琥珀色の戯言

【読書感想】【映画感想】のブログです。2016年8月より、『はてなブログ』に移行しました。

【読書感想】村上さんのところ ☆☆☆☆


村上さんのところ

村上さんのところ


Kindle版もあります(※Kindle版は「コンプリート版」として、紙の単行本の8倍の質問と回答が収録されています)。

村上さんのところ コンプリート版

村上さんのところ コンプリート版

内容紹介
選りすぐりの名問答をセレクトして、
フジモトマサルのイラストを加えた愛蔵版
何度でも読み返したい「人生の常備薬」


期間限定サイト「村上さんのところ」上で、村上春樹が3か月半にわたって続けた回答は、じつに3765問! その中から、笑って泣いて考えさせる「名問答」を473問を村上さんご自身がセレクトし、可愛くてちょっとシュールなフジモトマサルのイラストマンガ約51点を加えた待望の書籍版!
こんな内容の質問が掲載されています。


文章が上手くなるには?/ノーベル賞候補と騒がれる気分は?/なぜ人を殺してはいけない?
1Q84』に続編はあるの?/同性婚は賛成ですか?/無駄に話が長い上司をどうする?
村上作品は純文学? 大衆文学?/批判に対する心構えは?/不登校の娘をどうすればいい?
英語上達法を伝授して下さい/好きなタイプの女優は?/子どものやる気を引き出すには?
いい手紙を書くコツは?/原発はNOですか?/奥さんの機嫌が悪い時は?
生きている意味って何?/感受性の磨き方を教えて下さい/もし芥川賞をとっていたら?
映画のベスト3は何ですか?/老境で幸せに生きるには?/本当につらいときに強くなるには?
日本は戦争に近づいてるようで不安です/立派な大人になるために必要なことは?


 僕もこの『村上さんのところ』ネットで公開されていたのをずっとリアルタイムで読んでいました。

 村上春樹さんの回答を読んでいると、端々に「ちょっと意外な姿」がみられて、ちょっと嬉しくなってしまいます。
 日本の若手作家の作品をけっこう読んでいる、とか、高校時代から筒井康隆さんの小説を読んでいる、とか(僕も僕も!って言いたくなりました)、高倉健さんの『昭和残侠伝』のシリーズを歌舞伎町の映画館で観ていた時期があった、とか。


 あと、丸谷才一さんが亡くなられた際に、「所用があって通夜葬儀には参加できなかったので、後日自宅に弔問にうかがった」ということも書かれていました。
 僕は「村上春樹という人は、冠婚葬祭には参列しない主義」だと聞いていたのですが、「絶対にそういうものには関わらない」というわけではないのだな、と。
 「普通ではないところ」が強調され、「超然とした人」のようなイメージがあるけれど、それは「作られた偶像」なのかもしれませんね。

 女性を口説くのは(まあ)勝手ですが、そこで「妻とはうまくいってないんだ」みたいなことを安直に口にして奥さんを引き合いに出すのはフェアではないだろう。というのが、僕の基本的な考え方です。
 ここだけの話ですが、安西水丸さん(ご冥福をお祈りします)は「うちの奥さんはとても素敵なんだよ」と言いながら若い女の子をせっせと口説いておられました。プロです。

 ああ、なんだかとても水丸さんらしいエピソードだなあ、と。
 このサイトで書いたら「ここだけの話」にならないよ!とも思うのですが、この「プロです」には、水丸さんへの親しみが込められているような気がしました。


 そういえば、アメリカでは声をかけられるけれど、日本の紀伊國屋のレジで「村上春樹」名義のカードを使って支払いをしても声をかけられない、という話もありました。
 そのときの店員さんの内心を覗いてみたいものです。
 村上さんは、比較的「顔バレ」していないから、なのだろうか、それとも、店員さんが「これは仕事だから、知らないふりをしなくては!」と決意していたのだろうか。


 また、「批判や中傷をどんなふうに感じているのか、あるいはやり過ごしているのか?」という質問がいくつか出てきます。
 それに対する村上さんの答えのひとつが、これでした。

 こんなことを言うとあるいはまた馬鹿にされるかもしれませんが、規則正しく生活し、規則正しく仕事をしていると、たいていのものごとはやり過ごすことができます。誉められてもけなされても、好かれても嫌われても、敬われても馬鹿にされても、規則正しさがすべてをうまく平準化していってくれます。本当ですよ。だから僕はなるだけ規則正しく生きようと努力しています。朝は早起きして仕事をし、適度な運動をし、良い音楽を聴き、たくさん野菜を食べます。それでいろんなことはだいたいうまくいくみたいです。試してみてください。

 これは確かにそういうものなのかもしれないなあ、と。
 質問への答えを考えるとか、文章を書くという作業は、ものすごくエネルギーを使うもののはずです。
 ましてや、当代随一の人気作家の言葉ですから、ひとつ間違えば言葉尻をとらえられて「炎上」してしまうリスクもあります。


 この本の巻末に、サイトや書籍の関係者による、短い座談会形式の「編集後記」が収録されているのです。

誠:村上さんのスタートダッシュは猛烈でしたね。最初の一週間は一日に平均359通読んで、81通も回答しています。


寺:僕も最初は質問を全部読んでいましたけど、がんばっても一時間で150通が限界。眼が霞んですぐに追いつけなくなりました。読むだけでも大変なのに、あり得ないペース……。


誠:担当編集者が質問を粗選びしているの?って訊かれますが、物理的にムリです。一日に2000通も届く質問を全部読んでたら、ほかに何も仕事ができなくて会社クビになりますよ。


絢:村上さんが「一に足腰、二に文体」とおっしゃっていることの本当の意味を知りました。体力がないと何もできません。


寺:結局、17日間で集ったのは3万7465通……。

 
 実際にこの本を読んでいただくとわかると思うのですが、質問にはさまざまなバリエーションがあり、読んだあとしばらく考え込んでしまうようなものも少なからずあります。
 「一日に平均359通読んで、81通回答」って、厳しいノルマで知られる、Amazonのカスタマーサポートのメール処理じゃないんだから……
 こんなスピードで「消化」しているにもかかわらず、「読んでいて楽しい回答」が多いのです。
 むしろ、この厳しいスケジュールだったからこそ、村上さんが日ごろ見せたがらない「ふだんの生活」についても、そのまま書いてしまったのかもしれませんね。
 その村上さんの仕事っぷり、覗き見してみたいかも。

 
 この本を読んでいると、「村上さんは、どんな質問を選んだのか?」という興味もわいてきます。
 こういうのって、「回答」ばかり注目されがちなのですが、「この質問を紹介したい」ということで、掲載されているものも少なからずあるし、それを選んだことが、ひとつの「答え」になっているところもあるんですよね。
 実は僕も質問したのですが、今回は採用されず、残念無念。
 まあ、一生分の運を使い果たさずに済んだ、ということで、この運を競馬とかに活かそう……とするとロクなことはなさそうです。とりあえず家内安全にスキルを振り分けておくとします。


 473問って、単行本では250ページくらいだし、たいしたことないだろう、と思いながら読みはじめたのですが、この本を読み終えるには、けっこう時間がかかりました。
 これからも、ときどき思いついては、読み返すことになりそうです。
 電子書籍版は、この8倍の分量があるそうなので、一気に読むのではなく、ちょっとした時間に少しずつ読もうと思います。