琥珀色の戯言

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【読書感想】日本ボロ宿紀行2 ☆☆☆☆


日本ボロ宿紀行2

日本ボロ宿紀行2


Kindle版もあります。

日本ボロ宿紀行2

日本ボロ宿紀行2

内容紹介
懐かしの人情宿で心の洗濯もう一泊 !
わざわざ『ボロ宿』を探して旅を続ける著者の人気ブログ書籍化第2弾


新規書き下ろしネタも加えた新編集版 !!


★“ボロ宿”は、決して悪口でもなければ、ちゃかしたりする言葉でもありません。
湯治宿、商人宿、駅前旅館、花街の宿、街道筋の旅館、重要文化財級の宿など歴史的
価値のある古い宿から単なる安い宿まで、全部ひっくるめ、愛情を込めて“ボロ宿”と
呼んでいます。自分なりに気に入った魅力ある宿という意味なのです。


古い宿には個性があるので、宿に泊まってみるといろんな発見があります。実際の
ところ泊まるのを躊躇してしまうほどの本当の“ボロ宿”は近頃少なく、それなりに
快適な宿が多いのが実情です。
しかし、それでもどんなことが起こるかわからないという楽しみがあります。どんな
ご主人やおかみさんがいて、どんな出会いがあるのかも予測できません。結局のところ、
そのへんが大きな魅力なのではないかと感じています。


タイトルは“ボロ宿”ですが、ここで紹介している25の宿は、私が実際に泊まった結果、
気に入ったところばかりです。なかには、さすがに“ボロ宿”とは呼べないだろうと思え
る旅館もありますが、すべて魅力的な宿だと自負しています。


 この「内容紹介」にあるように、著者は「ボロ宿」という言葉をネガティブな意味で使っているわけではありません。
 歴史がある文化財的な宿、いまのビジネスホテルのように画一化されていない宿、そしてもちろん、安く泊まれるシンプルな宿。


 ただ、僕がこの本を手にとったのは、「日本の宿文化を研究したい」というような高尚な気持ちからではありません。
 日本のあちらこちら、ちょっとメインストリートや繁華街を離れたところに、「どうも旅館みたいなんだけれど、ここ、本当に営業しているの? 泊まる人が本当にいるの?」という建物を、見かけますよね。入り口のガラス戸に、旅館の名前が白文字で書かれているような。
 で、「あの中は、どうなっているのだろう?」って、僕はずっと気になっていたのです。
 宮沢賢治の『注文の多い料理店』じゃなし、そんなに気になるのなら、泊まってみれば良いんじゃない?とも自分に問いかけてみるのですが、やっぱり、いざ泊まるとなると、ネット予約ができる全国チェーンのビジネスホテルとかになってしまう。
 結局、「どんなところなんだろう?」は解決できなくて。


 この本は、そういう「ボロ宿」に泊まり歩き、それをブログに書き続けている著者が、25の宿を紙の書籍にまとめたものです(電子書籍版もありますが、スキャンして電子化しただけのものなので、ちょっと読みにくいです)。
 

 畳敷きの部屋に、家で使っているような布団が敷かれ、ご飯も豪華バイキングや海鮮料理ではなく、普通の家の晩ご飯のよう。


 岩手県一関市の勢登屋旅館を訪れたときのレポート。

 そしてついに宿を発見。駅からまっすぐ歩くと15分か20分程度だと思いますが、すごく遠く感じました。
 外観はそんなにボロくありませんが、寂れたいい雰囲気です。玄関を入って声をかけると、おっちゃんが出てきて2階の部屋に案内してくれました。部屋に荷物を置くや、おっちゃんが「トイレとかお風呂を案内しますから」というので、後をついて室外へ。廊下には明かりもなく、真っ暗。階段の電気は接触が悪いのか、ついたり消えたりしていました。
「このあたりは地震の被害はなかったんですか」と聞くと、「揺れたけれどそんなに大きな被害はなかったよ。ただ古い蔵がずいぶん崩れたね。うちも壁がひび割れたし」
 確かに壁がひび割れて少し崩れた跡も残っていました。
 お風呂は「入りたくなったら、言ってくれればすぐ準備しますから」というので、食事も済ませたのですぐに入りたいと言うと、「じゃあ10分くらいで入れますから、特に呼びには行きませんが入ってください」とのこと。
 改めていったん部屋に戻ると、なかなかの部屋です。テーブルにひじを乗せて体重をかけ、やれやれと一息ついていたら、テーブルの脚が相撲の股割のように開いてしだいに沈んでいきます。あわてて体を起こしました。
 テレビは白黒。そのほかは何の備品もなし。歯ブラシやタオルなんかもないのですが、そのへんは予想していたので特に問題はありません。しかしハンガーもないので、スーツをタオルかけにかけるなど苦心しました。
 お風呂は普通で、お湯もよく出ました。ほかの客がいないと思ったので、風呂からでがけに開けっ放しで体を拭いていると、工事のおっちゃんらしき2人がトイレにきて「こんばんは」と挨拶していきました。パンツだけでもはいててよかった。
 宿のご主人の話によると、確か昭和24年と言っていたと思いますが、戦後まもない頃の創業。その後岩手国体の開催に合わせて大規模な補修をしたそうですが、岩手国体って、いったいいつのことでしょうか。


 いまどき、白黒テレビを探すほうが、よっぽど難しいのではないでしょうか。
 ちなみに、この宿、一晩いくらで泊まれると思いますか?

 
 食事なしの素泊まりで、3000円だそうです。
 さすがに安い、とはいえ、最近のビジネスホテルもけっこう安いんだよなあ。


 台風の夜、名古屋に泊まることにした著者は、安宿が多い西口という地区をめざします。

 グーグルマップの拡大図に出ている旅館名を目当てに太閤口方面に出て、いくつか簡易宿泊施設がありそうな東山線の亀島駅方面をめざして歩きました。どんどん風と雨が強まっています。
 当初は「平和館」というのをめざしました。「1泊1800円」の部屋に「空あり」の表示が出ていましたが、見た目、鉄筋風のビルで、あまりにも普通のビジネスホテル風だったので、どうかなと思い、もう1本先の通りにある「万保旅館」にたどりつきました。
 ここいは玄関に「1泊1400円〜1700円」との貼り紙が出ている間口の小さな古い旅館で、なんとなくここに決定。ますます雨が強まり、後から食事に出かけるのも面倒なので、少し名古屋駅方面に戻ったコンビニで、398円の弁当を買ってから再び宿へ。
 玄関の引き戸を開けて中に入ると、思ったより奥に長く部屋が続いていて、ちょっとボロいアパートみたいな感じです。まあ、もともと簡易宿泊所自体が日貸しの安アパートみたいなものではありますが。
 廊下の柱にインターホンがあって、押すと「はい」と返事が。「今日泊めてください」というと、一番奥のガラス戸を開けて、女将さんらしき人が出てきました。
「ベッドの部屋と和室がありますけど、どちらがいいですか」と聞かれたので「和室にしておこうかな」と言うと、一番手前の道路際の部屋を開け、「ここが広めの和室で1700円」ということでした。


 これを読んでいて僕が心地よかったのは、著者と「ボロ宿」との距離感でした。
 著者は、ボロ宿を愛しているけれど、宿のスタッフたちとは、必要十分な時候の挨拶をかわすくらいで、自分の熱意を相手に押しつけることはありません。
 それでも、ひとりでこういう旅をしていると、こんなに周囲の人に話しかけられるものなのか、と、感心してしまうくらいの宿の人や地元の人との会話はあるのですけど。
 これらの宿が失われていくことについて、寂しさを感じてはいるのだけれど、声高に反対するのではなく、その「時代の流れ」を静かに見つめているのです。
 そして、この「瞬間」を切り取ろうとしています。
 こういう「踏み込みすぎない愛着」みたいなものって、あるのですよね。


 カラーページ満載の旅行ガイドブックには載らない「ボロ宿の世界」を垣間みることができる貴重な一冊です。
「泊まってみたほうが早いのだろうけど、ちょっと敷居が高いんだよな」という僕みたいな人に、おすすめです。