琥珀色の戯言

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【読書感想】スマホに満足してますか? ユーザインタフェースの心理学 ☆☆☆



Kindle版もあります。

【内容紹介】
コンピュータのハードウェアは、昔に比べて何百万倍も進化しているのに、あまり使いやすくなっているようには感じられない。
また、爆発的に普及したスマホは知的生産には不向きで、流れてくる情報を見るだけの時間潰しのツールになっている。
本来コンピュータは、人間の能力を拡大し、いつでも/どこでも/誰でも使えるツールとして構想されてきたものだ。
では、その方向に正しく進化するにはどうすればいいのか?
ユーザインタフェース(コンピュータのような機械を人間が使えるようにする仕組みのこと)の第一人者が、豊富な事例を交えながらわかりやすく解説する。


 この新書のタイトルを見た時点では、「スマートフォンのインターフェースの現時点での課題と今後の改良点について書かれたもの」だと思っていたんですよね。
 でも、読んでみると、スマートフォンの話というよりは、「ユーザーインターフェイス全般」というか、人間にとって使いやすい機械とはどんなものか?という話が、細切れに語られているのです。
 個々のエピソードには大変興味深いものはあるのですが、全体としては何が言いたいのかぼやけているというか、「スマートフォン」ってタイトルについている意味は、あんまり無いような気がしました。
 けっしてつまらなくはないんですけどね。
マイコン」の時代から、コンピュータに触れ続けてきた僕としては、懐かしい話もたくさん出てきますし。
 

 キーボードでコンピュータを操作できるようになったり、マウスを使えるようになったときにはとても感動したものですが、残念ながら最近のコンピュータの使い勝手がこれに匹敵するほど進化したのを見たことがありません。コンピュータのハードウェアは何百兆倍にも進化しているのに、使いやすさがあまり変わっていないように感じられるのはどういうことなのでしょう。もっと抜本的な進化があっていいはずです。
 これからのコンピュータは、いつでも/どこでも/誰でも/使えるようになる進化が必要です。コンピュータの使いやすさを進化させるためには、


1.人間の心理や特性を理解し
2.新しい発想を育て
3.ウェブのトレンドを理解し
4.ユビキタスコンピューティング技術を理解し
5.頭を整理することができるような
6.信頼できる安全なシステムを開発していく


ことが重要です。本書では、これらのトピックについて各章で様々な考察をしています。いろいろな工夫の結果、光の速度は無理でもせめて飛行機並みに進化はしてほしいものだと思います。


 入力装置として、まずキーボードがあって、それからマウスを使ったGUI(グラフィカルユーザインタフェース)という革命が起きました。現在のスマートフォンでは、タッチパネルによる操作が主流となっています。
 しかし、タッチパネルは、感覚的な操作に便利ではあるけれど、画面が小さいとうまく押せなかったり、たくさんの文字を入力するには向かなかったりと、けっして「完璧」ではないのです。
 音声入力はだいぶ精度が上がってきたけれど、まだまだ進化の途上だし、そもそも、いちいち声で指示を出すのが便利な状況ばかりとも限らない。
 まだまだ進化の余地はありそうなのに、なんとなく袋小路に入ってしまっている、そんな印象もあります。
 その一方で、僕より一世代下の、生まれたときからコンピュータが身近にある20歳くらいの若者たちは、キーボードを当然のようにブラインドタッチし、スマートフォンフリック入力も高速でこなしてしまうので、結局のところ、使う人間の側の進化のほうが早いのかもしれない」とも思うんですけどね。


 著者は、スティーブ・ジョブズのこんな話を紹介しています。

 スティーブ・ジョブズの考え方について書かれた『スティーブ・ジョブズの流儀』という本に、一時期アップルの社長を務めたジョン・スカリーのインタビューが載っています。スカリーによれば、ジョブズは常にユーザのことについて考えてはいたが、「マーケティング」などと称して「ユーザの声」を聞いたり評価を行ったりすることはなく、「グラフィックコンピュータを見たこともないような奴等にGUIについて聞くなんてありえないだろう」と言っていたということです。芸術家が絵を描くときにユーザグループを作ったりしないのと同じように、ジョブズが何がほしいかユーザに聞いたりしませんでした。

 斬新な発想というのは、既存のやり方の改良からは生まれにくい、ということをジョブズは理解していたのでしょうね。
 

 著者は、既存のシステム、僕などが当然のものとして使っている「新しい」システムについても、すでにさまざまな問題点が生じていることを指摘しています。

 メールというコミュニケーションシステムはかなり昔から使われ続けていますが、以下のような多くの問題点を持っています。


・確実に届くかどうかわからない
・読んでもらえたかどうかわからない
・一度送ってしまうと訂正できない
・発信者を詐称できる
・誰にでも送れてしまう(スパムを簡単に送ることができる)
・送られてきたものはすべて受け取らなければならない
・相手を知っていてもアドレスを知らなければ送れない
・テキストしか送れない
・アドレスを間違いやすい
・複数の人間で情報を共有しにくい
・秘密情報を送りにくい


 様々な工夫によりこれらの多くは解決されているのですが、複雑な情報をきめ細かく交換したり共有したりするには根本的に向いていないので、今後メールシステムは消えゆく運命にあると思われます。しかし、そのような大きな動きが顕在化しないのは、メールを完全に駆逐できる優れたコミュニケーションシステムがまだ発明されていないからでしょう。

 率直なところ、僕などは、「ようやく、メールによるやりとりも市民権を得てきたなあ」って感じだったんですよ。
 でも、開発の最先端にいる人たちは、これだけの「メールの問題点」を洗い出し、すでに、次世代のコミュニケーションツールについて考えているのです。
 ちなみに著者はフェイスブックなどのSNSやLINEについても言及していますが、「まだまだメールほど汎用に利用されてはいないようです」と述べています。
 SNSやLINEについても、それぞれの問題点はあるわけで。
 リアルタイムに近づけば近づくほど、「それなら電話でもいいんじゃない?」ってことにもなりそうですし。

 
 行きつくところまで行きついてしまったのではないか?なんて思っていた人間とコンピュータとの接点には、まだまだ改良の余地が残されているということを、あらためて考えさせられる新書です。
 次は、どのような「進化」が生まれるのか?
 まあ、僕が想像できるようなことは、もう誰かが思いついているに決まっているんですけどね。

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