琥珀色の戯言

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【読書感想】なぜ関西のローカル大学「近大」が、志願者数日本一になったのか ☆☆☆☆


なぜ関西のローカル大学「近大」が、志願者数日本一になったのか

なぜ関西のローカル大学「近大」が、志願者数日本一になったのか


Kindle版もあります。

【内容】
堀江貴文さん推薦! !
「大学なんて東大以外に行く意味ない。でもこの本を読んだら、近大はあってもいいかもしれないと思うだろう」


「世界初のマグロの完全養殖」と「志願者数日本一」という二つの快挙を成し遂げた裏側には、周到な準備と徹底した改革があった――ビジネスのヒントがたくさん詰まった著者渾身のノンフィクション!


 「近大」って、そんなことになっていたのか……
 「近大」といえば、附属の高校が甲子園にけっこう出ているな、とか、「近大マグロ」食べたいなあ、というくらいの知識しかなかった僕は、この本のタイトルを書店でみかけて驚きました。
 えっ、志願者数日本一って、「近大(近畿大学)なの?」

 ではあなたは、近大についてどれほどの情報を持っているだろう。
 大学入学試験の志願者数で、近大が「全国1位」になったことをご存知だろうか。
 教育界では、全国の大学の人気や経営状態を表す一つの指標をして、入学試験の志願者数に着目している。2014年度に実施された私立大学の一般入試では、近大に集った志願者数が10万5890人に達したという。この数字によって、近大は「全国1位」に躍り出た。
 近大が、前年まで4年連続1位だった明治大学より志願者数を378名多く集め、トップの座を獲得したのだ。1位ということは、早稲田、慶應上智同志社といった有名私立大学よりも志願者数の多い、人気ナンバーワンの大学になった、ということだ。
 その事実を聞いて、あなたは素直にうなづけるだろうか。
 それとも、唐突な印象を受けるだろうか。
 このニュースは教育関係者を驚かせ、全国を駆けめぐった。
 はたして、近大の志願者数はなぜ日本一になったのだろうか?


 この本のなかでも、関係者が、「ネットでは『マグロ大学』なんて揶揄されています」と自嘲ぎみに語っている近大なのですが、全国の大学のなかでの存在感が、こんなに大きくなっているというのを、僕ははじめて知りました。
 最近は、早稲田大学よりも明治の人気が高い、なんて話は聞いたことがあったのですが、なぜ、「近大」?
 大学や高校の関係者や大学受験生、受験生の親にとっては「常識」なのかもしれないけれど、そのいずれにもあてはまらない僕にとっては、「近大」って、「そこそこの偏差値の人が行く、そこそこの大学」だというくらいのイメージだったんですよ。


 著者は、関係者への綿密な取材から、その「秘密」を解き明かしていきます。
 なぜ、「そんなに偏差値が高いわけでもない、『マグロ大学』が、こんなに人気になったのか?」


 まず、近畿大学は、学生を集めるための「企業努力」を惜しまなかった、ということが挙げられます。
 ネット「だけ」による出願を取り入れたことにより(しかもそれを「環境に配慮して」とアピールしたことにより)、受験者数を伸ばしてもいます。
 ネット出願は、学生にとっては書類の不備を出願時にチェックしてもらえるというメリットがあり、大学側にとっては確認作業のコストの負担にもなったそうです。

「女子トイレ」の前にさしかかった。
「ご覧になりますか」と青いTシャツの在学生が声をかけてくれた。
「そうですね」とうなずいて中に入った。
 瞬間、立ち止まった。
 そして、驚いた。
 美しく磨かれた鏡が、ずらりと壁面を覆っていたからだ。
 間接照明が照らし出す、オシャレなパウダールームが目の前に広がっていた。女子トイレの広さはなんと、隣の男子トイレの倍。
 きれいな校舎、IT施設の充実ぶりもさることながら、このトイレの設計思想は何を語りかけているのだろう。百貨店かショッピングモールか。いや、それ以上かもしれない。最近はパウダールームが設置されている施設も見かけるが、男子トイレの倍近い面積を確保しているという施設は、少数派だろう。
 たかがトイレ、とお考えだろうか。
 私には、そうは思えなかった。


 そういえば、僕の卒業した大学では、医学部で女子学生の割合が少なかったこともあってか、「男女共用トイレ」とかがあったんですよね。
 でも、そこに女子学生が入っているのを、見たことがありません。
 女性側からみれば、それはそうだろうな、と。
 「大学は学問のための場所だから、生活環境とかについては二の次」では、もう、通用しない。
 全国の私大の半分近くは定員割れしており、しかも、2018年を境に、受験生は激減していくのです。
 学生にとって、大学というのは、勉強の場であるのとともに、生活の場でもある。
 「学生の本分は勉強である。来たければ来い」とお説教されるより、「ぜひ、うちに来てください。快適に過ごせるように配慮します」と言ってくれるほうに流れるのは自然なことです。

 大阪と銀座にオープンした料理店「近畿大学水産研究所」。
 この場所もまた、研究の成果をじかに社会とつなげることに成功した典型的な事例だろう。
 一人の近大OBがこんな感想をもらした。
「大学が商売をするというのは、従来のイメージではありえなかったでしょうね。でもそれは、近大だからできたことなんですよ。東大が同じような商売をしたら、すぐに『東大ともあろうものが、何をしているんだ』と、周囲からひんしゅくを買って怒られ、逆に評価が下がってしまうのではないでしょうか」

「天才や秀才が研究し開発した独創的な原理や技術を、実際に社会の材に変えて上手に運用していくためには、実は多くの有能な中堅実力者が必要になります。一握りの天才ではなく、何千万人という実行力のある人材が今必要とされており、だからこそ実学教育を掲げる近大の力が社会から求められているのです。中堅実力者の宝庫になるという自覚を持ち、一人の天才より百人の中堅という分厚い中間層を育てていくことが、実学教育を掲げている私たちの重要な役割なのです」
 宗像氏は「実学教育」の核心について、そう語った。

 近大の強みは、「東大を目指さない」ところにあるのです。
 全国の高偏差値の大学は、世界に冠たる斬新な研究をしたり、社会のエリートとなる人材を育てる、という「理想」に殉じ、東大と競争しなければなりません。

 
 でも、「近大」は「エリート校」ではない。
 だからこそ、「近大マグロ」を実際に食べてもらうための店を大阪・東京に実際にオープンして消費者の反応をみることを重視したし、企業との連係も積極的にすすめています。
 「近大マグロ」の店では、近大の学生が製作した器が実際に使われており、それが学生たちのモチベーションを高めている、ということでした。
 世の中をうまく動かしていくためには、「天才」だけではなく、「有能な中堅実力者」が必要なんですよね。
 これは医者の世界でもそうで、最先端の研究者がどんなに優れた仕事をしても、その成果を現場で運用する「普通の医者」がいなくては、医療は成立しない。
 そういう「中堅」を育てることも、大学の大きな役割。
 「近大」は、誇りをもって、それをやっている大学なのです。

 
 もちろん、近大が「新しいことをしていない」わけではありません。
 いまやその象徴となっている「近大マグロ」は、1948年に誕生した「水産研究所」から生まれました。
 途中で、10年以上もマグロが産卵をせず、研究の中止が検討されたこともあったそうです。
 近大には「研究費は自分で稼ぐ」という伝統があり、水産研究所で生まれた魚を、スタッフが自らトラックで市場に運び、お金を稼いでいたのだとか。
 近大は、突然上昇気流に乗ってきたようなイメージがあるのだけれど、それを支えているのは、長年諦めずに継続してきた下地があったからなのです。
 そして、その実績をうまく社会に「発信」するための仕組みも、つくりあげてきました。
 何でも「これまで通り」「広告代理店任せ」にするのではなく、大学の魅力をアピールするための宣伝広告・広報を大学内で責任をもってやっていくようにしたのです。


 この本のなかには、近大の優れた点だけでなく、「国際化への対応の遅れ」など、近大が抱えているところも紹介されています。
 しかしながら、近大はそれを隠蔽しているわけではなく、自覚し、改善していこうとしているのです。


 正直、「大学ともあろうものが、ここまで、学生にサービスして、歩み寄って良いのだろうか?」という気持ちは、今も僕にはあるのです。
 近大の卒業生たちは、社会に出て、どうなっていくのだろうか、という興味もあります。


 近大というのは、いまの大学、そして大学教育の「盲点」みたいなものを浮き彫りにしていて、多くの「エリート大学」が見てみぬふりをしてきた現実に真摯に向き合っている大学だと思うのです。
 おそらく、近大の取り組みは、他の多くの大学にも変革をもたらしていくはす。
 どんなにお高くとまっていても、受験生が、学生が集らなければ、大学は生きていけないのだから。