琥珀色の戯言

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【読書感想】アメリカのジレンマ―実験国家はどこへゆくのか ☆☆☆



Kindle版もあります。

内容紹介
反米/親米を超えて
変わりゆく大国の素顔をとらえる


「貧困大国」等々のアメリカ衰退論は、どこまで的を射ているのか。これからの対アジア政策、中東政策、日米関係はどうなるのか。そして“ポストオバマ”のアメリカはどこへ向かうのか――。戦後70年を機に、気鋭の文化人類学者が、「歴史認識」「政治」「社会」「外交」から、アメリカ社会の実相とダイナミズムを鮮やかに描きだす。


 僕は、町山智浩さんの『アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない』や、堤未果さんの『貧困大国アメリカ』といった「いまのアメリカ」に斬り込んだルポを愛読してきました。
 そして、「アメリカはもう斜陽だな」と、思いこんでいたのです。
 行き過ぎた新自由主義による格差の拡大や、終わりの見えない「テロとの戦い」。
 とはいえ、「アメリカの時代」の次に、すみやかに「中国の時代」が来るとも思えず。
 中国は、アメリカ以上に「急速な高齢化や貧富の格差などの問題を抱えている国」ですしね。


 著者は、「アメリカを研究したきた人間」として、次のように述べています。

 しかし、私自身の個人的な経験からすると、アメリカ以外の国や社会の情勢を見聞するにつれ、知らず知らずのうちに、アメリカに対してやや厳格になり過ぎていると気付かされる場面も少なくない。
 自由や平等といった民主主義を支える価値においても、アメリカはもちろん完全無欠ではない。しかし、他の国や地域と比べてみたらどうだろう。ブラジルやインド、中国に目を向ければ、アメリカがそれほど「格差大国」ではないことに気付くはずだ。中東やアフリカ、アジア地域の多くがアメリカよりも自由で平等とは思えない。ロシアや中南米はアメリカよりも安心・安全な社会だろうか。


 たしかに、アメリカという国は、いまや、「世界で唯一の大国」だけに、「アンチ」の対象になりやすいのは事実なのでしょう。
 そして、「世界のどこにもない、理想の国」と比較して、「ここがダメ」と批判されてしまう。
 現実に存在する国で、「アメリカよりも理想に近い国」というのは、そんなに多くはないのです。
 アメリカに関しては、貧困層や「進化論を教えないキリスト教徒が多い地域」などが採りあげられているのも目立ちます。
 日本でも、貧困層や狂信的な集団に注目して外部に「紹介」すれば「なんだこの国は……」と思われるのでしょうし。
 だからといって、「アメリカが理想国家」だとは、僕も思いませんけど。
 個人として、苦しんでいる人が多いのは事実だろうから。
 ただ、「世界でいちばん、移民希望者が多い国」(しかも圧倒的に多い)であることは、この国の「魅力」をあらわしているのです。
 だって、「他の国に移り住みたい」というのは、自分の一生を大きく左右することなのだから、それこそ、真剣に、あるいは慎重に「選択」するはずです。


 まあ、日本にとっては、「長年の盟友であり、恩人であるのと同時に、ずっと頭が上がらない相手」でもあり、なにかと言いたくなる存在ではありますよね。


 アメリカという国からみた日本や中国・韓国について、著者はこう述べています。

 歴史問題に関して、中国と韓国は「ディスカウント・ジャパン」と称される、「日本は信用出来ない国だ」とする旨のネガティブキャンペーンを、アメリカをはじめ、さまざまな地域で展開している。これに対して、日本人は憤り、呆れている。ただ、実はアメリカ国内では、そうしたキャンペーンに対して批判も結構ある。とりわけ政策決定に影響力がある人たちのなかで、中国や韓国のキャンペーンをそのまま信じる人たちはほとんどいない。むしろ懸念しているのは、そうしたキャンペーンに対して、日本の一部の政治家などが過剰反応して失言してしまうことだ。
 そうすると、その失言の部分だけに焦点が当たって、中韓やアメリカのメディアがそれを取り上げ、「日本は何も反省していない」とか、「右傾化している」という言説が広まり、結果的に中韓の術中にはまってしまうことになる。
 北朝鮮情勢などで、韓国・米国と連携を深めていかなければいけないときに、逆に、くさびを打ち込まれることになりかねない。右派の言説に引きずられた形でさまざまな過剰反応が出てきてしまうと、北東アジアにおける戦略的関係に不信感が生じる。メディアがそれを助長することで、アメリカの安全保障においても不安定要因となる。それは、実は中国が一番望んでいることかもしれない。


 アメリカからすると、「事情はわかってるから、日本よ、くれぐれも、挑発に乗って余計なことをしてくれるな」という感じなのかもしれませんね。
 まあ、アメリカだって「他の国の争いに巻き込まれたくない」というのが本音ではあるはず。
 いまは、中東だけでも目一杯なのだから。
 日本は「事なかれ主義」でいくべきか、というのは考えどころではあるのですけど、もっとどっしり構えておいても良さそうな気がします。

 とりわけ慰安婦の問題は、アメリカにとっては、過去の歴史問題というよりは、人権問題としての側面が強い。リベラル派はもちろんだが、キリスト教を重視する保守派にとっても、非常に敏感なトピックである。近年、アメリカでは、軍隊のなかでの性犯罪から、人身売買の問題、児童ポルノドメスティック・バイオレンス、セクハラまで、女性の人権問題への社会的な関心が高くなっている。慰安婦の問題も、日本の支配下にあって、本人の自由意志に反する環境下で行われたという点、いわゆる「広義の強制」こそが、アメリカにとっては問題となる。日本国内で論争となっている、政府や軍の直接的な関与がどの程度あったかという、いわゆる「狭義の強制」については、アメリカでは瑣末な問題にすぎない。

 こういうことは、「慰安婦問題」について考えるときに、意識しておくべきなのかもしれません。
 「広義の強制」という話になれば、戦時下では、「なかった」とは言いがたいし、アメリカは、そちらのほうを重視しているのです。
 こちらからすると、「じゃあ、非戦闘員も無差別に大量殺戮した原爆とか、東京大空襲はどうなんだ?」とか、言い返したくなりますけどね。
 戦争というのは、なんのかんの言っても「勝てば官軍」という面はある。


 著者は、アメリカという新しい国の、権力の腐敗や暴走を防ぐための工夫として、三つの点を挙げています。
 一つめは、中央政府を三つの府、すなわち行政府、立法府、司法府に分けたこと。
 二つめは、州政府に大きな権限を与え、中央政府の権力を相対的に弱めたこと。

 三点目は、上記二点とも関連するが、アメリカを「君主のいない共和制国家」とし、「自律したデモス=市民を主体とした民主制国家」とすることである。今日では、至極当然のことに聞こえるが、まだフランス革命以前の話である。
 もちろん、古代ローマベネチア共和国など、かつて民主制を実施した国家はあるが、それらはあくまで「都市国家」という小さな単位においてであった.独立直後の13州の領土は東海岸を占める程度だったが、それでも今日の日本以上の面積である。当時はまだ、それほど大きな国家を治めるには、強大な権力を有する「君主」の存在が当然視されていた。そんななか、権力が分散した連邦共和制、しかも「民主」で統治するなら、ほとんど暴挙と見なされたのである。
 この三点目こそが、アメリカが人類史における壮大な「実験国家」と称される所以である。


「人類史において、もうひとつの壮大な『実験国家」であるソビエト連邦は、わずか69年で崩壊している」のです。
 それを考えると、アメリカという実験は、「かなりうまくいっている」ほうなのかもしれません。


 僕は、中国やインド、ブラジルなどの勃興によって、アメリカは「落ち目」だと思っていたんですよ。

 ただし、ハードパワーとソフトパワーの個々の内実を見比べる限り、少なくとも「絶対的衰退」論は当てはまらなさそうだ。
 まず、軍事力だが、国防予算については第2位の中国の3倍、アメリカの下位7ヶ国の総額を上回り、世界全体の国防予算の3分の1を占めている。軍事技術の優位も明らかだ。米兵は世界の4分の3以上の国々に駐留し、米軍基地が海外の約700ヶ所に存在している。
 初代大統領のワシントンはその辞任演説のなかで海外との恒久的な軍事同盟を戒めた。ヨーロッパなど旧世界のいざこざに巻き込まれることを懸念したからである。しかし、1947年には南アメリカ諸国と米州共同防衛条約(リオ協定)の締結に踏み切った。北朝鮮以外に同盟国を持たない中国とは異なり、アメリカは現在、50ヶ国以上と同盟関係を結んでいる。
 経済力についても、名目GDPは第2位の中国の倍近く、国民一人当たりの名目GDPは7倍以上ある。2050年までにアメリカの人口は1億人以上増加し、労働力も40%拡大すると見込まれている。
 かたやヨーロッパでは同じ時期に人口が1億人減少するとされ、かつ経済統合は難航している。中国では労働力がすでに縮小傾向に転じ、現在、6対1の労働者と退職者の割合は、2040年までに2対1に減少するとされている。加えて、賃金の上昇に伴い、労働力が高価になっている。
 また、アメリカはシェール革命(2013年)によって世界最大の天然ガス産出国となった。近い将来、アメリカが世界最大の産油国としてサウジアラビアに代わるスイング・プロデューサー(需給調整役)になるという見方さえある。生産コストや人件費の観点から海外に生産拠点を移していた製造業のアメリカ回帰が顕著となる一方、スモールビジネスが育ち、中小企業やベンチャー企業への投資も盛んだ。


 個々の国民に関しては、「かなり酷い状況の人も少なくない」のですが、国全体としては、アメリカには、「将来性がある」と考えるべきでしょう。
 「一人っ子政策」の影響で、今後、急速に高齢化していく中国や、少子化で人口が減っていく日本やヨーロッパよりも、まだまだ人口も労働力も増えていくアメリカのほうが「発展の余地がある」のです。

 
 僕はアメリカのシンパではないのですが、まだまだ「底力」と「潜在能力」を有しており、これからもしばらくは「世界を動かす大国」であり続けることは、間違いないと思います。
 というか、全然「オワコン」じゃないよ、アメリカ。