琥珀色の戯言

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【読書感想】水族館に奇跡が起きる7つのヒミツ ☆☆☆☆


内容(「BOOK」データベースより)
なぜ、奇想天外な展示が実現できる?なぜ、お客さんの満足度が高いのか?なぜ、地域まで活気付くのか?なぜ、頻繁にメディアに取り上げられる?…集客数15倍アップ7つのヒミツ。


 僕は水族館が大好きで、出先に水族館があるとなんとか時間をつくって寄りますし、水族館について書かれている本を見かけると、手にとってしまうのです。
 ダイビングをやればいいのに、なんて言われることもあるのですが、閉所恐怖症でもあり、自分で潜るのは、ちょっと怖い。
 あのライセンスをとるのは、けっこう大変らしいし、ダイビング仲間との人間関係、みたいなのもめんどくさい。
 やっぱり、水族館だな、と。


 この本の主役・水族館プロデューサーの中村元さんの著書『水族館の通になる』も以前、読んだことがあります。
 既成の水族館の展示方法にとらわれず、いかにして「お客さんに喜んでもらうか」を重視する中村さん。

 では、そもそも水族館は何のためにあるのか?
 水族館というと、楽しい場所ではある反面、勉強をしに行くところというイメージが頭の中をつきまとう。私も、小学校の頃に授業で水族館に行った覚えがある。
 これに対して中村は、「水族館は教育施設でなければならない」という考え方が、お客さんの求める水族館と実際の水族館にズレを生じさせていると主張する。
 動物園水族館協会では、水族館の目的として、「教育」「レクリエーション」「自然保護・種の保存」「調査・研究」の4つをうたっている。しかし、これは監督行政向けに提唱されたものであり、これ通りでは集客につながらないというのだ。水族館は、社会教育施設としてしっかりしていれば、お客さんは入ると思い込んでいるところがあるため、そこを変えていくべきだという。
 「莫大な投資をして、電力をいっぱい使って、何よりも生き物たちの自由を奪っておいて、その目的が子どもの理科教育だなんて、生き物たちにあまりにも失礼な話なんです。さらに、水族館側の多くが、社会教育を子どもへの理科教育や、生物学習と考えてるところが残念なんです。もっと重要な目的があるでしょ」
 中村は、水族館にいる生き物は、何よりもお客さんに見てもらうことが大事だと考える。生き物の勉強をさせるために図鑑に書いてあるようなことを読まれもしない解説板に書くよりも、まずは生き物たちを見てもらうことに、水族館の生き物の存在意義があるというもの。
 「だからお客さんに来てもらえない水族館や、来てもらえるように努力をしていない水族館は、自由を奪っている展示生物に言い訳できないダメな水族館なんです」


 「研究施設としての役割」を重視し、地道に活動している水族館の人たちが書いたものも少なからず読んでいるので、娯楽施設としての役割ばかり優先されることには疑問も感じます。
 とはいえ、「見てもらえないのなら、水族館に展示する意味なんて無い」というのは、たしかにそうだよなあ、と。
 中村さんは、マーケティングを重視し、お客さんの水族館内での行動についても検討されているのですが、サンシャイン水族館をリニューアルした際のデータでは、「3秒以上立ち止まった水槽は、全体の数の半分以下」「入館してから退館するまでの平均時間はわずか1時間」だったそうです。
 都会の水族館だから、というのはあるのかもしれませんが、お客さんは、そんなに水槽を一生懸命見ないし、説明文も読まない。
 

 そんななか、中村さんは、さまざまな常識破りの工夫をして、新しい水族館の「見せかた」を追求しつづけています。

 鳥羽水族館はリニューアル時に、混雑しすぎて通路がお客さんで詰まってしまうのではないかという問題を抱えていた。この解決策として中村が提唱したのが、順路を設けないこと。
 順路がなければ、お客さんが自ら空いている水槽から見ようとするため、混雑が解消される。それだけでなく、水族館側は、ここからここまでは日本の近海の生き物の展示、ここからは珊瑚礁にまつわる展示といった具合に展示の並びを考えなくてすむ。
 これらのメリットから、自由通路にすることを中村は提唱したのだ。
 具体的には、学校の廊下のような大きな通路を設けて、展示室を教室状に配置するというもの。お客さんは廊下のような大通路から、館内を見渡すことができ、自分が今どこにいて、どこのゾーンが空いているかが一目で分かる。移動もしやすくなり、観覧時間の配分もできるようになる、というものである。
 しかし、当時は順路が設けてあるのが当たり前で、自由通路の水族館は前例がなかった。
 「そんな水族館はない!」
 「順路を作らないと、お客さまから苦情が出る!」
 反対意見が続出。
 しかし、中村は食い下がった。
 「前例がないからやらないのでは何も解決できない。とにかく一度、自由通路にしてみよう、それでダメだったら、順路を設ければいい」


 中村は半ば強引に、自由通路にすることにした。
 すると、自由通路の効果はすぐに表われた。お客さんが1日に3万人に達しても分散され、入場制限の必要がなかったのだ。
 ある時、アメリカの水族館の館長の一行が視察に来たとき、称賛の言葉を残していった。
 「ここの水族館は、順路がないことがすばらしい。今まで誰も考えたことがなかった」

 
 「順路をなくす」だけのことを、誰も考えたことがなかったのです。
 「それがあるのが当然」だと思い込んでいて。
 なければないで、お客さんはけっこう「うまくやる」ものなのですね。
 でもまあ、こういうのって、思いついても、実行するのはかなり難しいことのはず。
 水族館というのは、公的な施設でもありますから、規模が大きくなればなるほど「前例主義」に陥りがちになります。


 中村さんは、水族館プロデューサーとして、これまで、サンシャイン水族館、おんねゆ北の大地の水族館(山の水族館)、新江ノ島水族館鳥羽水族館のプロデュースに携わっておられます。
 「水族館ファン」を自認しながら、僕はこの4つの水族館を一度も訪れたことがないのです。
 なかでも、「山の水族館」は、この本を読んでいて、いつかは訪れてみたいと思いました。
 その他の水族館は、立地的に、何かのついでに今後行く機会もありそうなのですが、「山の水族館」は、それを目的にしないと、なかなか行けそうもないのです。

 山の水族館があるのは、北海道の北東に位置する北見市留辺蘂(るべしべ)町。冬になると氷点下20度を下回る日もあるほどの極寒地域だ。
 そこにある水族館「山の水族館」が、建物の老朽化等を機に2012年7月にリニューアル。それ以来、新聞やテレビ番組等を通じて、全国から注目を浴びるようになった。


(中略)


 旧水族館時代は、地元の人々しか知らないほど知名度が低かったが、人気の高さが話題を呼び、秋頃からは全国ネットのニュース番組や情報番組でも頻繁に取り上げられるようになった。
 そして……入館者数はおよそ1年で、リニューアル前の15倍となる、30万人を達成した。


 前述した鳥羽水族館は「1日で3万人」ですから、いくら入館者数が増えたといっても、限界はあるのです。
 でも、街の規模や交通の便を考えると、北見市にこれだけの人を集める(しかも、そんなに大きな規模ではない水族館のために)というのは、ものすごいことなんですよね。
 水族館の集客効果は、地元の「町おこし」にも結びついています。


 超大型水槽はないし、ジンベエザメのような「超大型魚」はいないけれど、留辺蘂の「寒さ」を武器にした「水面が凍る水槽」や滝つぼ水槽、美しい大型淡水魚・イトウの大水槽など、「ここでしか見られない展示」が、「山の水族館」にはあるのです。
 お金がなくても、「見せかた」で、魅力的な水族館をつくることはできるのです。
 もちろん、お金をかけた巨大水槽も、僕は大好きなんですけどね。


 水族館ファンにとっては、「また行きたい水族館が増えた……」と、嬉しくなるような、困ってしまうような、そんな一冊です。

 

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