琥珀色の戯言

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【読書感想】ナンバーセンス ビッグデータの嘘を見抜く ☆☆☆


ナンバーセンス ビッグデータの嘘を見抜く「統計リテラシー」の身につけ方

ナンバーセンス ビッグデータの嘘を見抜く「統計リテラシー」の身につけ方


Kindle版もあります。

ナンバーセンス ビッグデータの嘘を見抜く「統計リテラシー」の身につけ方

ナンバーセンス ビッグデータの嘘を見抜く「統計リテラシー」の身につけ方

内容紹介
『ヤバい統計学』著者最新刊!


世の中おかしな分析だらけ。


・レストランの集客にクーポンは役立つ?
失業率の増減を実感できないのはなぜ?
・ダイエットできるかどうかは統計次第?


その統計を信じるな!


大学ランキング、肥満、クーポン、失業率フットボール、物価……。
身近なエピソードを題材に、複雑な統計をやさしく“解きほぐす"。
どれが正しい分析で、どれが間違った分析なのか。
ビッグデータ時代に必須の統計リテラシーは、誰にでも身につけられる。


「ビジネスから、政治、医療、教育まで、刺激的なストーリーで分析の落とし穴を明かしてくれる」
――エリック・シーゲル(『ヤバい予測学』著者)


ビッグデータのサイズではなく分析こそが重要なのだという主張は正しい」
――トーマス・H・ダベンポート(バブソン大学教授)


「この最高に楽しくて有益な本から多くを学んだ。これは本当にお薦めだ! 」
――トム・ピーターズ(『エクセレント・カンパニー』著者)


 『ヤバい統計学』の著者の新刊。
 『ヤバい統計学』がなかなか面白かったので、期待しながら読み始めたのですが、正直、僕にはちょっと難しかった。
 いや、めんどくさい計算式とか数学的概念が出てくる、というわけじゃないんですよ。
 ただ、説明に使われている事例が、いまの日本で生活している僕には、どうも「しっくりこない」のです。
 アメリカの大学ランキングの算定方法で、ちょっとイビツな「工夫」をして、ランキングを上げようとしているところがあるとか、アメリカン・フットボールの仮想リーグでの勝敗の決め手とかは、あまり実感がわかなくて。
 『グルーポン』の損益分岐点の話は、わかりやすくて楽しかったのだけれど。


 クーポンを発行する店は、どのように利益を上げるのか。議論の出発点となるケーススタディは、グルーポンIPOを前に各地で開いた投資家向けの説明会に登場したものだ。
 ケンタッキー州ルイビルにあるレストラン「セビシェ」が、「60ドル相当の中南米料理とドリンクが25ドル」というクーポンを約800枚発行した。来店してクーポンを利用した人たちの標準的な飲食代は100ドル。60ドルをクーポンで、残り40ドルと税金、チップを自分で払う。店の取り分は40ドルと、後日グルーポンから12ドル50セントが入金される。客がクーポンの代金として前払いした25ドルは、店とグルーポンが折半する契約だ。合計で、店はディナー1人分につき52ドル50セントの収入になる。料理とサービスの原価33ドルを引いた粗利益は19ドル50セント。800枚のクーポンがすべて利用されたら、粗利益は総額約1万5000ドルになる。しかも、クーポンを使った客が再び来店する分は別計算だ。
 一見すると、セビシェが「自分ではマーケティングをいっさい行わずに、一夜にして新しい顧客を獲得できる」という結論に飛びつきたくもなる。魔術師グルーポンが、タダで客を連れて来た! しかし、このバラ色の数字をもう一度、考えてみよう。


(中略)


 セビシェは勝者なのか、敗者なのか。グルーポンの公式説明によると、提携店は明らかに勝者だ。しかし私の計算式では、クーポンが、セビシェの潜在的利益を客とグルーポンと提携店のあいだで三つに分割する。
 現実はその中間にある。クーポンの購入者には、セビシェを一度も訪れたことがない新規の客と、普段から通っているが、お得なクーポンにあずかろうという客がいる。この「新規の客」と「クーポンを持った常連客」の比率が店の収益を決め、満足度を決める。
 クーポンの常連客は47ドル50セントの損失を店に与えるが、新規の客の増分利益(この場合、客1人につき新規の客が最低2.5人来店すると、収支が釣り合う。言い換えれば、クーポン利用者の約70%が新規の客でないと採算は取れない(大変なことではないか!)


 店側にとっては、「クーポンを新規の客が利用し、常連化につながってくれること」が目的なのですが、お客にとっては「もともと常連だった人が、その店で食べるはずだった料理を、安く提供してもらえる」のがいちばん「お得」なんですよね。
 両者の利益は、相反するものとなってしまう。
 だからといって、「常連さんはクーポン禁止」というわけにはいかないでしょうし。
 そもそも、飲食店の場合は、世界中から客が集るような、ごくごくひとにぎりのレストラン以外は、どうしても「商圏」が限定されてしまいます。
 クーポンがどんなにお得でも、そのためだけに海外のレストランにまで行く人はいません。
 そのなかで、「70%が新規の客」という条件は、けっこう厳しい。
 そうやって開拓した新規の客も、クーポンを使った1回きりの利用であれば、店にとってはメリットはない。
 でも、「クーポンを使う客」の多くは、「クーポンで得をしたい人」であり、なかなかリピーターにはなってくれないのです。


 著者は、さまざまなデータを分析して、まだ知名度が低い、新しくできたばかりの店にはクーポンを出すメリットがあるけれど、それ以外の場合には、費用対効果は疑問だという考察をしています。
 アメリカで、グルーポンの業績は低迷しているようですし。
 こうして、店にもお客にもメリットがあるケースがわかってくれば、今後、ターゲットが絞りやすくなるのかもしれませんが。
 いずれにしても、当初のセールストークほど、いわゆる「Win-Win」なわけではない、ということなんですね。


 また、「ファンタジー・フットボール」という現実のアメリカン・フットボールを利用したゲームについての項は、僕にとって興味深いものでした。

 毎年シーズンが始まる前にドラフトが開催され、各チームが順番に選手を指名する。シーズン途中にトレードなどで他のファンタジー・チームと選手を入れ替えることもできる。毎週末の試合は、先発投手の獲得ポイントの合計で対戦2チームの勝敗を決める(細かいルールはリーグによって異なる)。
 ファンタジー・フットボールには、オーナ―、GM、コーチの区別はない。参加者はオーナ―とGMとしてチームを運営しながら、コーチとして指揮をとる。まさにビル・バーセルズが望んだ役割だ。ただし、戦略と戦術の決定権はFFLにはなく、現実のコーチが取った戦術のせいでFFLのチームが散々な目にあうときもある。

 
 著者は、この「ファンタジー・フットボール」について、こんな検証をしているのです。
 このゲームの結果に、より大きな影響を与えているのは、GMの仕事(どんな選手をチームに集めてくるかの選択)なのか、コーチの仕事(どの選手を試合のなかで起用するかの選択)なのか?
 僕にとって、これは大変興味深いテーマでした。
 長年の広島カープファンである僕は、黒田博樹投手が復帰した今年のカープに「優勝できるんじゃないか」と大きな期待を寄せていたのです。
 ところが、蓋を開けてみると、開幕から打線は沈黙し、リリーフ投手が打たれて接戦を落とし、なかなか波に乗れません。
 いやそろそろ調子を上げてくるのでは、と思っているうちに、もう9月。
 カープファンのあいだでは、今年就任した緒方監督の選手起用について、非難囂々です。
 僕も「もうちょっとなんとかならないのか」とは思う。
 でも、この「監督が無能だから勝てない、選手の起用法が悪い」という批判は、この20年以上、カープファンが繰り広げてきたことなんですよね。
 山本浩二、ブラウン、野村謙二郎、各監督の時代も、みんな「監督が無能」だと言っていたのです。
 もちろん、個々の試合については、そういうこともあるだろうけれど、いろんな人がやってきても、これまで結果が出ていないのは事実です。
 これは、フロントの、編成の問題ではないのか?
 ソフトバンクとか、監督が替わっても、ぶっちぎりで独走していますしね。
 工藤監督が、秋山監督よりも圧倒的に有能、というわけでもないでしょう。
 オリックスの森脇監督のように、昨年は惜しい2位だったのに、今シーズンになると「笛吹けど躍らず」という状態で、シーズン途中で退任してしまうこともある。


 統計的に分析すると、重要なのは、監督の采配力か、フロントの編成力か?
 結論はここには書きませんが、著者が出した結論は、納得できるものでした。
 興味がある方は、ぜひ読んでみてください。


 あと、こんな話も紹介されていました。

 企業は昔から、私たちの「価格健忘症」をうまく利用している。1980年代後半にマーケティングを専門とするピーター・ディクソン教授とアラン・ソーヤー教授が、スーパーマーケットの大手チェーン店と共同で、消費者が何かを購入してから30秒足らずで記憶があやふやになる過程を調べた。調査では、買い物客がコーヒーや歯磨き粉、マーガリンなど、目当ての商品をかごに入れた直後に質問をした。1ドルの謝礼を示すと、ほぼすべての人が回答に応じた。価格に敏感な消費者とより多くつかまえるために、調査は1月後半に実施した。年末年始の休みが終わり、家計を引き締める時期だからだ。人々は自分の買い物かごに入っている商品の価格を把握しているのだろうか。特別価格になっていることに気がついているだろうか。4店舗で約800人に話を聞いたところ、穏やかではない結果となった。
 スーパーで棚の前に立った買い物客は、平均12秒で次の棚に移動するが、大多数の人は自分が棚から取ったばかりの商品の価格を正確に答えられなかった。正しい価格との誤差は平均15%。5人に1人は大まかな価格を推測することさえできなかった。特別価格に対する意識はさらに薄い。調査をしたスーパーは、新聞やテレビで盛んにセールを宣伝していた。店頭でも鮮やかな黄色の「お買い得」シールを、陳列棚の白黒の値札の横に貼っていた。それでも回答者の5人中3人が、自分の買い物かごに入っている商品が特別価格になっているかどうか、わからなかった。割引額を推測してもらったところ、答えることができた人も誤差は平均47%だった。
 驚くばかりの結果だが、まだ続きがある。同じ商品を頻繁に買う人も、似たような記憶力だったのだ。調査ではさらに、1章でブランド認知度に関して言及した助成想起法に似た実験も行った。定価を思い出せなくても、割引後の価格を覚えていれば推測できるだろうと考えたのだ。そこで三つの選択肢から定価を選ばせたところ、正解率はわずか54%だった。


 「消費者は価格に敏感」だと言われるいるのですが、実際は、けっこうアバウトなものなのです。
 僕自身も、言われてみれば、そうだよなあ、と。
 スーパーなどで「目玉商品」のついでに、他の商品も買ってしまうことはよくありますが、それによって、店はトータルで利益を出すことができる。
 ということは、トータルでは、消費者は得をしている、とも言えないわけです。
 人は、けっこう「なんとなく」とか「イメージ」で動いている。
 「人間」を対象としているかぎり、現時点での「ビッグデータ」は、そんなに絶対的なものにはなりえないのです。
 どうしても、数値化、定量化できないところがあるから。


 正直、ちょっと日本人向けではない事例が多いかな、とは思いますし、内容的にも「簡単、だとは言いがたいところも多い」のですが、「ビッグデータへの盲信」に一石以上のものを投じる本です。
 どんなデータも、結局は「解釈する人しだい」ではあるんですよね。
 それは、ビッグデータでも、同じなのです。

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