琥珀色の戯言

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【読書感想】「学力」の経済学 ☆☆☆☆☆


「学力」の経済学

「学力」の経済学


Kindle版もあります。

内容紹介
「ゲームは子どもに悪影響?」
「子どもはほめて育てるべき?」
「勉強させるためにご褒美で釣るのっていけない?」
個人の経験で語られてきた教育に、科学的根拠が決着をつける!


「データ」に基づき教育を経済学的な手法で分析する教育経済学は、
「成功する教育・子育て」についてさまざまな貴重な知見を積み上げてきた。
そしてその知見は、「教育評論家」や「子育てに成功した親」が個人の経験から述べる主観的な意見よりも、
よっぽど価値がある―むしろ、「知っておかないともったいないこと」ですらあるだろう。
本書は、「ゲームが子どもに与える影響」から「少人数学級の効果」まで、
今まで「思い込み」で語られてきた教育の効果を、科学的根拠から解き明かした画期的な一冊である。


 「学力」の「経済学」って、教育に関しても、カネ、カネ、カネかよ……
 ほんと、なんて世の中なんだろうねえ……


 ……なんて、嘆く前に、まず、読んでみていただきたい。
 とくに、子どもの「教育」について悩んでいる親には(僕もそうです)。


 この本、タイトルは『「学力」の経済学』なのですが、内容は「経済学」というよりは、「世の中で信じられている教育についての『常識』を、実験、あるいは統計データに基づいて検証する」というものなのです。
 難しい数式などは出てきませんし、大変わかりやすく書かれています。

 先日、とあるテレビ番組を観ていたら、やはり「ご褒美で釣ること」「ほめて育てること」「ゲームを持たせること」について、その是非が議論されていました。子どもを育てる親にとっては、切実な悩みなのでしょう。
 そしてそのテレビ番組で、教育評論家や子育ての専門家と呼ばれる人たちは、満場一致で次のような見解を述べていました。


・ご褒美で釣っては「いけない」
・ほめ育てはしたほうが「よい」
・ゲームをすると「暴力的になる」


 司会者などの反応を見ても、その教育評論家たちの主張はすんなりと受け入れられていたように思います。もしかしたら、そうした主張のほうが多くの人の直感には反しないのかもしれません。しかし、教育経済学者である私が、自分の親しい友人に贈るアドバイスは、それとは正反対のものです。


・ご褒美で釣っても「よい」
・ほめ育てはしては「いけない」
・ゲームをしても「暴力的にはならない」


 私は、教育評論家や子育ての専門家と呼ばれる人たちを否定したいわけではありません。しかし、彼らがテレビや週刊誌で述べている見解には、ときどき違和感を拭えないときがあります。なぜなら、その主張の多くは、彼らの教育者としての個人的な経験に基づいているため、科学的な根拠がなく、それゆえに「なぜその主張が正しいのか」という説明が十分になされていないからです。
 私は、経済学がデータを用いて明らかにしている教育や子育てにかんする発見は、教育評論家や子育て専門家の指南やノウハウよりも、よっぽど価値がある――むしろ、知っておかないともったいないことだとすら思っています。
 本書は、その教育経済学が明らかにした「知っておかないともったいないこと」を読者のみなさんに紹介することを目的にしています。


 なぜ、「教育」と「経済学」なのか?
 「教育」に力を入れようという国や自治体は多いのですが、人にも予算にも限りがあるというのも現実です。
 では、その限られた資源を、どのように使えば、もっとも効率的に子どもたちの能力を上げることができるのか?
 それを研究するのが「教育経済学」なんですね。
 たとえば「35人学級」と「40人学級」では、子どもたちの学力に差が出るのか?という「問い」があるわけです。
 それに対して、アメリカでは、実際にその両方の人数の学級をつくって、長期にわたって子どもたちの成績やその後の人生を追跡し、結果を解析するのだそうです。
 日本だったら、「そんなの、少人数学級のほうが良いに決まっているのに、そんな『実験』に子どもたちを巻き込むのはかわいそうだ」って話になりますよね、たぶん。
 ところが、アメリカという国は、その「思い込み」が正しいのかどうかを、実際に検証してみるのです。
 ちなみに、その結果によると「(一部の特殊な集団を除けば)学級の人数を少なくすることは、あまり効果がないか、費用対効果に乏しい」そうですよ。


 「教育」というのは、日本では「聖域化」されているためなのか、「合理的な比較研究」が行われないまま、「経験」という名の思い込みが幅をきかせており、特別な人の、特別な経験がベストセラーになりやすいのです。


 この本のなかには、こんな話が出てきます。

「テストでよい点を取ればご褒美をあげます」
「本を1冊読んだらご褒美をあげます」

 
 右のうち、子どもの学力を上げる効果を持つのはどちらでしょうか。

 ハーバード大学のフライヤー教授は「ご褒美が子どもの出席や学力にどのような因果効果を持つか」について精力的に研究をされているそうです。

 フライヤー教授が実施した実験は、大きく分けると2種類ありました。
 ひとつは、ニューヨークやシカゴで行われたもので、教育生産関数でいうところの「アウトプット」、すなわち学力テストや通知表の成績などをよくすることにご褒美を与えるというものです。「テストでよい点を取ればご褒美をあげます」は、こちらに該当します。


 もう1つは、ダラス、ワシントンDC、ヒューストンで行われたもので、教育生産関数における「インプット」、すなわち本を読む、宿題を終える、学校にちゃんと出席する、制服を着るなどのことにご褒美を与えるというものです。「本を1冊読んだらご褒美をあげます」は、こちらに該当します。


 この2種類の実験のうち、子どもたちの学力を上げる効果があったのはどちらでしょうか。
 インプットにご褒美を与えると、子どもたちは本を読んだり、宿題をしたりするようになるのでしょうが、必ずしも成績がよくなるとは限りません。
 一方、アウトプットにご褒美を与えることは、より直接的に成績をよくすることを目標にしているのですから、直感的には、アウトプットにご褒美を与えるほうがうまくいきそうに思えます。


 しかし、結果は逆でした。学力テストの結果がよくなったのは、インプットにご褒美を与えられた子どもたちだったのです。


 とくに、数あるインプットの中でも、本を読むことにご褒美を与えられた子どもたちの学力の上昇は顕著でした。一方で、アウトプットにご褒美を与えられた子どもたちの学力は、意外にも、まったく改善しませんでした。どちらの場合も、子どもたちは同じように喜び、ご褒美を獲得しようとやる気をみせたにもかかわらず。


 なぜ、こんな結果になってしまったのか?
 「いい点を取ったら、ご褒美をあげるよ」のほうが、効きそうなのに。

 なぜ、「テストでよい点を取る」というアウトプットにご褒美を与えることは、子どもたちの学力に影響を及ぼさなかったのでしょうか。
 鍵は、子どもたちが「ご褒美」にどう反応し、行動したかということにありました。
「インプット」にご褒美が与えられた場合、子どもにとって、何をすべきかは明確です。本を読み、宿題を終えればよいわけです。一方、「アウトプット」にご褒美が与えられた場合、何をすべきか、具体的な方法は示されていません。
 ご褒美は欲しいし、やる気もある。しかし、どうすれば学力を上げられるのかが、彼ら自身にわからないのです。

 ああ、そういうことなのか……
 言われてみれば、子どもにとっては、そうだよなあ、と。
 こういうのって、「ご褒美目当てに勉強させるのはよくない」と考えてしまったり、どちらかの選択になった場合、結果が出ないと意味がないからと「テストで良い点を取ったらご褒美」にしてしまったりしがちですよね。
 親が手抜きをせずに、ちゃんと子どもに具体的なやりかたを示すことが大事なのです。
「とにかく勝つしかない」とかいうプロ野球の監督のコメントには「そう言うだけで勝てれば、苦労しないだろ」と思うのに、自分の子どもに同じことをしているのだよなあ。


 テレビやゲームについては、こんな分析結果が紹介されています。

 私たちの分析によると、テレビやゲームが子どもの肥満や問題行動、学習時間に与える影響は小さいことがわかりました。
 ただし、たしかにテレビやゲームと、子どもの学習時間の間には負の因果関係があることが示されています。この意味では、テレビやゲームをやめさせれば、子どもの学習時間は増えるというのは間違いではないのです。しかし、問題はその大きさです。残念ながら、1時間テレビやゲームをやめさせたとしても、男子については最大1.86分、女子については最大2.70分、学習時間が増加するにすぎないことが明らかになりました。

 そもそも、「勉強したくないから、テレビやゲームをやっている」という面もあるわけですから、ゲームを制限すれば、勉強する、というわけではないみたいです。
 ただし、このデータには注意点があって、「1日に1時間程度のテレビやゲームは、まったくやらない場合と比較して、子どもの発達に影響はない」ことが証明されているのですが、「1日2時間を超えると、子どもの発達や学習時間への負の影響が飛躍的に大きくなる」そうです。
 高橋名人の「ゲームは1日1時間!」は、科学的にも正しかったのか……


 「どの段階での教育にお金と時間をかけるべきか」に関して。

 これまでの研究が明らかにしているところによると、人々は「教育段階が高くなればなるほど教育の収益率は高くなる」と信じているようです。つまり、子どもの成功のためには、小学校よりも中学校、中学校よりも高校、高校よりも大学や大学院と、学齢が上がるほどかけるお金や時間を増やすべきだと。
 たしかに、大学や就職先選びなど大事な選択の直前をどう過ごすかが、その人の人生により大きな影響を与えるのではないかと考えるのは理にかなっています。このため人々は、子どもが小さいときはお金を貯めておき、そのお金を子どもが高校や大学に行くときに使おうとするのです。

 
 しかし、教育経済学はこの思い込みを真っ向から否定します。教育経済学の研究蓄積にはまだまだ議論が収束しないテーマも多いのですが、どの教育段階の収益率がもっとも高いのか、と聞かれれば、ほとんどの経済学者が一致した見解を述べるでしょう。


 もっとも収益率が高いのは、子どもが小学校に入学する前の就学前教育(幼児教育)です。


 「就学前教育」というのは、塾で学べるような「学力」だけではなく、「忍耐力」や「社会性」「意欲的である」というような「非認知能力」を磨く、ということも含まれており、この「非認知能力」を小さい頃に身につけているかどうかが、その後の人生を大きく左右してくるのです。
 私立の高校や大学はお金がかかる、というイメージがあるのですが、「より費用対効果を上げる」あるいは「より少ない労力で、大きな効果を得る」ためには、「小さい頃が肝心」なのです。
 それも「勉強させる」だけではなく、「しつけ」が大事。
 僕自身、「まだ幼稚園なんだから、そんなに厳しく言わなくても……」なんて妻に反論していたことを、いま、反省しております。
 もちろん、やり方に問題があったり、やり過ぎると、それはそれで悪影響も出てきそうではあるんですけどね。


 この本、本当に参考になります。
 子どものことはわからない、教育なんて、どうしたらいいのかわからない。
 もし次の機会があったら、もう少しうまくやれるんじゃないかな……というときにはもう、後の祭り。
 でも、世の中には、こういう「実験や研究にもとづくデータ」があるのです、僕も知らなかったのだけれど。
 教育の効果にだって、「エビデンス」があったほうが良いはずです。
 「子どもたちを東大に入れた、普通じゃない親」の経験則に頼る前に、まず、この本を読んでみることをオススメします。

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