琥珀色の戯言

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【読書感想】「勝つ」ための思考法〜続・勝負師の極意〜 ☆☆☆


内容紹介
13年10月に発売されベストセラーとなった『勝負師の極意』の第二弾。
ダービー5勝をはじめ、GI100勝を誇る日本を代表するジョッキー武豊が、
数々のプレッシャーをはねのけ、3600を超える勝ち星を重ねてきた理由を語る。
タフであれ、人を大事に、失敗から学べ。至言あふれるエッセイ集。


 『週刊大衆』に連載されている「勝負師の作法」を加筆・修正してまとめたもの。
 前作が発売されたのが2013年10月、キズナがダービーを勝った年の秋でした。
 で、これはその『勝負師の極意』の続編、ということなのですが、前作以後の話が時系列に並んでいるわけではなくて、連載コラムの中からピックアップしたものを収録しているようです。
 今回の『続』には、キズナのダービー前に行われた、安藤勝己・元騎手との対談も入っています。
 アンカツさんは、キズナの実力は買いながらも、「ダービーの前哨戦として、京都新聞杯を走らせたのは、ちょっと使い過ぎなんじゃないか?」と、けっこう率直にコメントされていて、武豊さんも現役騎手として馬主さんや調教師を批判するわけにもいかず、さりとて、目の前のアンカツさんに真っ向から反論するわけにもいかず、と、困ったのではないでしょうか。
 結局、キズナはダービーを勝ったんですけどね。


 この本のなかには、「アンカツ伝説」がいくつか紹介されていて、僕としては、武豊さんの思い出の馬の話と同じくらい、「アンカツさんの勝負師っぷり」が印象に残りました。
 「(競馬学校の)教官をぶん殴ったことがある」とか「先輩騎手をどついていた」とかいうような武勇伝があって、さすがの武豊さんもちょっと身構えていたら、あまりに飄々とした人で拍子抜けしたそうです。
 その武勇伝について一緒に飲んだときに本人に確かめてみると、「うん、全部、ホントだよ」という返事がかえってきたのだとか。


 安藤勝己さんについて、武豊さんは、こんな思い出を語っておられます。

 僕のことを天才騎手と呼んでくださる人もいますが、”天才”という呼び名は、安藤さんにこそふさわしいものでした。
 そしてもうひとつ。
 僕が憧れてやまないのは、物事に動じない安藤さんの生き方です。
 勝っても、負けても、いつも同じ顔です。何事にも心を動かさない平常心は、スゴイの一言です。


 あれは2008年、「天皇賞・秋」のレースでした。
 僕が乗るウオッカと安藤さんが騎乗したダイワスカーレットの競馬史に残る一騎打ちです。
 10分に及ぶ長い写真判定の間中、僕は息をするのも苦しかったのに、隣の安藤さんは飄然としたままです。
 そして、わずか2センチの差でウオッカの優勝が確定した瞬間、安藤さんは、あのいつもの笑顔で、
「おめでとう」
 と右手を差し伸べてくれたのです。
 騎手として、もう一緒に乗れないと思ったときは、どこかホッとした部分もありましたが、それ以上に寂しさが募りました。それは今も変わりません。


 あのウオッカダイワスカーレットの名牝二頭の一騎打ち、僕もよく覚えています。
 テレビ中継の画面からは、どちらが勝ったかわからず(そりゃ、写真判定で2センチ差なんて、テレビのスロー再生を観てもわかりませんよね。しかし、2センチくらいの差なら、もう同着で2頭優勝でもよかったのでは……とか、今でもちょっと思います)、確定を待っていたんですよね。
 馬にとってはG1のタイトルがかかっていますし、1着と2着では、賞金の額にも大きな差があります。
 負けた安藤勝己騎手だって、悔しかった、あるいは悲しかったと思うのだけれど。

 にもかかわらず、安藤さんは、負けたにもかかわらず、すぐに笑顔で右手を差し出してきた。


 ……怖い、こういう人は、本当に底が知れない。


 常に冷静で、あまり感情を表に出さないようにみえる武豊騎手でさえ、アンカツさんには「一目置いていた」のだなあ。
 アンカツさんといえば、ブエナビスタ桜花賞を勝ったとき、最後方から追走しているのをみて、僕は「あんな位置どりで、大丈夫なの?」と、ものすごく不安になったことを覚えています。
 最後は、測ったように差し切って、ブエナビスタが勝ったのですが、G1で、圧倒的1番人気の馬で、あんなふうに後方待機の競馬をやるなんて、すごい度胸だなあ、と。
 差し届かずに負けたりすれば、大バッシングされることは目に見えているのですから。
 ああ、でも、こういう人が、「本物の勝負師」なのでしょうね。
 武豊さんも、けっこう、「外からみていたら、感情の変化がわかりにくい人」なのです。
 さすがに、サダムパテックで久々に中央競馬のG1(マイルチャンピオンシップ)に勝ち、その翌春、キズナ日本ダービーを制覇したときには嬉しそうでしたけど。


 また、最近、ルメール騎手がTwitterをやっていたということで1ヶ月間の騎乗停止処分を受けた「調整ルーム」についての話も出てきます。

 この調整ルームというのは日本独自のシステムです。
 海外ではレースの1時間ほど前に競馬場に着いていればOKのところがほとんどで、調整ルームというのはありません。
 そもそもこの調整ルームというシステムは、不正防止の観点から導入されたものですが、1時間前でOKの海外で、不正があったという話を聞いたことはありませんから、個人的には、なくてもいいんじゃないか、と思っています。
 ただ、そこに10人いれば、10通りの思いがあるわけで――。
 小さいお子さんがいるジョッキーの中には、子供から解放されて集中できる調整ルームは助かるという人もいるし、一時期、毎年のように日本に来ていたオリビエ(ペリエ)は、
「日本にいるときは、どうせひとりでホテル暮らしだし、サウナのある調整ルームは快適だ」
 と喜んでいました。


「隔離されたほうが助かる」という人もいるんですね。
 ちなみに、武豊さんは、調整ルームについては、「義務化せず、入りたい人は入れるようにすれば良いのではないか」と仰っています。
 まあでも、馬券を買う側からすれば、日本の中央競馬が徹底して「八百長防止策」を行っているからこそ、ファンから信頼されているのも事実です。
 僕だって、贔屓の馬が理由もわからないまま惨敗したときには「八百長じゃないのか!」とか、つい口にしてしまうのですけどね。


 そして、武豊騎手は、「馬を走らせるための技術」についても、ところどころで触れています。
 「難解なパズルを解くような騎乗」という項より。

 2009年の「京都牝馬S」を勝った荒川義之厩舎のチェレブリタもそうでした。
 追い込んでは届かずの競馬が続いていた彼女の評価は6番人気。
 レース当日、先生(調教師)からいただいたアドバイスは、
「道中はリラックスさせて。左右に馬を置くと闘志を燃やすので、最後は挟まれた感じで走ってくれれば」というものでした。
 言葉にするのは簡単ですが、求められている技術はハイレベルです。
 いかにも挟まれているように思わせながら、実は挟まれずに走る――。
 つまり、まずは、インに潜り込む大胆さが必要。次に、接触しそうで、でも、させないという繊細さが同時に求められているわけです。


 武豊騎手は、この「理想」どおりのレースをして、チェレブリタはこのレースに勝ちました。
 力を発揮するための条件がものすごく厳しい馬でも、何かの拍子にうまくハマれば、「人気薄での好走」がみられることがあるのです。
「競馬に絶対はない」というのは、勝負を決める要因がとにかくたくさんあって、運の要素も大きいからなのでしょうね。
 それぞれの馬が単騎でタイムトライアルをやれば、そんなに毎回違った答えは出ないだろうと思うけれど、集団になって「レース」をすると、どうしてもさまざまなトラブルが起こってくるのです。
 「確勝」「独壇場」と言われている馬だって、その人気に応えて勝つのは、けっして簡単なことではありません。
 それだけ注目されていると、騎手にはプレッシャーがかかるし、レースでは他の馬の目標にされる。
「当たり前のように勝つ」のは、実は、すごく難しい。
 武豊騎手は、自身が騎乗しているというだけでその馬が人気になってしまうことも少なからずあり、「人気に応えて勝つこと」の難しさを知り尽くしているのではないかと思われます。
 ちなみに、これを読んでの僕の率直な感想は、「馬は、こんなにいろんな条件が整わないと勝てないのであれば、そんなものにお金を賭けるのは極めてリスクが高いよなあ」というものでした。
 今日は春の天皇賞キズナ武豊は、淀の3200mで、どんなレースを見せてくれるのでしょうか。


勝負師の極意

勝負師の極意

この本の僕の感想はこちらです。