琥珀色の戯言

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【読書感想】クラシック音楽のトリセツ ☆☆☆☆


クラシック音楽のトリセツ (SB新書)

クラシック音楽のトリセツ (SB新書)


Kindle版もあります。

クラシック音楽のトリセツ (SB新書)

クラシック音楽のトリセツ (SB新書)

内容(「BOOK」データベースより)
ファン目線で、これからファンになるかもしれない人が手に取って役立つ実践的な本、クラシック音楽を聴くための「トリセツ(取扱説明書)」があったらいいという発想でつくられたのが本書。クラシックへのよくある誤解解消から、コンサートの楽しみ方、生涯をかけて付き合っていく方法まで、いま大人の教養として再び注目を集めるクラシックの魅力を解説!


 クラシック音楽に、興味ありますか?
 僕自身は、何度かクラシックのコンサートに行ったことがあります。
 そのうちの1回は、すぎやまこういちさんの『ドラゴンクエストコンサート』だったんですけどね。
 思えば、小中学校の音楽の時間とアニメ『銀河英雄伝説』のBGMの他に、あらためてクラシック音楽に興味を持たせてくれたのは『ドラゴンクエスト』とすぎやまこういち先生でした。
 クラシックのコンサートって、ものすごく音の厚みというか音圧が伝わってきて、すごい迫力だなあ、と感心してしまいます。
 食わず嫌いで、実際にその場で体験してみれば、ハマる人は少なくないと思うんですよ。
 と言っている僕も、最近はすっかりコンサートからは御無沙汰、なのですけど。

 クラシック音楽を聴くことは、とても敷居の高い趣味のように思われているようです。
 これまでになんども「クラシックの音楽会はどこで開かれているんでしょうか」と尋ねられたことがあります。まるでクラシックのコンサートはなにか遠くの別世界で開かれている特殊な伝統芸能みたいなもので、普通の人は出入りできない場所のように思われているかのようです。いや、毎日数十公演が盛んに開かれていて、他の音楽ジャンルと同じように、チケットはインターネットで購入し、お近くのコンビニで発券できますよと答えると、意外そうな顔をされます。
「コンサートに正装していかなくてはいけないのでは」という心配も、なんど聞いたことかわかりません。正装する必要などないのですが、なぜかそういうものだと信じられてしまっているようなのです。
 そのほかにも「拍手をいつすればいいかわからない」とか「わからない理由が多すぎる」など、いろんな疑問を耳にします。
 本質的な楽しみ以外の周辺的なところで、大小いろいろな障壁があるというのは、あまりよいことではありません。もちろん、なにも知らずに飛び込み、経験によって少しずつその世界の常識やルールとされるものを会得していくことはできますが、そのプロセスをなるべく省略して、近道をするための「トリセツ」があれば、より多くの人がファンになれるはずです。

 この新書、「クラシック音楽に興味はあるのだけれど、敷居が高いような気がして、手が出せない」という人には、うってつけの入門書だと思います。
 クラシックは「難しい、お金がかかる」というイメージがあるのですが、CDは他のジャンルのアーティストと同じか、少し安いくらいで名演奏を入手できますし、コンサートも、一部のオペラや超有名オーケストラを除けば、そんなに横暴な値段ではありません。
 僕が住んでいるような地方都市だと選択肢が狭いのですが、東京近郊だと、かなりのレベルの生演奏が、数千円くらいで聴けるのです。


 ちなみに「何を着ていけばいいのか」「拍手をいつすればいいのか」という問いに対しては、次のような答えが示されています。

 クラシックのコンサートには正装をして行かなければならない、と勘違いしている人がなぜか多いのですが、わずかな例外を除いて、ドレスコードというものはありません。
 さすがにTシャツにジーンズというくらいにカジュアルだと多少浮いてしまいますが、レストランに食事をしに行ってもおかしくない程度の服装であれば問題ありません。現実的には、平日夜のコンサートなどは仕事が終わって直行する人が多いわけですから、職場の服装が多数派になります。といっても、スーツ姿で仕事をする人ばかりではありませんから、男性でいえばスーツ姿でもカジュアルな服装でもどちらでも大丈夫。休日はスーツ姿が減ります。
 私自身が会場で感じる印象でいえば、コンサート会場の服装は年々ゆるやかにカジュアル化しつつある傾向を感じます。

 クラシックのコンサートではいつ拍手をすればいいのかわからない」という質問はよく耳にします。答えは簡単で、「慣れないうちは、みんなが拍手をしたらいっしょに拍手をすればいい」です。初心者向けの拍手のマナーはこれがすべてといってもいいかもしれません。


 実際、コンサート会場では、よっぽど奇抜な格好でなければ、観客の服装などいちいち周囲の人は気にとめませんし(ステージの上のオーケストラの演奏を聴くのが目的なわけですから)、ちょっと周囲から遅れて拍手しても、悪目立ちするようなことはありません。
 スタンディングオベーションも、「周りがみんな立ち上がったら、よっこらしょ、と立ち上がる」くらいで、全然問題ないのです。
 そもそも、コンサート会場に、他のお客を観にきている人なんて、いないのですから。
 この2つを知っておき、会場で居眠りして大いびきをかいたりさえしなければ、座って音楽を聴いているだけ、です。
 僕の実感としては、途中で立ったり、アーティストの代わりに歌わされたりするロックコンサートよりも、ラクだと思うんですけどね、少なくともある程度以上の年齢層にとっては。


 また「入門者向きのオペラの演目」というのも紹介されています。

 世界中のどこの劇場でもくりかえし上演されており、なおかつ入門者でも親しみやすい演目となると、レパートリーは限られています。いくつか挙げてみましょう。
 ビゼーの「カルメン」、モーツァルトの「フィガロの結婚」「ドン・ジョヴァンニ」「コジ・ファン・トゥッテ」「魔笛」。ロッシーニの「セビリアの理髪師」。ヴェルディの「椿姫」「アイーダ」「リゴレット」「マクベス」「オテロ」。ワーグナーの「さまよえるオランダ人」「タンホイザー」。プッチーニの「ラ・ボエーム」「トスカ」「蝶々夫人」「トゥーランドット」。リヒャルト・シュトラウスの「ばらの騎士」「サロメ」等々。
 これらは初めて接するオペラとしてもふさわしく、なおかつなんともくりかえして見る価値のある演目です。

 後半には「おすすめのクラシックの名曲と、それが収録されたCD」が紹介されています。
 歴史に残る作曲家の、ちょっと意外なエピソードも添えられているのが、面白い。


 「癒しの曲」としてよく採りあげられる、『ジムノペディ』をつくった、エリック・サティさんのエピソード。

 しかし、サティの人物像は静かでもなければ控えめでもない。むしろ寄行が目立つ。
 自作の楽譜を権威あるパリ・オペラ座の支配人に勝手に送りつけ、相手にされないと「決闘を申し込む」と称して無理やり面会した(もちろん演奏されなかった)。恋の痛手を慰めるために、自ら大司祭となって「主イエスに導かれる芸術の首都教会」なる宗派を創設するが、信者は自分ただひとり。自作を評した気に入らない批評家に対して「低能売文業者」「許しがたい不敬と無能」「貧血気味の作家のクズ」と悪口雑言を書いた挙句、格闘騒ぎを起こして重い罰金刑をくらう。警官は先にステッキを振り上げた著名批評家にはうやうやしく接し、問答無用で小男サティを連行した。
 不器用な生き方をしたというべきか、あるいは騒動を通じて一種の名声を獲得することに成功したというべきか。
「犬のためのぶよぶよした前奏曲」というヘンな題の曲がある。サティは楽譜出版社にこの曲を提出したが、ボツにされた。そこで、後日「犬のための本当にぶよぶよした前奏曲」を書いて持ち込んだ。実にふざけている。

 あの曲をつくったのが、こんなエキセントリックな人だったとは……
 サティさん、いま生きていたら、ネットでかなり話題になってそうなキャラクターですよね。


 クラシック音楽って、「ちょっと試してみても損はしない趣味」だと思うので、興味を持たれた方は、ぜひ。
 
 

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