- 作者: 森川亮
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2015/05/29
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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Kindle版もあります。
- 作者: 森川亮
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2015/05/29
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内容紹介
「あれも大事、これも大事」と悩むのではなく、
「何が本質なのか?」を徹底的に考える。
そして、本当に大切な1%に100%集中する。
シンプルに考えなければ、何も成し遂げることはできない――。
LINE株式会社CEOを退任し、
動画メディアを運営するC Channel株式会社を起業した、
注目の著者が初めて明かす「仕事の流儀」!
日本テレビからソニー、そして、『LINE(旧:NHN Japan)』へ。
せっかく大手メディアや有名企業で仕事をしていたのに、なぜそんなイバラの道を選んだのだろう?
実際に給料も下がったみたいですし。
森川さんが実際に成功した後だからこそ「英断」だと言えるのかもしれませんが、もし自分の身内や友人が大手企業からそんな転職をしようとしたら、僕はまず「もうちょっとよく考えてみたら?」って言うと思います。
でも、この本を読んでみると、森川さんには、「やむにやまれぬ気持ち」があって、この道を選んできたのだなあ、と。
「戦わない」
「ビジョンはいらない」
「計画はいらない」
「情報共有はしない」
「偉い人はいらない」
「モチベーションは上げない」
「成功は捨て続ける」
「差別化は狙わない」
「イノベーションは目指さない」
「経営は管理ではない」
驚かれる人もいるかもしれません。
たしかに、これまでの常識に反することばかりです。
しかし、これらの方針はLINEを生み出したチームで今もまさに実線していることです。だからこそ、彼らはLINEを短い期間で、世界数億人のユーザーに利用されるグローバルサービスに育て上げることができたのです。
なんて「逆張り」な経営方針!
僕はけっこういろんな会社の偉い人の本を読むのが好きなのですが、ここまで個性的というか、「徹底的に逆のことをやった人」は、ほとんどいないと思います。
でも、森川さんは、これを実際にやって、大きな成功を収めたのです。
もっとも、この本によると、NHN Japanは成功ばかりを積み上げてきたわけではなく、パソコンから携帯電話にサービスの主戦場が移る際には、これまでの成功を捨てることができず、乗り遅れて低迷した時期もあったそうです。
この失敗がのちに活きます。スマートフォンという「変化の波が訪れたとき、経営陣全員が「リソースをスマートフォンに集中させる」ことに賛成。他社に先駆けてスマートフォン・ユーザーのことだけに集中する体制を整えることができたのです。
ここに、チャンスが生まれました。なぜなら、フィーチャーフォンで成功していた多くの会社が、「過去の成功」を守ろうとしていたからです。そのひとつがユーザーID。彼らがリリースしたアプリには、フィーチャーフォンと共通のID認証が必要でした。しかし、それはユーザーが求めていることではなかった。面倒だからです。事実、それらはダウンロードはされても、実際に使用される割合はきわめて低かった。
そこで、LINEの企画開発メンバーは、「電話帳こそ人間関係」というコンセプトのもと、twitterやfacebookのIDはもちろん、同じグループであるハンゲームやNAVER、livedoorのIDも排除、電話番号で簡単に認証できる、シンプルな仕組みを構築しました。これが、LINEが普及する一因となったのです。
「ユーザー登録」って、けっこうめんどくさいんですよね。
たいした手間じゃない、と運営側は考えてしまいがちなのだろうけれど、スマートフォンでゲームをしようとする際に、「ちょっと面倒なひと手間」が入ると、「ああ、やっぱりもういいや」って気分になることが多いのです。
そこで、「登録してもらって、囲い込む」よりも、極力手間を減らして、「まずは利用してもらう」ことを優先したのがLINEの成功につながったと森川さんは考えておられます。
この本を読んでいると、LINEは「ユーザー目線でみることを徹底した」サービスなんですよね。
ただ、森川さんの経営方針については、正直「けっこう無茶なことするなあ」と思うところも多々ありました。
森川さんの入社後4年で、ハンゲーム・ジャパンは日本のオンラインゲーム市場でナンバーワンとなり、森川さんが社長に就任することになったのです。
すべてが、うまくいっているはず、でした。
ところが、森川さんは、「年功序列的な給与制度」が、社員たちから覇気を失わせていることに気づき、ある決断をします。
より深刻な問題が顕在化し始めていました。
年功序列ですから、新しく入ったというだけで、ものすごく仕事ができて会社に貢献してくれる社員が、たいして仕事をしない古参社員よりも給料が低いことになる。これを疑問に思わない人はいません。しかも、なかには、自分の地位を脅かす者として、新しい社員を攻撃し始めるような人もいました。これは、おかしい。だから、僕はあるとき、こう宣言したのです。
「全社員の給料をリセットすることにしました。これからは成果を出し、ユーザーに大きな価値を提供している人から優先的に給料を支払います」
これまでの給料や肩書きをすべて白紙に戻し、全社員を査定し直して、給料の配分を変えることにしたのです。
もちろん、反対する社員が続出。社内は大騒ぎになりました。
しかし、僕は聞く耳をもちませんでした。なぜなら、大声で反対していたのは、働きに比べて給料をもらい過ぎている人だけだったからです。しかも、それは単なる感情論、論理的な話は通じないのですから、議論する必要はないと判断しました。
すごいな、この人、この会社……
これは、論理的には正しい。
会社の利益をもたらしている人が、たくさん給料をもらうのは、当然のこと、でしょう。
しかしながら、これは、あまりにもシビアな世界でもあります。
働く側にとっては、長年会社に貢献してきても、「役に立たなくなったら、使い捨てられるリスク」を感じるはず。
みんなそれぞれ生活もあるし、どんなに有能な人でも、ずっと最前線で活躍できる保証はない。
年を重ね、家族がいれば、一般的に「生活のための必要経費」は、かさんできます。
いつ見捨てられるかわからない状況で、会社のために忠誠を貫くことが、できるのだろうか?
これ、新しい会社、若い会社だからこそ、通用したのではなかろうか。
この本を読んでいて感じるのは、LINEが成功したのは、森川さんの社長としての采配の凄まじさもさることながら、こういう方針でもついてきてくれるスタッフを採用できたこと、そして彼らが、最低限は居続けてくれたのが大きかったのではないか、ということです。
同じことをしたい社長はたくさんいるのだろうけれど、いくら笛を吹いても、踊ってくれるスタッフがいなければ、「ワンマンで理想主義なだけの困った社長」にしかならなかったわけで。
いまでも、LINE株式会社に新しく入った人は少々驚くそうです。
社員同士が、本音をオブラートに包むことなく議論を交わしているからです。しかし、それは喧嘩とはまったく異なります。たとえ、厳しい意見を投げつけられても、それは自分を攻撃しているのではない。ユーザーのために真剣に「答え」を探しているのです。そこにあるのは、お互いに「いいもの」をつくるために働いているという信頼感。この信頼感がベースにあるからこそ、率直にモノを言う文化が有効に機能する。よりよいプロダクトを生み出す原動力となるのです。
逆に言えば、そのような信頼関係のない会社で、率直にモノを言う文化を推進しようとするのは非常に危険です。なぜなら、自分のために働く者同士が潰し合いを始めるからです。
LINEで、森川さんがつくってきた環境って、ものすごく厳しい、でも、本当に優秀な人にとっては、やりがいがあったのだろうな。
そういう人たちを集めることができたのが、LINEの強みだったのでしょう。
ただ、そういう会社も、安定してくれば、やはり、「馴れ合い」になったり、「年功序列」になってしまうのが必然ではあり、森川さんは良いときに社長を退くことにしたのではないか、とも思ったんですよね。