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琥珀色の戯言

【読書感想】【映画感想】のブログです。2016年8月より、『はてなブログ』に移行しました。

【読書感想】幕が上がる ☆☆☆☆


幕が上がる (講談社文庫)

幕が上がる (講談社文庫)


Kindle版もあります。

幕が上がる (講談社文庫)

幕が上がる (講談社文庫)

内容紹介映画化決定! 主演ももクロ・監督本広克行
2015年2月28日全国公開!


小っちゃいな、目標。行こうよ、全国!
すべてはその一言から始まった。高校演劇は負けたら終わり。
男子よりも、勉強よりも大切な日々が幕を開ける。


「もっと言いたい。死ぬほど稽古したい。」
「どこまでも行けるから、だから私たちは不安なんだ。」
「夢だけど、夢じゃなかった!」
「カンパネルラ! また、いつか、どこかで!」


地方の高校演劇部を舞台に、少女たちの一途な思いがぶつかり、交差し、きらめく。
劇作家・平田オリザが放つ初めての小説は、誰もが待っていた最高の文化系青春ストーリー!


 「ももクロ」こと、「ももいろクローバーZ」のメンバーが主演するということで、最近テレビのバラエティー番組で、この小説を映画化したものが宣伝されまくっています。
 僕は「モノノフ」(ももクロのファンのことを、こう呼ぶそうです)ではないのですが、この小説を書いた平田オリザさんの新書『わかりあえないことから──コミュニケーション能力とは何か』には、すごく感銘を受けたんですよね。
 で、その平田さんが、どんな小説を書いたのか、気になりつつも、「高校演劇の世界か……それはちょっと、僕にとっては守備範囲外だな……」と手にとっていなかったのです。
 でも、せっかく映画化され、Kindle化もされたことだし、と読んでみました。


 うん、これは良い、というか、あの平田オリザさんが書かれたものであれば、セリフとかもちょっと異質な感じの小説なのかな、と思っていたのに、ド直球の青春演劇部ドラマだったことに驚きました。
 こういう文化系高校生の作品、どこかで読んだことがあったんだけれどなあ……『船に乗れ!』もこんな感じだったような……
 部長であり、シナリオ・演出を手がけている高橋さおりの視点から、あるきっかけで一念発起し、全国大会をめざすことになった「これまでパッとしなかった演劇部」の1年間を描いた作品なのですが、ほんと、アツいんですよこれ。
 僕自身は、人前で積極的に何かをやろうとか思ったことのない人間なので、なんであえて「演劇」とかを部活としてやろうと思うのだろう?よっぽど目立ちたがりやの集団なんじゃないの?とか考えていたのですが、これを読んでいると、「もし自分がいま高校生だったら、演劇、ちょっと、やってみたいと思ったかもしれない……」と。
 ドロドロした人間ドラマじゃなくて、恋愛絡みの話もほとんどみられず、「人はなぜ演劇という『なくても困らないもの』に惹き付けられてしまうのか?」が丁寧に描かれている小説、なのです。
 演じるというのは、天性の才能とか、情熱みたいなものが重要だと思われがちだけれど、そこにはロジックがあり、演出家と役者、そして観客との駆け引きがある。


 ところどころに、さりげなく「演出家・平田オリザの視点」みたいなのが見えるのも、興味深いのです。

 高校演劇で、やたらと老け役のうまい女の子とか、男の子役を演じるのがうまい子とかがいる。でも、ちょっと考えれば分かることだけれど、そんな目先の器用さは、プロではちっとも通用しない。プロでは、宝塚でもない限り、男の役や男の人がやればいいし、おばあさんの役はおばあさんの俳優さんがやればいい。「若いのにおばあさんの役がうまい」といったからって、誰も褒めてはくれない。

 こういうのって、「言われてみれば、そうだよなあ」という話なのですが、素人目には、「老け役がうまい子ども」って、「演技の才能があるのでは!」とか、思ってしまうのだよなあ。

 吉岡先生はよく、「リアルとフィクションの境目」と言う。それを曖昧にして、観客に、本当だか嘘だか分からなくする。全部を本当のことだけで構成しても、それでリアルになるとは限らない。

 この小説を読んで、「年に1回の大会に賭ける」高校演劇のシステムは理解できたのだけれど、率直なところ、平田さんが女子高生の内心にどのくらい近づけているのか、というのは、僕にはわからない。
 ある意味、「演劇以外のところは、削ぎ落としてしまいすぎている」のかもしれない。
 ただ、高校演劇っていうのは、こんなにアツい世界なんだなあ、ということだけは、すごく伝わってきます。
 むしろ、映画版では、この高校生たちを、そんなに年齢が違わない「ももクロ」のメンバーが演じることによって、小説よりも、「内面的なリアリティ」が付加されるのかもしれないな、とも思うのです。
 原作を読んで、映画も、ちょっと観てみたくなりました。


 あまりにキレイにまとまりすぎている感はありつつも、ラストまで一気読み。
 こういう「瑞々しさ」みたいなものに、たまには触れてみるのも良いんじゃないかな。


 子どもが生まれてから、ずっと行ってなかったのだけれど、久々に、舞台も観に行きたいなあ。