言えば、大麻に含まれる自然の陶酔成分を模倣し、科学的な合成により作り出された「大麻みたいなもの」を指す。
 この大麻に含まれるような陶酔成分こそが、脱法ハーブの主成分だが、なぜこのような成分が生み出されたかといえば、正当な理由がある。
 日本では栽培や所持が厳しく規制されている大麻であるが、諸外国では少し事情が違っている。「医療大麻」という存在は日本人にとって馴染み深いものではないが、アメリカやヨーロッパ、南米などの地域では医療目的の大麻使用は合法か、もしくは非犯罪化が進んでおり、その研究も盛んである。

 ここで、私が以前取材した脱法ハーブ販売店の言葉を思い出したい。新宿・歌舞伎町で脱法ハーブを販売していた彼は、私に脱法ハーブはやはり危ないものだと漏らした。最初は大麻の代用品として気軽に楽しんでいた脱法ハーブが、その後得体の知れない物へと変化していく過程を見て、彼は恐ろしくなったのだった。
 規制されれば自ずと消えていくと思われた脱法ハーブは、なぜか規制後も堂々と販売され続けた。「いたちごっこ」の状態に陥っていたからであるが、その規制後にも販売され続けている脱法ハーブは、それまで売られていた脱法ハーブとは全くの別物だった。
 規制される度に化学構造が少しずつ組み換えられ、元々は医療目的用の「合成カンナビノイド」であったはずの脱法ハーブは、どんどん訳のわからないものになっていく。包括指定のような大きな規制のタイミングでは、その化学構造は大きく手を加えられてほとんど別物になるか、全く別の化学物質が代用される。さらに変化を遂げた脱法ハーブの成分が何なのか、製薬会社も製造業者も販売店も、末端で使用する人間も誰もわからない。摂取によりどんな副作用が出るかもわからないから、脱法ハーブの吸引で体調を崩し、病院に担ぎ込まれた患者がいても、医師すら適切な対処法がわからない。

 規制すればするほど、その網の目をくぐるように成分が「改変」され、初期の「大麻のようなもの」から、かけ離れていってしまうのです。
 そして、同じ「脱法ハーブ」でも、別の化学物質になってしまえば、効果も違うし、中毒になった場合の対処法も違ってきます。
 極論すれば「大麻」であれば、長年使われてきたものであり、その効果や何かあったときの処置についても、ノウハウがある程度確率されています。
 ところが、まったく別の科学物質となると、使用者の身体に致命的な副作用をもたらす副作用や、異常行動などが起こってくる可能性が大きくなるのです。
 そもそも、「治験を行って安全性を確認している」わけでもないのだから。
 規制すればするほど、タチが悪いものになっていくのだけれど、だからといって、堂々と許可するわけにもいかない。
 これはもう、ジレンマだとしか言いようがありません。
 医療の現場では、癌の痛みなどに対して、「麻薬」が必要不可欠なのも事実です。

 ちなみに、神奈川県警のHPには、危険ドラッグ乱用者の事件・事故が色々とあげられている。

 上半身裸の男が小学校に乱入して小学生を追い掛け回した/3階の自分の部屋から飛び降りて、下半身裸になり付近の塀やフェンスを壊し、自分がした大便を食べた/親から身体に異物を入れられたと思い、包丁で自分の腹を切り腸を引っ張り出した後、裸で街中を走り回った……。

 にわかに信じられないかもしれないが、こんな恐ろしい事が私たちの住む国で現実に起きているのである。

 恐ろしい、というか、「もし自分がそんなになってしまったら、その後生きていくのがつらいだろうな……」と考えずにはいられません。
 

 脱法ドラッグの怖さを、あらためて認識させられる新書でした。
 しかしながら、「これを撲滅するには、どうすればいいか」というのは、難しい。
 脱法ドラッグをやるような人の大部分は、こういう新書は読まないだろうし……

 

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